↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/30

第一幕 十一

 朝、レオンは部屋の隅で、革紐の傷みを確かめていた。


 引けばまだ使える。けれど、次に濡れたら裂けるかもしれない。


 紐を外し、荷袋の底から予備を出す。結び直してから、指で一度引いた。


 廊下へ出ると、向かいの扉は閉まっていた。


 華の部屋だ。


 昨日、華は街から宿へ戻る道を、自分で選んだ。今日も、鍵と黒い板を持っている。


 宿の中なら、今の華は一人で過ごせる。


 そう判断して、レオンは階段を下りた。


     *


 通りの角にある乾物屋の前で、店主が荷車を見上げていた。


 荷台には、麻袋がいくつも積まれている。荷紐の一つが片側へ寄り、袋の角が車輪の上へ出ていた。


 レオンが近づくと、店主は手を上げた。


 短いやり取りのあと、レオンは荷車の紐を外した。


 袋を一つずつ持ち上げ、倉の入口まで運ぶ。店主の甥らしい若い男が、奥で受け取って積み直していく。


 急ぐ必要はない。


 濡らさず、落とさず、通りを塞がない。


 それだけを守れば、昼までには終わる。


 最後の袋を下ろしたあと、レオンは荷車の車輪を見た。木の縁に、細い石が噛んでいる。


 指先で取り除くと、車輪を少し回した。


 引っかかりは消えた。


 店主が何か言って笑う。


 レオンは肩をすくめ、荷紐を渡した。


     *


 店主は小さな革袋から硬貨を出した。


 レオンは掌へ受け、枚数を確かめる。約束した分だけある。


 そのうち何枚かを別の袋へ移し、残りを腰の内側へしまった。


 宿代。食事。華の服に使った分。


 今日の荷運びで、どれだけ先まで足りるかは、まだ数えていない。


 けれど、次の仕事を急いで決める必要はない。


 宿へ戻る前に、水場のそばを通った。


 石壁の前には、昨日と同じように桶を持つ人がいる。水の落ちる音が、通りの騒がしさに混じっていた。


 華がここを見ていたことを思い出す。


 覚えた場所が増えれば、華へ見せられるものも増える。


 教える順番まで、今決める必要はなかった。


     *


 宿の食堂には、華がいた。


 窓際の卓で、黒い板を広げている。


 昨日の水の印の横に、白い鳥のような形があった。通りの壁に描かれていたものを、華なりに残したらしい。


 レオンはその向かいへ座った。


 華は板から顔を上げる。


 レオンの腰の袋へ、一度だけ目をやった。


 仕事から戻ったことは、たぶん分かる。


 レオンは硬貨の袋をしまったまま、卓の上の板を見る。


 華は白い鳥を指し、それから宿の入口の方を指した。


 レオンは頷いた。


 華が宿の中で待っているだけではない。


 自分の知らないあいだにも、見たものを残している。


 なら、次に外へ出るときも、ただ連れていくだけで終わらせなくていい。


 レオンは卓の端に置かれた白い棒を、華の手元へ少し寄せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。