第7話 リオン=アステリアス①
基本は毎週金曜18:00頃更新予定なのですが
お盆休みが1日貰えたので、今日と明日で1話ずつ上げます。
___これからお話しするのは、ワタシの絶望と希望の物語です。
ワタシが物心着いたころには、エンヴィディア法国首都ダスクモーンの孤児院で暮らしていました。父と母の記憶は一切ありません。
ただ昔から、容姿を褒められることは良くあったので、父母はそれなりに見目麗しかったのかもしれません・・・親と呼ばれるものに関しての思い出なんてその程度です。
エンヴィディア法国は、陽光教という男性神とそれに属する男性を神徒として奉る宗教の聖地とされ、教会本部は首都ダスクモーンにあります。
ワタシが育った孤児院は教会本部付属の施設でしたから、幼い頃から神への祈りと戦士となるための戦闘訓練ばかりの毎日でした。
“男は女が守護るもの”という教えを骨の髄まで叩き込まれ育ちました。
陽光教の教義の中に“女は清麗であれ、強く強靭であれ、美しく研ぎ澄まされる剣であれ”という一節があります。
この“美しく研ぎ澄まされる剣”という言葉にいたく共感したワタシは、誇り高く美しい剣となるため、努力を続けることになります。いつか出会える誰かの横に並び立てるように強く、美しくなりたいという想いだけで生きてきたように思います。
そしていつしか自分にとって特別な“誰か”の横に並び立つのではなく、誇り高き美しき剣として守り抜くことが、ワタシの存在理由になって行きました。
この世界は男女の比率が1:7で、男性の出生率が非常に少ないので国における男性の割合が国の存亡に係り、どの国も男性の確保に躍起になっています。
若い男性は国の上層で囲われることがほとんどでしたので、ワタシの周りで男性を見掛けることはほとんどありませんでした。
ただ偶然見かける男性たちは、無気力で老いも若きも臆病で傲慢な生き物でした。
男性は漫然とただ生きているだけでも、子種を落胤すものとして価値があるとされ、法国によって保護された男性は、絢爛豪華な屋敷に住み美しい女性を侍らせ豪勢な食事を頂きながら、月に1~2回程度の繁殖をしているそうです。
我々女性が床に落ちた食料を奪い合っている時でも。
ワタシは、女性の庇護下で贅を貪り、であるのに女性を見下し、月に1~2回来る情欲に塗れた日に快楽による種付けをしている家畜たちを、ワタシの剣を捧げる特別な“誰か“と思うことはついぞありませんでした。
このように考える自分はこの世界における異端なのかもしれませんが。
15歳になった時でしょうか、ユニークスキルが開花しステータスも周りの娘たちに比べ高い数値になってきたある日、教会本部での早朝祈祷の後、2歳年上のエウレカ大司教から呼び止められました。
エウレカ大司教は法国でも珍しい魔族という種族でした。
魔族とは遥か昔人間と世界の覇権を争った種族と言われており、その戦争に負けた魔族は人間に迫害され続け絶滅寸前まで追い込まれたそうです。
戦闘に特化した大きな体躯、膨大な魔力量、特殊なスキルを持つことが多いとされる種族である魔族は、人間族や他種族の特に男性からは恐れられていましたが、人間に従属することで人間と子を為し、現代まで何とか生き延びてきたそうです。
そういった種族背景を持つエウレカ大司教は、強さと美しさが求められる陽光教の中で、魔族ゆえか珍しいユニークスキルを開花させ、強さのみで確かな地位を築いたと言われている豪傑でした。
「リオンくん、ちょっといいかな?」
「おはようございます、エウレカ大司教。どうされましたか。」
「ああ、おはよう。年も近いしエウレカで構わないよ、リオンくん。君の噂を各所で聞いてね。“孤高の雌獅子”とか”獅子王”なんて呼ばれているそうだね?」
「いえ、まだスキルの数も少なく、未熟者です。あとリオンで構いません。」
「それではリオン、君の非凡な美貌と才能を見込んで、聖騎士団に入団してもらいたいんだけど、どうかな?」
「エウレカ様・・・ワタシはまだまだ未熟者ですので、ご遠慮いたします。戦士としての技量を磨くための修練を続けていきたいと思っています。それに出世や立身に興味があまりありません。」
「噂で聞いた通りだね、君は。高い地位につけば、男と睦会う事も出来るようになるんだが・・・興味はないようだね。」
「ええ、男性に全く興味がないわけではないのですが、神子を初めとする男性という臆病で高圧的で女性を見下している人たちは・・・正直受け入れがたいですね。」
「辛辣だねw・・・類まれなる美貌を持っているのに勿体ないな・・・洗礼の時期になれば神子たちから引く手数多になろうに。私は同じ女性として君が純粋に羨ましいよ。」
「ワタシとしては、エウレカ様の強さの方こそ羨ましいですね。」
「ふむ・・・そうだね、どうだろう?私と一戦交えて、君が勝てば何も学ぶ事なしという事で入団は蹴ってもらって構わないよ。もし私が勝てば、学ぶべきことはあるという事で聖騎士団に入団してもらうのはどうかな。」
