第8話 リオン=アステリアス②
毎週金曜18:00頃更新予定です。
日々の訓練や任務に加えて、復活祭の演武に向けて型の練習や、衣装の打合せなど多忙を極める毎日を過ごしていました。
復活祭まであと数日と迫ったある日のことです。
第一神子“アドニス”と復活祭関係者との打合せがあるということで、教会本部内の神子たちが居を構えるフロアにやってきました。第二神子“ナルキス”の部屋を通り過ぎた時でしょうか。
中から男の怒鳴り声が聞こえてきました。聞くつもりはなかったのですが、隙間から中の様子が伺えたので、つい覗いてしまいました。
中に居たのは・・・エウレカ枢機卿でした。
「貴様は無能なのか!」
大声で怒鳴っている人物を隙間から伺うと、ごわごわとして固そうな金髪、低い品格と性格の悪さが顔に出ている神子と思われる男性を視認しました。
「貴様ら女は、我々のような選ばれた優秀な男の子種が欲しいんだろ?だったら我の希望を叶えてもらわんとな。ん?」
「ナルキス様・・・」
あのエウレカが床に頭をつけ懇願している。
「だから何度も言っておるであろう!あの麗しき雌獅子を貴様担当の洗礼日に、ここに来させるのじゃ!何度も何度も我からの誘いを断りおって・・。あういう気位の高い女ほど屈服させて道具のように使うてやれば、喜ぶじゃろうて。ヌフフウ」
「何故、私担当の洗礼日ばかり、別の女性をあてがわれるのでしょうか・・・あと、先刻から何度も申し上げていますように、リオン団長は洗礼に興味がないので、私が代わりにと・・・」
「何故、我が貴様に好き好んで洗礼を与えねばならんのじゃ?考えれば分かるだろうに。魔族のバカ女め。
雌獅子も興味がないだなんと言おうとも、所詮は女じゃ。我のような聡明なる男が触れれば、すぐに股を開くわ。
演武の練習の際ちらっと見たが、あの美貌としなやかな動き、そしてあの身体・・・我のような月に2回は性行為が出来るような性豪には、たまらない代物じゃぞ・・ヌフッ」
「・・・み、神子の洗礼は教皇や枢機卿が賜る大切なお役目と伺っております、彼女はまだ聖騎士団団長です。わ・・・私は枢機卿です。私にはご寵愛を向けて頂けないのでしょうか・・。」
エウレカがそう答えるや、心底見下すような顔をしながら、ナルキスはエウレカにこう言い放った。
「ナニィ?貴様は、鏡を見たことはあるのか?浅黒い肌、大きい体躯、老婆のような白い髪、悪魔のような黄色い瞳、そしてこめかみから生えている汚らわしい角。どうやって人間である我に欲情しろというのだw」
「申し訳ありません・・・。」
「だからこそ貴様の洗礼日に、あの雌獅子を先に洗礼してやるんじゃよ。貴様の直参じゃろ。味見じゃよ、味見。雌獅子の具合が良ければ、ようやく次は上司のお前の出番じゃて。まぁそれも今後の貴様の働き方次第じゃがな。」
「・・・そこは何とかご再考頂けないでしょうか・・。」
「くどいわ!口を開けば、洗礼洗礼とうるさい雌豚魔族め。さっきからああだ、こうだと・・あまつさえ貴様のような汚らわしい魔族の女が、代わりに我からの洗礼を受けるだと?部下1人我のもとに差し出すことも出来ん無能のくせに!」
「申し訳ありません・・・。」
「そうじゃ、良きことを思いついたぞ。雌獅子の中に我の子種をた~っぷり注ぎこんでやるわ。洗礼が終わった後に、雌獅子から種を恵んでもらえば良いではないか。運が良ければ孕めるかもしれんぞ?魔族の系譜を途切れさせるわけにはいけないんじゃろ?ん?」
「・・・ナルキス様・・・何とぞ、お慈悲を・・・」
「貴様ぁ、何度言うたら分かるんじゃ、くどい!くどいぞ!!!雌獅子を次の洗礼日には必ず連れてこい!貴様は奴の上司だろうが!バカ女がぐだぐだと!我は今から食事じゃ!早く去ねっ!!」
高級そうなグラスをエウレカに投げつけている。
聞き耳を立てていたワタシは怒りと、こんな俗物を奉る陽光教に対する不快感が体中を包み、エウレカが退出してきたことにも気づきませんでした。
ドアを閉め、横で呆然と立っているワタシに気づいたエウレカが力なく言いました。
「リオン・・聞いていたのかい・・・恥ずかしい所を見られたなぁ」
「エウレカ!何故ですか!!何故あんな理不尽に耐えるのですか!!何故、切らないのですか!!」
エウレカの両肩を力の限り掴み、吠えました。
「・・・我々が女性だからかな」
「エウレカ!ワタシはお前を友だと思っています。友があそこまで侮辱されても“女性だから”という理由で我慢しないといけないのですか!あなたが出来ないのならワタシが切り捨てます。」
「よせ!リオン、よしてくれ・・。」
「それが叶わないなら、教皇に一言申して来ます。あんな俗物がのさばることなど許されるものではありません。」
「・・・教皇はご存知だよ。スキルや魔力を持つ希少な男性様からのお目こぼしなのだから、私じゃなくても女が選ばれるのであれば問題なしなんだとさ。」
「何ですか!それは!!陽光教は徳の高い男性の保護が崇高なる活動の一つだと言い、保護された男性と教皇や枢機卿などの能力の高い女性と子を為すことで、子孫繁栄へと繋げることそれが教義でしょう!!
