031_失恋(はたから見たらそれは)社会人、1725字
クタクタの体に染み渡るコンビニのチキンと缶ビール。
会社員2年目、仕事に少し慣れてきた僕の密かな楽しみは、週に1回、金曜日の夜にだけ立ち寄るコンビニだった。
理由は、レジに立つ彼女。
少し大きめの制服に身を包み、ハキハキと、でもどこかおっとりした笑顔で「ありがとうございました」と言う彼女に、僕は一目ぼれをしていた。
週に1回じゃ、顔だって覚えてもらえない。
そう思った僕は、作戦を立てた。こういうのは大抵曜日でシフトが決まっている。
次の週の夜、僕は毎日コンビニに行って、彼女がいるか確認した。結果彼女がいたのは月、水、金。
翌週からは、月、水、金の週3回、コンビニに行った。
少しずつ、彼女が僕の顔を見て「あ、また」というような、小さな会釈をくれるようになった。それが嬉しくて、ある日、会計の時に思い切って声をかけてみた。
「いつも遅くまで大変ですね」
彼女は一瞬驚いたような顔をして、それからパッと花が咲いたように笑った。
「ありがとうございます! 頑張ります」
―― よし、手応えはある。
そう確信して、その後もちょいちょい声を掛けることにした。
しかし、現実はそう甘くなかった。
声をかけてしばらくすると、彼女がシフトに入っていないことが増えた。
「あれ、今日もいないな……」
業を煮やした僕は、別の店員さんに、レジの時に思い切って「いつもいる女の子、最近見かけないですね」と聞いてみた。
すると店員さんは「ああ、彼女、今テスト期間中なんですよ」と教えてくれた。
なるほど、学生さんだったのか。
じゃあ、テストが終わればまた会えるはず。
僕は彼女に会いたい一心で、平日の夜だけでなく、土曜日も日曜日も、用もないのにそのコンビニへ足を運ぶようになった。
だが。
そこから、彼女の姿をまったく見かけなくなってしまった。
「……もしかして、やめちゃったのかな」
ある金曜日。会社の飲み会で、お酒の勢いもあって、僕は同僚たちにこの切ない「失恋(?)話」を打ち明けてみた。
「いやさ、よく行くコンビニの可愛い店員さんがさ、急に辞めちゃったみたいで。寂しいんだよね」
少しは同情してもらえるかと思った。
しかし、返ってきたのは、居酒屋の喧騒を切り裂くような超絶ブーイングの嵐だった。
「は!? 先輩、それマジで言ってます?」
「いやいや、キモイ。キモすぎるって!」
「行く回数増やして、声かけて、挙句の果てに土日まで張り付いたの!? 最低、それ完全にストーカーじゃん!」
容赦のない言葉が僕に突き刺さる。
「その子、先輩が怖くてシフト外したんじゃないですか? 」
「そ、そんなことない! 彼女、いつも笑顔で話してくれたし、いなかったのはテスト期間だって他の店員に聞いたから……!」
必死に言い返すものの、同僚たちの冷ややかな目線に言葉が詰まる。
「笑顔なんて接客スマイルに決まってるでしょ」というトドメの一言に、僕は完全にへこみ、自分の独りよがりな行動を深く反省した。本当に、恐怖を与えてしまっていたのだろうか。そんなつもりは全くなかったんだけど…
それからしばらくの間、僕は罪悪感からそのコンビニへ近づくことすらできなくなっていた。
季節が少し進んだ、ある休日の夕方。
最寄り駅の改札前を歩いていた時のことだ。
見覚えのある、少し小さめの後ろ姿。
ハッとして足を止めると、彼女がこちらを振り返った。その表情は、コンビニのレジで見てた顔とは全然違う、心から楽しそうな一人の女の子の顔だった。
彼女の隣には、同年齢と思われる、今風の男の子がいた。
2人は親しげに笑い合いながら、仲良く手を繋いでいる。
「……ぁ」
声にもならない声が出た。
僕のせいで辞めたのかどうかは、結局わからない。
けれど、彼女のあの笑顔の理由が僕ではなかったことだけは、痛いほどよく分かった。
僕はそっと目を逸らし、足早に改札へと向かった。
会社員2年目の、ほろ苦いというよりかは気まずい、気まずすぎる、僕の恋が終わった瞬間だった。




