021_両片想い(Answer)学生、先輩後輩、しれくれないから自分でする、1567字
後輩のあの子がいつも俺を見ていることに、最初に気づいたのはいつだっただろう。
廊下ですれ違うと慌てて目を逸らす。挨拶すると妙に嬉しそうな顔をする。話しかけると緊張しているのがわかる。
わかりやすい。
だから最初は、ただ可愛い後輩だと思っていた。でも気づけば、俺も探していた。
朝、校門の近くで。昼休みの廊下で。放課後の教室で。
見つけると、今日もいたって少し安心して、見つからないと、今日はいないのかって気になる。
そんなことを考えている時点で、もう手遅れだったのだと思う。
「お前さー」
部活帰りに、同級生がニヤニヤしながら肩を組んできた。
「また探してるだろ」
「何を」
「一年のあの子」
思わず黙った。その反応が答えだったらしい。盛大に笑われた。
「やっぱりなー」
「別に」
「別に、じゃねえよ」
周りも笑う。最悪だ、こいつらは無駄に勘がいい。
「お前、名前呼ばれた瞬間の顔が違うし」
「見かけると急に機嫌良くなるし」
「試合の日も探してたしな」
「文化祭の時なんかずっと見てたぞ」
やめろ、本当にやめてほしい。言われるたびに全部思い当たる。否定できない。
「卒業したらどうすんの」
誰かが言った。その瞬間だけ、笑い声が遠くなった。
あと少しで卒業。
当たり前みたいに会えていた時間が終わってしまう。その事実を考えるたびに落ち着かなくなる。
会えなくなるのが嫌だった。その理由を考えないようにしていたけれど、もう無理だった。
気付いたら、どうしようもなかった。あの子のことが好きなんだと思う。
先輩なのに、年上なのに、情けないくらい振り回されている。
卒業式の日は快晴だった。校庭には春の風が吹いていた。
式が終わり、写真を撮って、友達と騒いで、笑っているはずなのに落ち着かなかった。
ずっと探していた。卒業証書なんかより、記念写真なんかより、あの子の姿を。
「行かなくていいのか」
友達が言う。
「何が」
「告白」
即答される。周りのやつらが一斉に頷いた。
「早く行ってこいよ」
「逃したら一生後悔するぞ」
その言葉に背中を押される。文字通り、危うく転びそうになった。
笑い声が聞こえる。うるさい、でも、ありがとうとも思った。
校舎裏で春風が桜を揺らしていた。そこに一人で、あの子がいた。
見つけた瞬間、胸が苦しくなる。やっと会えた。そんなことで安心している自分がいる。
「あ」
彼女が顔を上げる。驚いた顔。たぶん俺も同じ顔をしているんだろう。
卒業したくないとか、もっと一緒にいたいとか、会えなくなるのが嫌だとか。
言いたいことはたくさんあったけど、でも全部まとまらなかった。
だから、一番伝えたいことだけ言うことにした。
「あー、好きだ」
彼女の目が大きくなった。
「ずっと気になってた、たぶん、思ってたより前から」
情けないことに、声が震えている。でも止まらない。
彼女は何も言わず、ただ泣きそうな顔で自分を見つめている。
「卒業しても会いたい」
一歩近づく。
「後輩じゃなくて」
もう一歩。
「俺の彼女になってほしい」
行った後の沈黙は、たった数秒だったのかもしれないけど、永遠みたいに長く感じた。
そして、彼女は泣きながら、嬉しそうに笑った。
「はい」
返事はたった一言。でもそれだけで十分だった。
嬉しくて、ほっとして、胸の奥がどうしようもなく熱くなる。
遠くで友達の歓声が聞こえた気がした。たぶん見ていたんだろう。あいつららしい。
あとで絶対にからかわれる。でも今はどうでもよかった。
春の風が吹き、桜が舞う、卒業の日。
終わるはずだった季節の中で、俺たちの恋は始まった。




