011_現代_別れ(さよならと言って)
午前三時。
静まり返った寝室で、スマートフォンのバックライトが壁を青白く照らしている。
画面に並ぶのは、見慣れないアカウントからの、見慣れた彼のアプローチの形跡。
それは私が「出張で忙しい」と言われていた夜の日付と、完璧に一致していた。
きっと、わたしが把握していないだけで、以前にも幾度となくあった筈なのだ。
彼の手慣れた嘘や、不自然に途切れる連絡の言い訳を考えれば、これが初めてであるわけがない。
それなのに。
わたしが把握していると言うだけで、今回のことは以前のものとは全く違う気がするのだった。知らなければ存在しないも同然だった裏切りが、形を持って目の前に現れた瞬間、世界の色がガラリと変わってしまった。
「……何かの間違いかもしれない」
「彼だって、寂しかっただけかもしれない」
そんな言葉が頭をよぎる。けれど、どんな言葉で自分にいいわけをしたとしても、てしまった現実と知ってしまった事実が消せるわけでもない。彼が他の誰かに向けた甘い言葉は、確かにそこに存在している。
胸の奥が、痛いほど激しく脈打ちはじめた。
ドクドクと不快な音を立てる胸を片手で押さえる。眠れない程の動悸がするのは、裏切られたショックのせいじゃない。
分かっている。わたしが、あなたを少しも信じていないからだ。
もう何を言われても疑ってしまう。愛しているという言葉も、抱きしめてくれる腕の温もりも、すべてが薄っぺらな嘘に見えてしまう。そんな自分にも、彼にも、もう耐えられそうにない。
私はベッドの上に身を起こし、隣で無防備に眠る彼の横顔を見つめた。
起こして問い詰める気力すら、もう残っていなかった。ただ、この終わりのない疑心暗鬼のループから、一刻も早く抜け出したかった。
ねえ、起きて。
そして、わたしの目を見て、一度だけ。
「さようならって、言って」
あなたの口から拒絶を告げられたなら、わたしはきっと、この引き裂かれそうな胸の痛みを引き連れて、今度こそあなたの前から消え去ることができるから。




