032_殺伐とした恋愛(嘘をつく人)問い詰める女、1024字
窓の外を叩く雨の音が、妙に耳につく夜だった。
目の前で、彼が酷くうろたえていた。
言い訳を重ねるたびに、彼の言葉は軽くなり、ボロがこぼれ落ちていく。
その無様な姿を見つめながら、私はひどく冷めた心地で、自分で決めているルールについて考えていた。
わたしは、嘘をついてはいけないとは思っていない。わたしが嘘をつかないのは、何かのときに自分を正当化しやすくするためだ。別に、清い心を持って嘘を極力つかずに生きているわけじゃない。
ただの、保身だ。
いつか自分が窮地に立たされた時、「私は一度だって嘘をつかなかった」という絶対的な盾を手に入れるために、正直者という仮面を被っているに過ぎない。
だけど、バレる嘘をつくのは許せないのだ。
私の視線に耐えかねたのか、彼は「傷つけたくなかったんだ」と、さも被害者のような顔で消え入るような声を出す。その手垢のついた免罪符が、私の神経を逆撫でした。
「騙すなら、最後迄騙しとおしなさい。それが出来ないなら最初からやらないで。そう思ってる」
感情を削ぎ落とした私の声に、彼はびくりと肩を揺らす。
「それが、利己的な嘘でも、誰かを想いやった嘘でも、同じこと。中途半端に暴かれるくらいなら、墓場まで持って行きなさいよ。……前も、解っていて騙されてあげたことが何回かあった。だけどそれはわたしのためよ。あなたを傷つけないためでも、関係を守るためでもない。わたしのために、わたしがついた嘘よ。それは、わたしが選ぶの」
そう、騙された振りをすることすら、私のエゴだ。私がそうしたかったから、そう演出しただけ。他人の優しさや都合に、私の行動を支配される筋合いはない。
彼は言葉を失い、ただ呆然と私を見つめている。その瞳には、私への恐怖と、それでも縋りつきたいという甘えが混ざり合っていた。
そんな彼の弱さを、私は誰よりも知っている。
―― わたしが信じてるのは、あなたのそういうところ
ずるくて、弱くて、私なしではすぐに足元をすくわれる、そんな不完全な人間性。
―― ……わたしが信じてないのは、あなたのそういうところ
同時に、その弱さに負けて、私に隠し事を通す覚悟すら持てない、その徹底のなさ。
私はゆっくりと立ち上がり、彼を見下ろした。
「ねえ、次はどうする? もっと完璧な嘘、用意できる?」
雨の音だけが、私たちの間に激しく響き続けていた。




