増えていく写真
“残るはずのないものが、残っているとしたら。”
どうしますか?
部屋の整理をしていた時だった。
棚の奥から、古いアルバムが出てきた。
「……こんなのあったっけ」
引っ越してきたばかりの部屋。
前の住人の物は、基本的に残っていないはずだった。
それでも、なぜかこれだけは残されていた。
少し埃をかぶった、黒い表紙のアルバム。
手に取る。
中を開く。
——知らない写真だった。
最初のページ。
どこかの公園。
ブランコが揺れている。
誰もいない。
次のページ。
駅のホーム。
人はいるけど、全員顔がぼやけている。
「なんだこれ…」
不気味さよりも、違和感が先に来る。
誰が撮ったのか分からない写真ばかり。
風景ばかりで、人が写っていないか、写っていても顔が分からない。
めくる。
めくる。
そして、手が止まった。
——部屋の写真。
今、自分がいる部屋。
同じ角度。
同じ家具。
「……は?」
あり得ない。
この部屋に来たのは一週間前だ。
こんな写真、あるはずがない。
それも一枚じゃない。
何枚もある。
昼の部屋。
夜の部屋。
電気が消えた部屋。
そして——
“誰かが写っている部屋”
心臓が強く打つ。
目を凝らす。
写っているのは——
後ろ姿。
こちらに背を向けて立っている。
顔は見えない。
でも。
服装に見覚えがあった。
「……俺?」
次のページをめくる。
そこには——
もっとはっきりとした写真。
部屋の中で、スマホを見ている人物。
間違いない。
自分だ。
「なんで…」
手が震える。
こんな写真、撮られた覚えはない。
誰が?
いつ?
どうやって?
ページをめくる。
どんどん増えていく。
寝ている自分。
ご飯を食べている自分。
風呂上がりに髪を拭いている自分。
全部——
誰かに“撮られている”。
背後から。
遠くから。
気づかない位置から。
「……ふざけんなよ」
思わず声が漏れる。
部屋を見渡す。
誰もいない。
窓も閉まっている。
鍵もかかっている。
なのに。
確実に、“見られている”。
その時。
カタン、と小さな音がした。
アルバムのページが、ひとりでにめくれる。
ゆっくりと。
勝手に。
「……やめろ」
手を伸ばす。
止めようとする。
でも、止まらない。
ページが進む。
最後のページまで。
そして、止まった。
そこにあったのは——
“今、この瞬間の写真”
アルバムを手に持っている、自分。
驚いた顔。
震える手。
全部、そのまま写っている。
「……は?」
あり得ない。
今、撮られたばかりの写真。
でも——
誰もいない。
シャッター音もしていない。
なのに、確実に存在している。
写真の中の自分が——
ゆっくりと、顔を上げる。
目が合う。
その瞬間。
ゾッとする。
写真の中の“自分”の後ろ。
そこに——
何かが立っていた。
黒い影。
人の形。
でも、顔がない。
じっと、こちらを見ている。
「……っ!」
反射的に振り返る。
誰もいない。
もう一度、アルバムを見る。
さっきの写真。
そこには——
“振り返った自分”が写っていた。
そして。
その後ろに。
今度は、はっきりと——
“それ”が、近づいていた。
⸻
アルバムを閉じる。
息が荒い。
手が震える。
もう見たくない。
なのに。
どうしても、気になる。
ゆっくりと、もう一度開く。
最後のページ。
写真が——
増えていた。
そこに写っていたのは。
床に落ちたアルバム。
そして——
何かに、首を掴まれている自分の姿。
読んでくれてありがとう。
“記録”は、真実を残すもの。
でも、それが今を映し始めたら——
それはもう、ただの記録じゃない。
次回——
「同じ時間に鳴る電話」