”保護”と称して各国から誘拐に近い形で誘致していることも我慢して黙認しているのです!それが、女性を見てくれだけで性の道具として見なし、洗礼をする相手を選ぶ?そんな男が保護した男たちの頂点である神子であって言い訳がないでしょう!!」
「じゃあどうするのだ!!リオン、お前は女だ!私に至っては魔族の女だ!!教皇がお認めになるということは、陽光教全体が認めているのだ!
神子が洗礼を望んでやまない私を拒絶するのも、見目麗しい貴様を抱こうとするのも教義における種の繁栄なんだろう!
聞いてたんだろ、リオン・・良かったじゃないか神子様からの洗礼を受けr」
今にも泣きそうな顔をしているエウレカに対し、何故怒らないのか理解出来なかったワタシはこう言ってしまったのです。
「ワタシは洗礼などいらないし受けることはありません。エウレカ聞いてください、落ち着いて後で話しましょう。今夜あなたの部屋で、今後について考えましょう。」
ワタシはこの時、エウレカも同じ憤りを抱えているはずだと思っていました。しかし、彼女はそうではなかったのです。
種ではなく種族の繁栄を心から願う彼女にとって、強制的に子を成す機会を齎せられる洗礼は何よりも大切な事だったのです。
どんなに侮辱されようとも、暴力を振るわれようとも洗礼を受けれるのであれば、彼女は悪魔にでも魂を売ったのでしょう。
今なら少し彼女の気持ちも理解できます。ヒカリさまの為であれば、ワタシは悪魔に魂どころかすべてを手放せる。
エウレカは容姿や種族の事で様々な人々から忌み嫌われながらも、剛力のみで組織の長まで成り上がりようやく洗礼を受ける地位まで来たのに、神子から拒絶され、友だと思っていた人間が選ばれ、その友から悲しみや辛さを理解されない。
エウレカはこの時、何かが壊れたのかもしれませんね。
その夜、エウレカの部屋で反乱を起こす計画を話しました。エウレカは黙って聞いていました。ワタシは昼間の神子や陽光教の在り方がどうしても納得できませんでしたから、復活祭当日に第二神子ナルキスを人質に取り、陽光教における女性の立場回復と神子の選抜と洗礼の見直しを迫る事を計画しました。
神子や教皇が演武を観覧に来る祭、ナルキスを人質に取り、教皇と交渉を進め、用が済めば切り捨てる算段でした。
今思えば怒りに任せた稚拙な計画だったと思います。ただ、その時は枢機卿と聖騎士団団長で企てた計画だから、きっと聖騎士団も皆も理解して協力し成功するはずだと信じていました。
私たちには組織の浄化という大義があるのだと。
復活祭当日までは、昼間は祭事の打合せ、夜は反乱の準備と寝る暇もないほどの慌ただしさでした。しかしワタシはこれで、陽光教が大きく変わる日々が訪れるのだと信じて疑いませんでした。
今思えば、若くして聖騎士団団長になり、自分は信頼できる友や仲間と一緒に世界を変えれるはずだと自惚れていたのでしょうね。
だからエウレカや、聖騎士団の奇妙な動きに気付くことが無かったのです。
復活祭当日、運命の演武の時間がやってきました。
演武を終えた後、舞台袖のエウレカと合流し観覧席まで駆け上がり、ナルキスを裏から捕らえる予定でした。女性の何分の一しか力のない、か弱い男一人捕らえるのは赤子の手を捻るより簡単な事だと思っていました。
演武の開始の合図を待ちました。
銅鑼が鳴り、大きく開始の合図がありました。
_______________ワタシの捕縛開始の合図が。




