020_片思い(tell)学生、先輩後輩、告白できない、1323字
先輩のことが好きだ。
たぶん、自分が思っているよりずっと前から、気づいたら目で追っていた。
廊下の向こうに姿を見つけるだけで嬉しくなって、話しかけられた日は一日中機嫌が良くて、目が合っただけで意味もなく期待してしまう。
そんな自分を、我ながら単純だと思う。
窓から差し込む夕日が机を赤く染めている放課後の教室で、私は今日も居残りのふりをしていた。
もうとっくに終わっている課題を、何度も見返して時間を潰す。先輩の部活が終わるまで。
救いようがない。でも、ただ好きな人を思っているだけの この時間が好きだった。
先輩は優しい。誰にでも優しい。だから勘違いしてはいけない。
わかっている、わかっているのに、
「おはよう」
って言われたら嬉しいし、
「頑張ってるな」
って言われたらその一言だけでもう一週間くらい頑張れちゃう。
現金なやつだなって、自分でも思う。
たぶん私は先輩に関することだけ極端に単純になってしまう。
友達によく言われる。
「そんなに好きなら告白すればいいのに」
って。
でもそんなことできるわけない。
だって、好きだっていう気持ちは、伝えたら必ず叶う魔法じゃない。
むしろ伝えたことで終わってしまうこともある。
この関係が壊れるくらいなら、今みたいに少し話せるだけで十分だと、自分に言い聞かせる。
本当は十分じゃないくせに。
恋は怖い。
もっと話したい。もっと知りたい。もっと近づきたい。
好きになればなるほど、足りなくなって、どんどん、どんどん欲張りになっていく。
今日だってそうだった。
昇降口で偶然会った先輩が、知らない女の子と楽しそうに話していた。
ただそれだけ。本当に、たったそれだけなのに、胸が苦しくなった。
先輩が誰と話そうが私には関係ないのに。
そんな資格なんてないのに、勝手に落ち込んでる。
だから恋は厄介だ。
好きな人の幸せを願いたいのに、自分の知らない場所で笑っていることに寂しくなる。
矛盾ばかりだ。
帰り道、夕焼けの空を見上げながら考える。
もし先輩が卒業したら、もしもう会えなくなったら、もしこのまま何も伝えられなかったら、きっと後悔する。
それなのに勇気は出ない。情けない。本当に情けない。
でも、それでも、先輩を好きになったことだけは後悔してない。
だって先輩を好きになってから、世界は少しだけ明るくなった。
朝起きて、今日は会えるかな、しゃべれるかなって楽しみになり、それだけで学校に行く理由になった。何気ない毎日が特別だった。
苦しいことも、切ないこともあったけど、それでも、好きで良かったと思う。
家に着いて、制服のままベッドに倒れ込む。
携帯の画面には、今日たった一言だけ交わした先輩との会話。
無駄に何度も見返してしまう。馬鹿みたいだ。本当に。
だけどきっと、明日になっても変わらない。
先輩の姿を見つけて嬉しくなって、少し話せただけで舞い上がって、帰り道に一人で反省して、また好きになる。
そんな一日を繰り返す。
そして、きっと明日も私は先輩を好きでいるだろう。




