第9話 リオン=アステリアス③
基本は毎週金曜日18時頃投稿予定です。
書き溜めが少しできましたので上げさせて頂きます。
聖騎士団数十人に取り押さえられ、拘束されたワタシは、演武の舞台上で急遽、異端審問会を受けることになりました。
第二神子ナルキスが拘束されたワタシに近づいてきたとき、我が目を疑いました。
ナルキスの隣にエウレカが居たのです。計画では、舞台袖に待機し、演武終了後ナルキスの元までワタシと駆け上がり拘束する段取りだったのに・・・。
エウレカは確かに舞台袖にいたのです。
いつの間にナルキスの傍に行っていたのか・・・。
それはエウレカのエキストラスキル”幻影”を使用したもので、幻影の方を舞台袖に、本体をナルキスの傍に配置していたのだと後で気づきました。
「何故!何故だ!!エウレカ!!」
エウレカは何も言いません。冷めた目でワタシを見ていたのが印象的でした。
ナルキスが拘束されたワタシを蹴り上げました。
「貴様ぁ・・・たかが聖騎士団団長の分際で我の捕縛を企むとは・・・。洗礼をしてやろうと言うのに何度も何度も断りおって・・・。あまつさえ我を狙うとは、美しかろうがやはり“女”だな。その美しさも今では我にとってはおぞましく感じるわ。のう、エウレカ枢機卿」
ワタシが正式に洗礼を断ったのはエウレカからこの前言われた1回だけです。しかし今までもワタシに「部屋に来い」だの「洗礼日にエウレカの代わりに来い」だの人づてに言われたことがあります。
誰が行くというのでしょうか。この汚物は頭が悪いのでしょうか。
この時はあまりのことに何も考えられず呆然としていました。
そのワタシに向けてエウレカはこう言ったのです。
「仰る通りです、ナルキス様!私はリオンから反乱の話を持ち掛けられ、ひどく狼狽えました。陽光教ひいては法国の宝であるスキルをお持ちのナルキス様を排し、陽光教をわが物にしようとした計画を聞き、過ちを正し罰しなければと思い、ナルキス様にご相談申し上げました。本当に良かったです、凶行を止めること出来て。」
「おお、おお、枢機卿は良く出来ておるな。このまま徳を積み重ねて行けば、魔族という生来の大罪も贖うことが出来、我からの洗礼を受けることもいつか出来るだろう。」
「慈悲深きナルシス様、ありがとうございます。」
ワタシは彼女が何を言っているのか理解できませんでした。
起こっている事を頭が理解する前に事態は益々悪化していきました。
「さて、諸君よ。我というこの世界で貴重な男性の命を奪おうとした罪深き異端者リオンを審問していこうと思うがどうだろうか。」
「「男性の命を奪うなど、なんて野蛮な・・異端審問だ!」」
「「この悪女め!!死罪だ!死罪!!」」
「「火刑に処すべきだ!!罪深き異端者リオンは火刑だ!!」」
友だと思っていたエウレカ、仲間だと思っていた聖騎士団員達はワタシへの罰を口々に求めました。
「決議は取れたな。異端者リオンよ・・・火刑だ。我の寵愛を素直に賜っておけば、こんな事にならなかったのにな。グフフフ」
友に裏切られ、罵られ、ワタシは今まで生きてきた全てを否定されたように感じました。
しかし同時に何故このような理不尽でワタシの命が踏み躙られないといけないのかと怒りが湧いたのを覚えています。
ワタシは拘束された状態で異端審問会における最高刑である火刑に決まり、すぐに執行されることになりました。反乱を事前に察知し、聖騎士団が準備していたのでしょう。
ワタシは魔法が使用できないよう魔法糸で縛られ磔にされた状態で、薪がくべられた場所へと移動させられました。
そして、足元に火をつけようと松明をもって近づいてくるのはエウレカでした。
エウレカは、松明を手にワタシの足元へとゆっくりと歩いてきました。
両手両足を縛られ磔にされているワタシは、恨み言を言う他ありませんでした。
「エウレカ・・・貴様を信じたワタシが馬鹿でした・・・。何故なのですか・・・。」
「何故?何故とはおかしなことを言う。想像してみてくれ給え、種族のためにどんな男性でも良いと交わりを求めるも、醜いがゆえに避けられ続ける女を!
その女の目の前で、美貌ゆえに男達から求められ続ける女が男を袖にするところを見せつけられる事を!
挙句、その女から反乱に手を貸せと言われた無残で哀れな女を!
