第6話 狂奔
毎週金曜18:00頃更新予定です。
「・・ヒカリさまっ!ヒカリさまっっ!!」
「ん・・・んn、リオン?」
眼を開けると目の前には大粒の涙を流しなら俺を呼びかけている美女。
最高の目覚めジャマイカ・・。周りに死体が無ければ。
ああ、そうだった。異世界初の殺戮シーンを見たせいで盛大にぶっ倒れたんだった。でも剣と魔法のこの世界で生きていくためには慣れないといけないんだよな。頑張らねば。
「ごめんよ、リオン。まだ慣れてなくて、血を見て倒れちゃったみたい。」
「ヒカリさま、本当に申し訳ありません、男性の目の前であのようなモノを見せつけてしまうなんて・・・。怒りで配慮を欠いておりました。ヒカリさま、短い間でしたけど本当にありがとうございました。ヴァルハラに旅立つ前にヒカリさまと少し言葉を交わせたことはワタシの宝物です。」
ん・・・急に不穏な空気が流れだしたぞ。リオンを見てみると、首に剣を当て・・・
「ちょっちょっ!!ストップ!!ストーッップ!!!」
慌てて、起き上がりリオンのうでに抱き着き、今にも自害しようとしているリオンを必死で止める。
「待って、待って!!リオンは俺の使徒、俺の“剣”なんだよね?俺を守ってくれるんだよね?俺に許可なく勝手に自死するのなし!ストーッップ!!」
「ッ!!・・・・ありがとうございます。ワタシはヒカリさまにとって大切な“剣”なのですね・・・。分かりました。・・・今後は許可なく勝手なことは致しません。」
セーフ!セーフ!!あのまま止めなければ、首イってましたね・・。良かったぁ・・一旦落ち着きましたな。
「・・・・・ヒカリさま」
「どうしたの、リオン。」
「先ほどの・・・儀式の続きは如何致しましょうか?今からでも宜しいのでしょうか?」
さっきの(続きは後程ゆっくりと・・)宣言の件ですね。俺としては非常に嬉しいお誘いなんですが、周辺に惨○死体が何個も転がってる中で、致すことは出来ませんよ・・・どんな壮絶な初体験だよ。
「ヒカリさま・・・お恥ずかしながら、ワタシはいままでそのような経験も何もなく生きてまいりましたので、リードは出来かねます。勢いで行こうと思いますので、もう一度熱い抱擁を頂けると・・・」
「リ・・・リオン、お誘いは非常に魅力的だけど、こんな死体が転がる中でリオンとゴニョゴニョは出来ない・・かなぁ。ま・・まぁ・・まだ、リオンと知り合ったばかりだし、こ、これからゆっくりとゴニョゴニョ・・。」
自分から抱き着いといてイザとなると意気地なしと言う勿れ。ノクターンノベルズへの階段はそう軽々と登れるものではないのだよ。
だ・・・だって、童貞だし雰囲気というか関係つくりというか、勢いとかタイミングとかシチュエーションとか色んな物が必要なのだ。みんな、分かってくれるよね?
死体が転がる中で「ひゃっはぁ!」プレイは上級者過ぎるだろ。
「・・・そ、そうですか・・・残念です・・・。」
明らかに肩を落とし、ガックリとしているリオン。
美女は落ち込む姿すら絵になるのね。
取り合えず、転がった遺体を埋めるなりなんなりしないと。スコップとかないから手で、浅めにしか掘れないけど、その辺に埋葬してあげよう。
何となくしんみりとした雰囲気を変えようとして穴を掘りだす。穴は人が入るくらいギリギリでいいよね。
「・・・何を・・・何をされているのですか、ヒカリさま」
「ん?さすがに、遺体をそこら辺に捨てておくのは可哀そうじゃない。スコップはないから、手掘りになるので浅目にしか掘れないけど、埋めてあげようかとね。」
「・・・ヒカリさま、敵として立ちふさがり、あまつさえヒカリさまを拐そうとした女どもにも慈悲をお与えになるのですか?」
「・・・?慈悲かどうかわかんないけど、このままじゃ可哀そうだし、夢見が悪そうじゃない。」
命の軽そうな世界だってことは何となく、薄々分かってる。だけど、こちとら遺体なんて見たこともない世界からやってきた純情ボーイなんだからさ、埋めるくらいはしてあげたいかなと。
周辺が血だらけのせいか、血の匂いにも少し慣れてきたし。
いやごめん流石に気持ち悪いや。悪い、リオンにも手伝ってもらお。
「・・ヒカリさま」
「ん?どうしたリオン?」
「・・ヒカリさま、ワタシはあなたに出会えて本当に幸せです。」
「何言ってんのw
こんな遺体だらけの所で。ムードも何もあったもんじゃないよw」
「それでも、それでも、伝えずにはいられなかったのです。」
「穴掘ってるだけだよw
そんな大層なことしてないよ。リオン、良かったら手伝ってもらえる?」
「ハイ!!」
俺が穴を掘り、リオンが遺体を運んで土をかけていく。黙々と作業をしながら小一時間ほどかけて、10体の遺体の処理を終えた。
・・・10体?あれ、エウレカ枢機卿とかいう奴の遺体がない。首を飛ばされてたはずだけど・・・。
「リオン、エウレカって人の遺体がない!修道女達の遺体は、すべて片づけたのに、赤の法衣を着た奴の遺体がない!」
「・・・ヒカリさま・・・多分それはエウレカのユニークスキル“幻影”だと思います。奴は“幻影”というもう一人の実物に近い自分を作り出すスキル持ちです。我々を挟撃するのではなく、情報を持ち帰る事にしたのでしょう。狡いやつめ。斬った手応えがあったので、オリジナルの方を仕留めたと騙されました・・・。申し訳ありません・・・。」
おっと、そうなると追手にリオンが生きてるって情報が伝わる可能性があるのね。それなら早めに移動しないと、大軍勢が押し寄せてきたら流石に厄介かもしれない。
リオンが負けるところは、あんまり想像できないけど。
「リオン、ごめん。俺が埋葬したいなんていったから・・・急いでここから離れた方がいいかもしれないね。」
「そうですね、ヒカリさま。少し急ぎましょう。」
急いで山道へと戻り、アヴァリスィア王国王都グラントを目指して歩き始めた。
リオンから聞いた話だと、あと2~3時間ほど歩けば街道に出るって話だ。追っ手から逃げながら、王都についたら冒険者登録か。リオンが激強だし、少し安心かな。さぁさぁ異世界って感じがしてきたぜ、オラ、割とワクワクしてきたぞ!!リオンから剣術とか習ってみよ!!!
