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002_現代_恋愛未満


 放課後の図書室。静まり返った室内には、誰かが本のページをめくる音と、窓の外から聞こえるブラスバンドのひび割れた音だけが響いていた。


 高い棚の最上段にある資料に手を伸ばしたその時、指先が触れた拍子に、厚手の専門書が数冊、バランスを崩してこちらになだれ落ちてきた。


「あ、」


 声を上げた瞬間にはもう遅く、身をすくめて目をつむる。

 だが、衝撃は来なかった。


「……危なっかしいな」


 頭上から聞こえたのは、低く、少しあきれたような声。

 恐る恐る目をあけると、私の頭を覆うようにして、遮るように伸ばされた腕が見えた。


 そこにいたのは、同じクラスの長谷川はせがわだった。

 いつも授業中は窓の外を眺めていて、話しかけても「別に」「普通」としか返さない、淡泊でそっけないはずのクラスメイト。


 彼は落ちてきた本を片手で器用に受け止めると、何事もなかったかのようにそれを棚に戻した。至近距離で、彼の整った横顔と、ほんのりと香る洗剤の匂いが鼻腔をくすぐる。


「大丈夫?」


 覗き込んできた彼の瞳と、真っ向から視線がぶつかった。いつもは冷たく見えるその瞳が、今はひどく優しく、心配そうに揺れている。


(胸のドキドキがとまらない。これはもう、恋ではなかろうか。まさか、あいつに、こんな気持ちになるなんて。)


 ただの愛想のないクラスメイト。接点なんてほとんどなくて、何を考えているのか分からない存在。そう思っていたのに。


「……うん、ありがと」


 かろうじてそれだけを絞り出すと、長谷川は「ならいいけど」と、いつものそっけない態度に戻って、先に図書室を出ていってしまった。


 取り残された私は、自分の胸に手を当てる。

 ドクドクと脈打つ音が、静かな図書室の中にいつまでも響いていた。


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