012_現代_恋愛未満
画面越しのあなたの声は、いつも優しくて、どこか現実離れしている。
まるで、深く沈んだ海の底で聞く子守唄のように、私の輪郭を曖昧に溶かしていく。
毎晩、何時間もとりとめのない話をする。
今日あった些細なこと、窓から見えた月の形、お互いの好きな音楽。でも、私たちは決して踏み込んではいけない一線を、暗黙の了解で守り続けている。
二人の間にあるこの心地よい関係は、少しでもバランスを崩せば粉々に砕け散ってしまうほど脆いからだ。
「好き」とか「愛している」とか、そんな明確で重たい感情を口にしたら、きっと目が覚めてしまう。
今この瞬間だけを切り取ったような、無責任で甘い夢の世界から、無慈悲な現実へと引きずり戻されてしまう。私には、あなたの人生を背負う覚悟も、自分の人生をめちゃくちゃにする勇気もない。ただ、このぬるま湯のようなまどろみの中に、あなたと一緒に漂っていたいだけなのだ。
だから、絶対に言葉にはしない。
どれだけ胸の奥が焦がれるように痛んでも、喉の奥まで出かかったその言葉を、私は幾度となく冷たいお茶と一緒に飲み込んできた。
「いつか、直接会って話したいね」
あなたは時々、ふざけたような、けれど少しだけ期待を滲ませた言葉を投げる。私はいつも「そうだね」と適当に笑って誤魔化すけれど、心の中では固く、冷たく決めている。
絶対に会わない、と。
画面越しの幻影が実体を持った瞬間、すべてが壊滅してしまうことが痛いほど分かっているから。あなたの髪に触れてしまったら、あなたの匂いを知ってしまったら、私はきっと、画面越しの会話だけでは満足できなくなる。すべてを求めて、すべてを壊して、そしていずれ失う恐怖に押しつぶされてしまう。
もしも現実のあなたに触れ、その本物の温もりを知った後に、あなたを失う日が来たとしたら。
多分、そのときが私の最期だ。
心臓が動いて息をしていたとしても、私の中の大切な部分は完全に死に絶えてしまうだろう。
だから今日も、私は安全な暗闇の中からあなたにほほえみかける。
決して叶わないからこそ永遠に続く、この哀しくて美しい夢のなかで。
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