第一幕 十五
乾物屋の前には、朝から麻袋が積まれていた。
レオンは店主と短く話し、荷車の方を指す。
華は、袋の口を確かめてから、一つを持ち上げた。
前にも運んだことがある重さだった。肩へ寄せ、荷車の端へ置く。店主の甥が奥から別の袋を受け取り、並べ直していく。
レオンが次の袋を持ち上げる。
華は、その隣の袋へ手を伸ばした。
何をどこへ運ぶ仕事なのか、全部は分からない。それでも、空いた場所へ運び、置いた袋が邪魔にならないようにすることは分かる。
途中で、店主が何か言い、荷車の奥を指した。
華には長い声の意味は取れない。
けれど、その中にレオンの名があり、次に華の名があった。
レオンが荷車の奥を見て、華を見る。
華は頷き、残っていた小さい袋をそちらへ運んだ。
昼までには、店の前が空いた。
*
店主は革袋から硬貨を出した。
レオンの掌へ、何枚か置く。
いつも見るやり取りだった。
店主は残った一枚を、華へ向けた。
華は動かなかった。
店主は華を指し、さっき運んだ袋の方を指す。短い声を言って、硬貨を差し出したまま待つ。
レオンは横から手を出さなかった。
華を見るだけだった。
華は硬貨を受け取った。
掌の上で、金属が小さく鳴る。
重さも、価値も分からない。けれど、店主がレオンへ渡したものと同じだった。
店主は頷き、店の中へ戻っていく。
*
宿へ戻ってから、華は部屋で布袋を開けた。
黒い板。白い棒。鍵。
その下に、日本の財布がある。
華は財布を開いた。紙幣も、硬貨も、カードも残っている。
どれも、ここでは渡せない。
新しく受け取った硬貨を、財布の脇へ置く。
同じ金属でも、少し形が違う。
華はしばらく見比べてから、その硬貨だけを布袋の内側の小さなポケットへしまった。
部屋を出ると、廊下の先にレオンがいた。
レオンは荷袋の紐を結び直している。
華が近づくと、顔を上げる。
華は布袋を軽く押さえた。
何かを説明する言葉は、まだない。
ただ、自分が運んだ袋のあとに、あの硬貨が手元へ来た。
それから、結び終えた荷袋を肩へ掛けた。
華はその横を歩いた。




