↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/6

若き狩人とお姫様

とある王国の大きな森に、三人の若い男女が入って行った。親の縁で子供の頃からの友人だった三人は、親の影響で三人も狩りを生業にしていたが、今日は三人中一人に、残りの二人が付き合わされる形で森の中を歩いていた。

「そっちに何かあったか?」

双刀の男が、クロスボウの女狩人に聞いた。

「何もない。やっぱりただの噂なんじゃないのかな。」

クロスボウの女狩人が答える。そして弓を背負う若者は二人が、話している間も地面の砂や草むらを掻き分けていた。

「なあ普通に狩りをしないか?一週間も探して見つからないなら、居ないって。」

双刀の男が若者に促すが、若者は首を横に振った。

「爺ちゃんが昔会ったと話してたんだ。きっと今もこの森のどこかに居る。」

「それで、あったのか?」

「何の?」

「お前の祖父が会ったっていう「寂しがり屋の魔女」の手がかりだよ。」

「いや。全然だ。魔法で姿を消しているのかも知れない。」

若者は草を掻き分けながら答えた。双刀の男はため息をつく。

「なあ、お前は本当に居ると思ってるのか?その魔女ってやつがさ。お前は昔から本を読んでるから影響されすぎてないか心配になるぜ。」

「爺ちゃんが嘘をつくはずない。」

若者は立ち上がって二人の方に顔を向けて話し始めた。

「そりゃ僕だって爺ちゃんから聞くまでは幽霊とかなんてただのおとぎ話ぐらいにしか思っていなかった。だけど爺ちゃんはいつも森の奥にある幽霊の町の話をしていた。そして僕にこんなことも言っていたんだ。「もし寂しがり屋な魔女と会ったら、友達になってやれ。」って。」

亡くなった祖父の話をする若者の目はまるで夢追い人のようにキラキラしていた。

「爺ちゃんはこの時期になるといつもこの話をしていたんだ。だからこの秋季に森の中を探せば絶対居る!」

「はあ…」

だるそうにクロスボウの女狩人は反応する。生き生きとする若者に対して二人はあまり信じてないのが見て取れた。

「別にお前のおじさんを疑うわけじゃないけどさ。おじさんが森の中で昼寝して夢見てたとかじゃないのか?」

「それこそ絶対にないよ。爺ちゃんはテント内での熟睡以外では森の中で寝ない。」

そう言うと若者は魔女の痕跡探しを再開した。

「確かにあなたのお爺ちゃんは弓の名手ですごい人だったって、お父さん達から聞いてるよ。だけど歳も歳だったから、孫のあんたに何か面白い話したいっていう理由でおかしな話を作っただけじゃ…」 

「おぉっ!」

二人が推測を話している途中で若者は遮るような声を上げた。

「どうした?まさか手がかりがあったのか?」

「そのまさかだよ!」

そう言って若者が指差したのは、人の足跡だった。小股の幅なので、足跡の人物は女性だった。

「これは魔女の足跡に違いない!いや、きっとそうだ!」

「あ!おい待てって!」

双刀の男の声も聞かずに若者は足跡が続く道を辿っていく。二人も仕方なく彼の後を追いかけて行った。

「足跡は結構新しい。まだ近くに居るぞ!」

足跡を調べながら若者は更に辿っていく。残りの二人は周りを見るが、やっぱり怪しいものは何もなかった。

「何も居ないし、足跡は普通に散歩してる人のじゃないのか?」

「いや。絶対に魔女だ!」

「そうは言うけど、根拠はあるの?」

「無い!でも女性らしい足跡と言うことは、魔女だ!」

根拠の無い事をキッパリ言い切る若者。それだとこの世の女性は皆魔女でしょ?とクロスボウの女狩人が言いかけた時、どこからか「グルルルゥゥ!」と獣の唸り声が聞こえてきた。

「しゃがんで。」

すると魔女探しに集中していたはずの若者が瞬時に二人に指示を出した。三人はしゃがんで周囲を見回す。すると少し離れた木々の間から一匹の狼が現れた。その狼は体は普通の成体よりも大きく、唸りながら辺りを歩いていることから既に獲物を見つけて探しているのが分かった。

「どうする?一気に畳み掛けるか?」

「それだとすぐに逃げられる。人里へ行くのは避けたい。」

「じゃあどうするの?」

女が聞くと、若者は忍び足で狼の後ろに回った。そして背中の筒から矢を一本取ると弓の弦を引いた。そして物音に気づいた狼が振り向いてきた瞬間、彼の弓から矢が放たれた。放たれた矢は狼が襲いかかるよりも先に狼の鼻先にグサッと刺さった。矢は鼻先から頭蓋を貫き、狼は短く悲鳴を上げた。

一瞬、暴れるように体を震わせたが、すぐに前脚が崩れ、やがて重い体が地面に沈んだ。土埃が舞い、森が再び静けさを取り戻した。

「群れの気配も無い。ひとまずは安心だな。」

狼の死体と周囲を確認して若者は言った。

「しかしこの狼は何を追いかけていたんだ?群れじゃないということは、そんなに大きい獲物ではないんだろうけど。」

クロスボウの女狩人が言っていると、若者は「待て。」と静かにするように促した。近くの草むらからガサガサと音が聞こえていた。

「誰かいるのか?」

若者は弓を構えたまま音がする草むらへと近づいた。

「わあ!待ってください!違います!」

若者が弦を引こうとしたと同時に突然草むらから革製の服を着た一人の人間が両手を上げて出てきた。黒いショートカットで青色の瞳をした、若者と同じくらいの年頃の女性だった。

