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月の光に導かれ  作者: カムイコタン
第1章 月の光教団
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11/14

第10話 リオン=アステリアス④

基本は毎週金曜日18時頃投稿予定です。

書き溜めが少しできましたので上げさせて頂きます。


 気が付くと口から水を吐き出していたところでした。


「ゴボッ!ゴホッ・・ゴホッ!!」


 滝つぼの中で水を多量に飲んで死ぬところでしたが、何とか生き残ったのだと思いました。


 後でヒカリさまに伺ったところ、恐れ多くも人工呼吸までして頂いたようでした。


 何故、ワタシは気を失っていたのでしょうか?意識がある時に、もう一度お願いします。


 水辺で自分の状態をまず確認してみると、深い切り傷や矢傷が身体中あちこちにありました。また傷の痛みからか、僅かしか身体が動きませんでした。


「ここは・・どこで・・・くっ!」


 身体を少し動かす度、激痛が走り、このままでは失血死しそうな酷い状態でした。


「気が付いた、大丈夫かい?!いろんな箇所、怪我してるみたいだから、ちょっと安静にしてて。傷を抑えるものか何かないか探してくるから!」


 そう言ったのは、法国いや他の国でも見たこともない黒髪黒瞳の美しい容姿の方でした。その時は女性だと思っていましたので、何て可憐な女性なんだろうと思ったことを覚えています。


 黒曜石のような漆黒の髪と瞳をした美しく可憐な天使さまが慌てている姿を、失血死しかけてる状態で呆っと眺めながら、ここが戦士が亡くなると逝くと言われるヴァルハラという場所なのかと感じていました。しかし、ワタシの身体にある無数の酷い傷の痛みで、これが現実だと分からされました。


「当ったり前だろ!!!使用する!!使用する!!」


 近くで、天使さまが叫んでいました。何かスキルを使用しようとしているみたいですが、ここまで酷い傷と衰弱状態だと通常スキルの回復や魔法を使用して頂いても失った血は戻らず、体力も回復しないので、死までは時間の問題だなと思いました。

 

 死ぬことは怖いことではありませんでした。ただ、特別な誰かのための誇り高く美しい”剣”となれなかった事への後悔だけがありました。


 ワタシの死の淵で、心の底から心配して慌ててくれる、この目の前の天使のような方にお仕えしたかったなと漠然と思いましたね。


 もうすぐ意識も無くなるだろうに、天使さまの手を煩わせるのが申し訳なく感じると共に、このまま見送って頂けるだけでも一人孤独に逝かずに済むなと感謝もしていました。


 ですので、最後に一言だけでも感謝の言葉を彼女に送ろうとしたのです。


 すると、徐々に光の粒子が身体の周りを包み始めました。その光の粒子は暖かく、非常に心地が良い光で、傷の痛みが徐々に和らいできました。

 やはり神に仕える天使さまは、回復系の中でもエクストラに属するような凄いスキルを持っているのだと深く感動していました。


 しばらく光の粒子に包まれていると傷の痛みが一切無くなってきました。


 それどころか、身体に力が戻ってきたのです。


 私が知る回復系スキルの最上位は聖王国イラに居る聖女と呼ばれる女性の持つ回復スキルで、傷跡は残るものの重傷者すら癒すと聞いたことがありました。


 痛みすら感じなくなって来たので、ふと傷を見てみると傷跡すら無くなっていっていました。どころか、訓練や任務によって負ってしまった古傷すら跡が無くなっていっています。


 このスキルは、聖女すら上まわると言うのでしょうか・・・。


 呆然としていると次第にその光は収まっていき、ワタシの身体は傷どころか汚れすらない状態になっていました。


 修道服はボロボロでしたので、受けた傷の深さや酷さはどれほどだったのか、改めて恐ろしくなりました。


 やはり神の御使いともなると、何とも凄まじいスキルを所有してるのだなと驚嘆したのを覚えています。いや、ここまでのものは、スキルというのも(はばか)れるのではないか、もはや神の御業とすら言えるのではないかとも思いましたね。


