第一幕 二十二
朝、華は食堂の卓にある水差しを見た。
底に、少しだけ水が残っている。
黒い板の水の印のそばには、前より小さな形が増えていた。
レオンは荷袋の紐を結んでいた。華は水差しを持ち上げ、空いた杯を指す。
「レオン。ミァ」
レオンは手を止めた。水差しと杯を見てから、頷く。
水差しを受け取ると、レオンは入口と自分を指した。
「イサ」
レオンが外へ出る前に、何度か聞いた音だった。
華は頷いた。
*
午後、宿の奥の卓に、レオンのほかに二人の冒険者がいた。
卓の上には、広げた紙と、荷袋が三つある。
「ベリカから、間引きの口が来た」
向かいの男が、紙の端を押さえた。
「生息域側まで入る。集落の連中だけでやるには数が多い」
もう一人が、腰の道具を見下ろした。
「三人で回せば足りる。集落の近くで泊まることになる」
レオンは紙へ目を落とした。ベリカへは前にも行ったことがある。日帰りの範囲ではないが、街道も泊まる場所も分かっている。
「行く」
男たちは頷いた。紙が畳まれ、卓の上の荷袋がそれぞれ持ち上がる。
*
華は離れた卓から、その様子を見ていた。
レオンと、知らない二人が話している。声の中に分かる音はほとんどない。
けれど、荷袋が三つあり、レオンはいつもの外出より多くのものを腰へ入れていた。
男たちが去ると、レオンは華の方へ来た。
部屋へ戻ると、レオンは自分の荷袋を開いた。その脇には、畳んだ外套と、食べ物を包んだ布がある。華の布袋と、黒い板、水袋を順に見た。
いつもの外出より、荷が多い。
レオンは自分を指し、外を指す。次に、華と、華の布袋を指した。
「イサ」
華はその手を見た。
今日のうちに戻るときの荷とは違う。自分にも、布袋を持って行くかと聞いているらしい。
華はレオンを見た。
「イサ」
それから、布袋を取った。
黒い板と白い棒を入れる。水袋を確かめ、口を締める。
レオンは短く頷いた。
*
翌朝、城門の前には、昨日の二人がいた。
一人は背に長い包みを負い、もう一人は肩から革の袋を提げている。二人とも、レオンの荷袋と華の布袋を見た。
「その娘も来るのか」
レオンは華を見た。
「集落までだ」
華には、二人の言葉は分からない。
ただ、レオンが自分を見て、城門の外を指した。
華は頷いた。
門の向こうには、前に通った街道が続いている。
レオンが歩き出す。二人の冒険者も、そのあとへ続いた。
華はレオンの半歩後ろで、城門をくぐった。