「驚かせてしまい申し訳ありません。森を散策していたら狼に追いかけられてて。」

「なるほど。だからあの狼は何かを探すように歩いていたのか。」

「はい。あの、もしかしてあの狼を狩ってくれたのですか?」 

「ああ。それが仕事だから。」

若者が弓をおろしながら答えると、女性は安心した笑顔を向けてきた。

「助かりました!少し散歩のつもりで町から来たのですが、気付いたら迷ってしまったんです。」 

「礼ならいらないよ。それよりこの森は日が落ちると本当に暗いから昼間でも一人で行くのはやめておいた方がいいよ。」

「はい。次からは侍女…じゃなくて友人と一緒に行きます!そうだ!」

女性は帯刀していた刺剣を外して若者の前に出した。

「あいにく持ち合わせが無くて……これで良ければお礼として受け取ってください。」

「え?でもこんな高そうな物を……」

「命の危機を救われたのです。これくらいの事をしないと、私の気がすみません!」

「むう…そこまで言われたらなぁ。」

笑顔でそう言ってくるので、若者は女性の手から刺剣を受け取った。派手な装飾の無い洗練された、白銀の刺剣だった。

「そろそろ日が落ちてきたな。よかったら家まで送ろうか?」

「ご心配なく。町はここから近くなので。それでは!」

そこまで言うと女性は森の外へと走り去って行った。

「それにしてもこの辺りじゃ見かけない顔だったな。どこの人だったんだろう。」

「さあね。もしかすると最近引っ越してきたのかしら?」

女性の話をする双刀の男と女狩人の横で、若者は刺剣をじっと見つめていた。

「にしても随分良い物貰ったな。換金するのか?」

双刀の男が冗談で聞くと、若者は溜め息をついた。

「魔女じゃなかったかあ……」

「え?」

「足音からして魔女かと思ったのに……まあ、狩人の仕事をこなしてるから良しとするか!」

そう言って若者は刺剣を腰に納めた。

「それよりさすがにもう帰らない?本当に日が沈んで来たよ。」

「そうだったな。では帰ろうか。」

結局その日は魔女は見つからず、若者は仕留めた狼の毛皮や肉を三人で分けあって家路につくのだった。近いうちに不思議な世界に誘われる事も知らずに。


◇


とある町に、大きな城が建っていた。その城には王様と姫、そして兵士と召使いがいた。国としては少ない方だったが、敵対国が無い平和なこの国を守るには充分過ぎた。そんな城の中を慌てた様子で侍女が走っていた。

「姫様!」

侍女がある部屋の扉をバッと開けると、中に居た女性がビックリしていた。彼女こそこの城に住んでいる王国のお姫様、サファイア姫だった。

「と、突然どうしたんだ?」

「どうしたじゃありません!またお城を抜け出しましたよね?」

机で読書をしていたサファイア姫はビクッと震えた。

「な、何の話かな~?私は今日はずっと読書をしていましてよ?」

「嘘を仰らないでください!いつも空き巣に来ていた盗人が「お姫様居ないけど何かあったのか?」と捕まった時に言っていましたよ!」

(ギクッ!そういえば窓開けたまま出たんだ!)

「その反応にその表情……やっぱりまた抜け出してたんですね?」

「……はい。」

サファイア姫は午前中城を抜け出して森へ散歩に行った事を正直に明かした。

「姫様!あの森は野生動物も出てくるからお一人でお外に出ないでくださいといつもお伝えしているではありませんか!」

「だ、だって!毎日毎日勉強読書勉強読書の繰り返し!たまに外に出れると思ったら貴族との謁見……!こうでもしないと好きなように外の世界を散策出来ないんだもん!」

「子供じみたわがままは控えてください!もういなくなる度に私も兵も心配で心臓の脈が止まりそうになるんですからね!」

「でも……」

「でもじゃありません!」

その後もサファイア姫は侍女にこっぴどく説教されるのだった。

「とにかく!次お外に出るのであれば護衛を付けるので一声お掛けください!分かりましたか?」

「……分かった。」

サファイア姫が了解すると、侍女はやっと部屋から出て行った。

「……さて。次はバレないようにもっと工夫しないとな。」

すっと表情を切り替えて顔をあげるサファイア姫。くるっと窓の外に目を向けた。小さな城下町では近々催されるハロウィンのお祭りの準備で夜も人で賑わっていた。

(いよいよ明日か。それにしても今日は本当にダメかと思った。あの狩人の助けがなかったらどうなってた事やら……あ!)

祭りと今日の出来事を考えていたサファイア姫は何か思い出したようにハッとした。

「そういえば贈り物はしたが、ちゃんとお礼を言えてないじゃないか!あ、でも兵士達ならいつも居る場所を教えてくれるかもしれない。よし。まずは兵士に名前を……あ!」

お礼を言いに行こうと思ったらサファイア姫だが、肝心な事を忘れていた。

「私とした事が!名前を聞きそびれたぁ!」

はぁ……と溜め息をつくサファイア姫。しかし後悔しても後の祭りだった。

「よし!明日もこっそり抜け出そう!あの人は狩人らしかったからあの森に行けばまた会えるかもしれない。そして今度はちゃんとお礼を言って、それから……」

こうしてまた城を抜け出す作戦を立て始めるサファイア姫。だが彼女にもまた、あの森で危険が待っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。