 ワタシは、天使さまに感謝を伝えるべく、何かを思案している様子の天使さまに失礼とは思いながら呼びかけました。


「あの・・・」


 すると天使さまは人懐っこい笑顔を向けながら答えてくれました。


「すみません多少物思いに耽ってまして。でも良かったです、一時はどうなることかと心配しました。傷も、もう大丈夫なようですし、良かったです、ホント。」


 その笑顔を見た瞬間から、心臓の鼓動がどんどん早まりました。


 ワタシは別に女性恋愛主義者とかでは一切無いのに、心臓の鼓動は弱まるどころかどんどん強くなっていきました。


 興奮していたからでしょうか、今考えると失礼極まりないのですが、感謝を伝えることすら忘れ質問していました。


 その時のことを思い出し、ヒカリさまに謝罪するも、「今さらいいよー何言ってんの。俺の方こそ色々助けてもらってるし。」という益々()()()()()()に引きずり込まれるような解答を頂きました。


 ヒカリさまにはもう少し、色々節度を持った発言と行動をとって頂きたいですね。


 それはさて置き、ワタシは失礼かと思いましたが質問いたしました。


「あの・・・大変失礼かとは思いますが質問しても宜しいでしょうか」


「もちろんオッケーですよ!あなたのような綺麗な人からの質問は大歓迎ですよ!・・・綺麗・・?」


 ジッと天使さまはワタシを見て、慌てだしました。ワタシの破れた修道服から覗く下着や肌を見て恥ずかしくなったのでしょうか、女性の肌が珍しいのでしょうか。

 天使さまも女性なので肌や下着は見慣れていると思うのですがと不敬にもそう思いました。


 ただ天使さまからの視線を受けていると何故か身体が熱くなってきました。今まで感じたことのないような感覚に包まれます。そんな風に感じていると、天使さまは羽織っていらっしゃった上着を脱ぎ、まだ幼さの残るものの男らしいごつごつとした身体を見せつけてきました。見せつけてきやがったのです。


 男?!男性!?と驚愕したのを今でも昨日のように思い出します。


 普段からヒカリさまは不用心なのか女性を信頼しすぎているのか、度々淫らな姿やこちらを誘う行動を取るようなことがあります。


 ワタシはそのたびに今まで感じたことのない欲望や葛藤と戦い、己を律しているのです。


 ヒカリさまの”剣”として振舞うためにも幾度となく誘惑を跳ねのけてきたのです。


 法国で一人生きてきたワタシは、心も容姿も何もかも醜い男達しか知りません。例えるなら美味というものを知らずに耐えて生きてきた空腹の魔狼の前に、ハーブやバターで丁寧に調理されたステーキ肉を高級な皿に載せて提供しているようなものです。


 何と、何と殺生なことだと思います。


 ヒカリさまには不敬ながらも罰が必要ですね。


 また話が逸れてしまいましたが、あの時は本当に驚いたのです。美しい男性が一人こんな森の中で、神のごときスキルを持って佇んでいるなんて想像できないにも程があったのです。しかも陽光教の豚共と違って傲慢さのかけらもなく、こちらに話しかけてくるのです。


「え・・えとあの、無事なようで何よりです。か・・風邪を引いたら大事ですので、汚いかと思いますが、自分の服を上から羽織ってください・・。」


 この時あろうことか、自分の上着を脱いで女性に渡してきたのです。


 このディオスという世界全土を見渡しても、女性を慮るような行動をする男性など存在すら聞いたことありませんでしたし、自らの衣服を渡し女性の身を案ずる?そんな珍妙なことは、この世界では普通起こるはずはないのです。


 ヒカリさまが異世界人ということにも関係しているのか、ヒカリさまは少々気安すぎるし、色を好む(へき)があるくせに色々と恥ずかしそうにしやがるのです。そう、恥ずかしそうにしやがるのです。


