第一幕 二十六
夕食のあと、華は女の後について奥の部屋へ入った。
三人は戸の外の低い段に腰を下ろした。昨日から一緒に歩いていた男が革の袋を傾け、小さな杯へ酒を分ける。
薄い酒が、仕事のあとで乾いた喉へ落ちた。
「明日は、今日見ていない畑際から回る」
もう一人の男が言った。
「今日の跡だけでも、一頭分じゃない」
「早いうちに出る」
レオンは杯を持ったまま頷いた。
畑へ抜けた跡は、外側だけでもまだ残っている。
「それにしても、この時期に畑際まで出るか」
革の袋を持つ男が言った。
「出ないな」
「外へ出てる数が多い」
杯の酒が、少し揺れた。
「奥で何か動いたか」
「大きいのが入ったなら、跡が残る」
「まだ、見てない」
レオンは家並みの向こうの暗がりを見る。明日も、生息域の奥へは入らない。
「なら、外から見る」
もう一人の男が杯を置いた。
*
戸が開き、女が片づけた皿を抱えて出てきた。
「今日はどうだった」
「まだ、何日か見る」
レオンが答えると、女は頷いた。
「明日も頼むね。飲み過ぎないでよ」
道の向こうから、土のついた男が歩いてきた。女はそちらを見た。
「おかえり」
男は片手を上げ、女の抱えた皿を受け取る。三人へ軽く頷いてから、女と一緒に戸の中へ入った。
革の袋を持つ男が、その背を見送った。
「あの人、好みなんだよな」
「言ってみればいいだろ」
「相手してくれるかね」
「向こうも気に入ればな」
男は肩を動かし、革の袋をもう一度傾けた。
「薄いな」
「飲まないよりましだ」
*
杯へ酒が足されてから、革の袋を持つ男がレオンを見た。
「で、あの娘はどうするんだ」
「またそれか」
「気になるだろ。街の外で見つけて、宿に置いて、今度はここまで連れてきた」
「帰りも一緒なんだろ」
「そのつもりだ」
男は杯の縁を指で拭った。
「帰ったあともか」
レオンは答えなかった。
「言葉は、少し拾うようになってるな」
もう一人の男が、戸の奥へ目を向けた。
帰ったとき、女は華へ畳んだ布を渡していた。華は受け取り、端を揃えていた。
自分がいない間にも、二人でやっていたらしい。
「覚えるのが早い」
「見てるからな」
杯の酒は、もう半分も残っていない。
「明日も早い」
レオンは残りを飲まず、杯を段へ置いた。
戸の奥では、物を置く小さな音がした。
明日は、まだ見ていない畑際から回る。




