同じ時間に鳴る電話
“それは偶然じゃない。繰り返されているだけ。”
最初は、ただの間違い電話だと思っていた。
——23時17分。
その時間になると、必ずスマホが鳴る。
知らない番号。
出ても、何も聞こえない。
「……またか」
通話履歴を見る。
昨日も、一昨日も、その前も。
全部、同じ時間。
23時17分。
(気味悪いな…)
ブロックしようかとも思った。
でも——
なぜか、できなかった。
⸻
三日目。
いつも通り、23時17分。
着信。
深く息を吸って、通話ボタンを押す。
「……もしもし」
無音。
だけど、今回は違った。
微かに、音がする。
——ノイズ。
ザー……ザー……
耳を近づける。
「誰だよ…」
その時。
ノイズの奥から、声がした。
『……けて』
一瞬、聞き取れなかった。
「は?」
『……すけて』
助けて?
誰かが、そう言っている。
「どこにいる?」
思わず聞き返す。
返事はない。
でも。
代わりに——
“音”が聞こえた。
ドン。
ドン。
ドン。
何かを叩く音。
壁か、扉か。
閉じ込められているような音。
『……ここ』
かすれた声。
『……くらい……せまい……』
「どこだよ!場所言え!」
焦りが募る。
でも、返ってくるのは断片的な言葉だけ。
『……でられない……』
ドン。
ドン。
ドン。
音が強くなる。
「落ち着け!誰か分かるか!?」
沈黙。
そして——
ゆっくりと、はっきりした声。
『……おまえ』
「……え?」
嫌な予感がする。
『……おまえだ』
背筋が凍る。
「何言って——」
ブツッ。
通話が切れた。
⸻
その夜は、ほとんど眠れなかった。
頭の中で、あの声が何度も繰り返される。
——おまえだ。
意味が分からない。
ただの悪質なイタズラだ。
そう思おうとする。
でも。
どうしても、引っかかる。
⸻
翌日。
仕事から帰る。
時計を見る。
23時16分。
(……来る)
スマホを握る手に、力が入る。
——23時17分。
着信。
同じ番号。
深呼吸。
通話ボタンを押す。
「……もしもし」
すぐに声が聞こえた。
昨日より、はっきりと。
『……やっと出た』
ゾッとする。
「お前、誰だよ」
『……ずっと、待ってた』
「どこにいる?」
沈黙。
そして。
ゆっくりと。
『……そこだよ』
「は?」
意味が分からない。
その瞬間。
ドン。
背後で音がした。
振り返る。
誰もいない。
でも。
確かに、聞こえた。
ドン。
ドン。
今度は、はっきりと。
音の場所が分かる。
——廊下の奥。
あの部屋。
「……まさか」
足が勝手に動く。
電話を握ったまま、廊下へ向かう。
ドン。
ドン。
中から、音がしている。
『……ここだよ』
電話の声と、音が重なる。
「ふざけんなよ…」
震える手で、ドアノブを掴む。
ゆっくりと回す。
開く。
⸻
暗い部屋。
何もないはずの空間。
でも——
中央に、スマホが置かれている。
画面が光っている。
通話中。
自分のスマホと、繋がっている。
「……なんで」
一歩、近づく。
その瞬間。
スマホのスピーカーから、声が響く。
『……やっと来た』
同時に。
背後で——
気配。
振り返る。
誰もいない。
でも。
すぐ近くに、“何か”がいる。
見えないのに、分かる。
息がかかる距離。
「……っ」
動けない。
その時。
手に持っていたスマホが、震える。
画面を見る。
通話相手の表示。
——“自分の番号”
「……は?」
スピーカーから、もう一つの声が流れる。
それは——
自分の声だった。
『……出るなって言っただろ』
思考が止まる。
『……その時間に出たら、入れ替わる』
血の気が引く。
「なに……言って——」
言い終わる前に。
視界が、歪む。
足元が崩れる。
意識が、落ちる。
⸻
目を開ける。
暗い。
狭い。
動けない。
手を伸ばす。
硬い壁に当たる。
(……ここは)
理解した瞬間。
スマホが震えた。
手元にある。
画面を見る。
時刻は——23時17分。
着信。
相手は——“自分”。
震える手で、通話ボタンを押す。
「……もしもし」
スピーカーから、声が流れる。
それは——
さっきまでの、自分の声だった。
『……助けて』
読んでくれてありがとう。
繰り返される時間。
同じ出来事。
それは“偶然”じゃない。
次回——
「戻れない部屋」