 無理やり抱き寄せると嬉しそうにしながらも、恥ずかしがって逃げようとするのです。でも密着してるワタシの身体の感触を喜んでいやがるんです。


 女性特有の肢体を横目でちらちら覗き見るくせに、こちらがそれに気づいて抱き寄せようとすると照れて恥ずかしがって逃げるのです。


 意味が分かりませんし、許せません。可愛すぎて。


 あと、女性全般に対してガードが低すぎるのです。大体、ステータス自体も紙装甲の癖に、女性に対してのガードも紙装甲なんです。


 やはり、罰を与えねば、大きめの罰を与えねばなりませんね。


 すみません、どうしてもこの辺の話はヒカリさまが関わってくるのでついつい、話が逸れてしまいます。

 コホン、話を戻しますが、この時は女性の天使さまと思っていた可憐な方が、忌むべき男性だと気づいた時は、筆舌に尽くしがたい気持ちになるかと思ったのですがそうはならず、ただただ呆っとしてしまいました。


 男性?天使なのに男性?と混乱してしまったワタシはふらふらと彼に近づき、容姿への称賛の言葉を口走っていました。


 この世界ディオスにおいて主神ディオスの娘である夜の神ニクスの寵児(男性)はそれはもう美しい黒髪と黒瞳をしていると言われてます。ヒカリさまの髪や瞳はそれはもう美しく見るものを魅了する容姿をしていたので、その方が男性だという事でワタシがパニックになっても仕方がないと思います。


「お・・・男っっ!!?男性なんですか?!しかも黒髪、黒瞳・・なんて美しい・・・。」


「は・・はい、男ですが・・・あんまり近づかれるとその・・ちょっと・・」


 男性なのに女性に不用意に近づかれ、恐怖したんだと思ったワタシは、気まぐれとは言え助けてくださった恩人に対し本当に申し訳ないことをしてしまったと思ったのです。


 この世界の男性はよっぽどのことがない限り、女性に対し恐怖するものです。力も強く魔力も豊富な女性に対し、力も弱く魔力もない男性は忌避感はあれど好き好んで近づくのは、陽光教の神子()くらいなもんです。


 ですからヒカリさまのように、少しばかり胸が大きかったり、顔立ちが整っている女性を見ると、ふらふら近づいて優しい言葉をかけるなんて、あり得ないのです。あり得ないんですよ、ヒカリさま?分かってます?あなたがどれだけ罪深い事をしているか理解してくださいね?


 また話が逸れましたが、その時のワタシが知る男性とは、陽光教の神子のように醜悪で女の事を道端の草を見るように見下す人間のことを指し、こんなにも美しく、そして優しく可愛らしい方などいないと思っていました。また、男は女が近づくと本能的に忌避するのが普通だと学んでいましたしね。


 そう考えた結果、早く彼から距離をとり、怯えてしまった彼を安心させなくてはいけないと勘違いしてしまいました。


 ただ、傷が癒えてすぐのため身体が少々動かし辛いこともあり、この場で少しだけ休ませて頂く許可だけ頂こうとしたのです。


「す、すみません、取り乱してしまいまして。淑男に対して失礼でした。申し訳ありません・・ワタシのような下賤な女が近づき・・不快な思いをさせてしまったこと心よりお詫び致します。

 気まぐれとは言え救っていただき感謝申し上げます。少し回復すればすぐに立ち去りますので、もうしばらくここに居させていただいても宜しいでしょうか・・。」


 彼の気に障らないよう恐る恐る尋ねました。しかし、彼は予想だにしない言葉をかけてきました。


「も、申し訳ない!不快感をあたえるつもりは無かったんだけど・・・お姉さんみたいに綺麗な女性を見たことなくて、挙動不審になって・・・不快感を与えてしまったみたいです。

 お、俺がいると邪魔だしキモイと思うので、向こうの方に行きます。安心してください!まだお姉さんの体調も戻ってないと思いますので、ここでゆっくり休まれてください・・ホントすみません・・。」


 何だか良く分からない感覚に包まれ心臓が痛くなったのを覚えています。


 男性が謝罪する?彼がワタシから離れてしまう?彼がワタシを心配している?と様々な感情が綯交(ないま)ぜになり、またもや混乱したワタシはただ一言しか言えませんでした。