「・・・。」
「どうかな?」
「・・・その条件で構いません。ところでエウレカ様、一つお聞かせいただけないでしょうか。」
「ん?構わないよ。」
「何故、そこまでしてワタシを聖騎士団に所属させようとするのでしょうか?」
「ああ、それはね、ほら君も知っているだろ?カッツィ平野での戦いを。王国とのいつもの小競り合いさ。ただね、その戦の中で我が聖騎士団は壊滅的なダメージを負ったんだ。団長および副団長・団員数十名が1人の傭兵に討取られちゃったんだよ。
何やってるんだろうね。
そこでね、我が教会が誇る聖騎士団の崩壊に心を痛めた第2神子のナルキス様が、聖騎士団の強化を熱望されてね。美しさと強さを兼ね備えた聖騎士団の再編成が急務なのだよ。」
若くして腕力のみで大司教に上り詰め、果ては枢機卿とまで言われるエウレカ大司教の実力を見てみたかったし、鍛え上げた今の実力がどの程度通じるのか知りたかったワタシは試合を快諾しました。
※ ※ ※ ※ ※
教会本部横にある修練場にエウレカ大司教と訪れ、お互い武器を手に取り向かい合いました。
「リオン、君のタイミングで良いからかかってきなさい。」
エウレカ大司教は余裕綽綽に、右手に持った大剣を模した木刀を数回振り回したあと、肩に担ぎ構えました。一方ワタシは両刃を潰した両手剣を片手で構え、彼女の隙を伺っていました。
「魔法を使用しても構わないよ、修練場は人除けも魔法被害も抑えるよう結界を使用しているから。さぁ見せてくれ、“雌獅子”さん」
軽く挑発してくるエウレカ大司教を剣の届く間合いに近づけ、間合いに入った瞬間、上段に水平切りを叩き込みながら、彼女が軽口を叩いている間に詠唱準備していた火魔法Lv2のボールライトニングを足元に放ちました。
さすがに上下の攻撃は避けられまい、守りに徹する瞬間に態勢を崩し打ち取ってやろうと思考しながら次の動きにつなげようとしました。
ところがエウレカ大司教は、持っていた大剣を振り下ろしボールライトニングを切り飛ばし、返す刀で上段に切り込んだ私の剣を躱すことなく、剣ごとたたき飛ばしました。何て動体視力と膂力をしているのかと驚きましたね。
「なっ・・!」
「ふむ、遠慮なく魔法と剣を叩き込むところは見所があるが、まだまだかな。さぁ次だ。」
結果的に、何戦挑んでもスキルすら使用しないエウレカ大司教から一本も取る事は出来ませんでした。
悔しくもありましたが、武の高みというものが垣間見えた気がして嬉しかったワタシはエウレカ大司教からの誘いを快諾し、彼女が鍛える聖騎士団に入団しました。
※ ※ ※ ※ ※
そこから数年は戦役、護衛、訓練と息つく暇もない毎日でしたが、任務や鍛錬の中で口下手なワタシにも仲間というものが少しずつ出来ていきました。
また、その頃から神子や教会内部に居る男性から誘われる(性的)ことがありましたが、断り続けていました。
”いつか出会える特別な“誰か”に誇り高き剣として侍ること”を諦めきれないまま鍛錬を重ね続け、19歳になった春のことでした。
「春の復活祭の演武をワタシにですか?」
春の復活祭というのは陽光教が季節ごとに執り行っている大きな神事の一つであり、復活祭当日まで断食や祈りを通して備える祭事で、当日には法国全土から信徒が集まり演武を観覧する催しのことです。
演武では聖剣術と呼ばれる聖騎士の剣の型を大観衆の前で振るいます。型をする役目は枢機卿以上の役職者が執り行うことが通例となっていました。
「ああ、そうだ。入団からわずか4年で聖騎士団団長にまで駆け上がった若き天才の君に大役を任せたい。まぁ私を枢機卿に出世させてくれたお礼もかねてだけどね。どうかねリオン、大役だよ。」
「エウレカ、嬉しいんですがワタシは目立つことはちょっと苦手です。」
聖騎士団に入団してから、エウレカとの距離も縮まりお互い呼び捨てで名前を言い合える仲になっていました。
「いやいや、何言ってるんだい、聖騎士団の雌獅子殿ともあろう団長様が。君にふさわしい大舞台だと思うがね。まぁもうすでに申請済だから了承する以外はないのだよ。」
「はぁ、いつもいつもエウレカの提案は急すぎるのです。」
「まぁまぁ、団長からのいつものお小言はまた今度伺うから。打ち合わせや型の練習は当日までによろしく頼むね。」
「エウレカ、さては、あなたが指名されていたのに打ち合わせや型の練習が面倒くさくて、ワタシに押し付けましたね。」
「さぁ何のことやら。それでは、私も団長さまほどではないにしろ忙しいのでこの辺で。頼んだよ、リオン♪」
ニヤニヤと笑いながら立ち去るエウレカ。
いつもこうです、仕方ないですねと苦笑いしながらワタシは復活祭の演武に向けて準備を始めました。
_________復活祭で今までのすべてが崩れ去るのも知らずに。