女性の立場回復?神子の選抜の見直し?洗礼の見直し?それで?私はいつになれば子を宿すことが出来るのだ?何をしようが私を醜い種族として断じるこの世界は変わらないだろう?ならば、待つことになろうとも、強制的に洗礼を受けれる今をなぜ自らの手で壊さねばならんのだっ!」
エウレカの瞳は暗く、奥底には怒りの炎が宿っていました。
「貴様はこの哀れな私に向かって“ワタシは洗礼などいらないし受けません”と言ったのだ。何よりも洗礼を渇望している私に向かって。
このような醜い容姿でも子を成し、未来を作るために洗礼という制度に縋っている私にだ!私の代わりに別の女が上納され続けても、いつか私の番さえ回ってくれば・・・そのことだけを考え、耐えてきた私を貴様は踏みにじったんだよ。」
「違う!!聞いてくださいエウレカ!!あんな男に媚びる生き方でいいのか、我々女性も誇りを・・・」
「誇り高く生きるのは持つ者の言い分だ。持たざる者は世界が異ならない限り何も変わらない。」
「だからです!エウレカ!我々で陽光教を、世界を変え・・」
「女性だけで世界は変わらない。いいんだよ、リオン。私が耐えつづける事で生きてきた証を残し、種族の未来が続いていくのなら・・・私個人の感情など取るに足らないことなんだよ。恥辱や汚泥すら飲み干せる。」
エウレカは諦めきったように、そう言いました。
ワタシも自身の夢も何もかも全てを放棄し神子たちとの洗礼を受け入れ、ヒカリさまに出会わなければ、同じように思っていたかもしれません。女として生きてきた証を、自分の未来を残す。そのことだけに捕らわれ、醜き豚に尻尾を振る犬に成り下がっていたでしょう。
”ワタシは誇り高く特別な誰かの”剣”として生きる”矜持だけで生きていたのです。”子を産み育み未来へと繋げる”そういった矜持を持たず生きてきたのです。
だからこそ、その時はエウレカの言葉を理解できませんでしたね。
「エウレカ!ナルキスにあなたは良い様に利用されてます!洗礼と言う餌をぶら下げ、あなたを操っているのですよ!!」
「知ってる!!!・・・分かっている・・それでもいいんだよ。」
「何を・・・」
「いいんだよ、それでも。皆に疎まれる私にとっては僅かな希望すらないと生きることが辛いんだ。」
「エウレカ・・・。」
エウレカの両目が怪しく光り出し、笑顔でこう言いました。
「だから私も君を利用する。君の両手両足を縛っている魔法糸は今緩んでいる。逃げると良い。反乱の件を密告してナルキスの中で私の株を上げておいた。
次は逃げ出した君の命を刈り取り更に株を上げるとしよう。洗礼を得るために使えるものは何でも使わせてもらうよ。」
「ワタシは・・・ワタシは友ではなかったのか・・・。」
「友ではなく駒だね。私より力が弱く美しい駒。我が未来のため、良い糧になってくれ給えよ。」
ワタシの中で何かが壊れ、怒りが身体を包んでいきました。
「・・・エウレカ・・・あなたには必ず絶望を与えます。ここでワタシを逃がしたこと、後悔しませんように。」
「松明を持ってる手がきついんだ。早く逃げないと足元に火が着いてしまうよ?逃げるなら早く逃げてくれ給えよ。すぐに追っ手を向かわせるから。」
その会話を最後に、ワタシは足元にMaを全力で込めたボールライトニングを数発打ち込み、磔台を破壊した後、衛兵の剣と馬を奪って逃げだしました。王国方面に行けばドミナリア森林が広がっている。そこに行けば追手を撒けると思い駆けました。
王国へ逃亡し、縁がある冒険者ギルドに駆け込み、陽光教に復讐する体制を整える。そのことだけを考え、休む間もなく逃げ続けました。
しかし、ドミナリア森林まであと少しというとこで追手に追い付かれました。
5対1で周りを囲まれ、滝がある場所まで追い込まれ、矢で狙われ、剣で刻まれボロボロになりながらも生きることを捨てませんでした。
世界はこんなにも残酷なのか、信じる友も仲間も何もないのか。女だから不幸なのか。そんなことを考えながら最後の力を振り絞って滝つぼへと身を投げました。
運が良ければ生き残れるかもしれないという希望を胸に。
滝つぼの中で水に揉まれ、運よく生き残ったとして何になるのだという絶望が頭の中を侵しながら気を失っていきました。
__絶望と希望は表裏一体なんだと誰かが言っていたのを聞いたことがあります。
__人生全てを覆われる絶望の後に、光り輝く希望がある。
__この後、ワタシはヒカリ輝く希望を手にするのでした。
リオンの話が思った以上に長くなってしまい申し訳ありません。
メインヒロインの感情は整理しておきたいのでもうしばらくお付き合いください。