「____は?」


 この疑問符をきいた彼は、ワタシがさっきの言葉が聞こえなかったのではと勘違いし改めて言ってきたのでした。とんでもない事を。


「いやだから、自分のような半裸オジが近くにいると不快だと思いますので、自分はすぐに立ち去りますから、ここで休まれてください。結構、離れておきますけど何かあったら呼んでください。ホントお目汚し申し訳ありm・・」


 男が謙虚?不快?謝罪??頭が混乱したワタシは”このままだと彼がワタシから離れてしまう。”ということのみが頭を支配してしまい、彼が離れることを絶対に拒否しないといけないとしか考えられなくなっていました。


「だだだだだだだ大丈夫です」


 そう言いながら、ワタシは縋るように彼の腕を掴んでしまいました。女性から急に触れられ恐怖するはずなのに、彼は何故だか嬉し恥ずかしそうにしていました。


 やはり、いやもう本当にガードの固さは紙ですね。いつもワタシが触れると嬉しそうにするんですが、他の女性が触ってもそうなのでしょうか。


 今後次第ですが、他の女性が触っても嬉しいそうな反応だと、自分がどういう行動を取ってしまうのか少し予想が出来ませんね。エウレカから触れられても嬉しいそうにするんでしょうか?最近分かったのですが、ヒカリさまの好みですよね?エウレカって。ヒカリさま、まだお話は終わってませんので逃げようとしないでください。


 ああ、何か想像するだけで非常にイラッとしますね。


 ワタシも元聖騎士団団長です。男性と会話することも今まで多々ありました。いつでも冷静に対応していましたし感情が粟立(あわだ)つことなんてありませんでしたが、この時は(今もですが)舞い上がり自己紹介をしなくては!という意味の分からない行動を取ってしまいました。


「ワ、ワタシは陽光教会 聖騎士団団長のリオン、リオン=アステリアスと申します。宜しければあなた様の尊き御名をお教えいただけますでしょうか。」


 彼の名前が知りたい。ワタシを救ってくれた天使のようなあなたの名を聞かせて欲しい、ただそれだけを望みました。


 あと、「元」聖騎士団団長なのですが、身元を明確にすることで、少しでも印象を良くしようとしたのでしょうね、ワタシは。男性に対して自らを大きく見せるなんて恥ずべき行為だなどと宣っていた自分を恥じますね・・・。


「え、ええと、お、俺はツキノヒカリと申します。デュフッ」


 なんと・・・なんという美しい響きでしょう、何かの神託かと思いましたよ。

 日向のような柔和な笑顔で、美しい唇から紡がれた天上の言葉でワタシを魅了しました。ああ、ヒカリさまは天から舞い降りた神なのだと。


 全てに絶望してしまったワタシを救うために天上から舞い降りてこられたのだと。


 ワタシの(あるじ)になるために顕れてくれたのだろうか?


 傷を癒し、諦めて空になった心すら癒してくれるのだと。


 ワタシはこの方に出会い、剣となるために生まれてきたのだと。


「ツキノヒカリさま・・・なんと美しい響き・・・いと尊き名ですね・・。」


「ええと、リオンさんこそ、綺麗で恰好いい名前だと思いm」


「えっ」


 ワタシの名を神が認め褒めた?綺麗で格好いい?・・・・

 

 その瞬間、顔が熱くなり身体も熱くなってきました。胸の鼓動も早鐘のようになり、鼻から一筋血液が流れだしたと気づいた瞬間、神の前で粗相をしてしまいました。

 

 後ほど、ヒカリさまに伺ったところ「本当に大量出血で死ぬんじゃないかと思ったよ」とのこと。粗相を再度詫びると、「俺も実はこそこそリオンを盗み見しちゃう時があるから、その件で鼻血の件は相殺してよ」と少し照れながら笑顔で話していました。


__

____


 ヒカリさま、本当にそういうところダメだと思いますよ。


 あと、エウレカとの話の件、終わってませんから。


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