※ ※ ※ ※ ※
“幻影”で作り出した自分を囮にし、命からがら逃げだしたエウレカ枢機卿はドミナリア森林奥にある開けた野営地にある指揮官用テントに戻り、ワインを一息で飲み干し、グラスを柱に叩きつけた。
「くそっ!何なんだ、あのスキルは!!」
エウレカは焦っていた。簡単な鴨狩りだと思っていたのだ。
リオンは若くして聖騎士団団長に選抜されたものの、目を見張るスキルは所有しておらず、剣技に長けたタイプだった。ユニークスキルも“堅牢”という守りに特化したようなスキルしか所有していなかったはずだった。
だからこそ、5名の追手で傷を負わせ追い詰めることが出来たのだが、滝つぼに落ち行方が分からなくなった後、彼女の何かが激変していた。
滝に落ち、行方が分からなくなったと報告を受けたときは、下流で遺体を回収し本国へ持ち帰る簡単な後始末だけだと思ったのだ。ところが、下流に行ってみると遺体はなく、足跡を見つけ追ってみたら、傷一つない姿でいるではないか。滝に落ち発見されるまでの短い時間で何かがあったのだ。
・・・ヒカリというあの子が・・・?
ヒカリとかいう見目麗しく、日向のような優しい目をしたあの御子が何かをしたのではないか?
その結果、見たことも聞いたこともないスキルでエウレカもろとも返り討ちに合ったのではないかと考察した。
スキルを与えることが出来る男がこの世にいる・・・そうであれば、法国で保護している魔力やスキル持ちの男など比較にならない事件である。
「本当になんなんだ、あのスキルは・・。本国ですら類似するものを見たこともないぞ・・。」
“十字軍”と“断罪”あんな出鱈目なスキルは見たことも聞いたこともない。本国にリオンが居たときにあのスキルが使えたのならば、強さと美しさを求めている陽光教において枢機卿、いや教皇にすら選抜されていたのではないかとすら思う。
今回の件を本国にある教会本部に報告するのであれば、自身の無力とリオンの優秀さを告げるだけの報告になってしまう。
エウレカはリオン追討を完遂する事で陽光教第2神子“ナルキス”の洗礼を頂く計画だったのだ。ナルキス暗殺未遂、リオン追討を完遂することで神子の評価を確固たるものにし、お情けを頂戴しようと考えていた。
エウレカは魔族と呼ばれる種族で、肌が浅黒く体躯が人よりも大きく魔力量が多いからか、人々特に男から忌み嫌われていた。そのため、今回の件を速やかに解決する事が、自身ひいては種族全体の悲願である”魔族の繁栄”を達成するための最低条件であった。
しかし今回の報告如何によっては、報酬どころか陽光教内での立場さえも危ぶまれてきた。
「くそっ!くそっ!!くそっっ!!!」
野外用に設置された小さなテーブルに、怒りに任せ拳を叩きつける。
元々、第2神子が演武の練習中のリオンを見て興味を持たなければこんな事にはならなかったのだ。
リオンが、リオンが、リオンが・・・。
女性であるエウレカから見ても美しく、男からもその美しさ故に誘われていたリオンへの嫉妬と怒りで内臓が焼け爛れそうであった。
・・・しかし何故、あのような美しい御子がリオンごときに力を貸すのか。
これまでのエウレカは、神子から洗礼に選ばれるという女としての栄誉を拒絶しているリオンに対する嫉妬と怒りが大半であった。
しかし、追討に失敗したからなのか、ヒカリという世にも珍しい男がリオンに縋る姿を見てしまったからなのか・・・嫉妬と怒りの矛先が徐々に別の方向を向き始めた。
_____この世のものとは思えない黒髪・黒瞳の美しい男を思い出す。
「ヒカリと言ってたか・・・」
柔らかで黒曜石のような美しい黒髪、優しくそれでいて意志の強さを感じる黒き眼。陶磁器のように滑らかで柔らかそうな肌。少年特有の痩せ気味の体躯。
彼を構成するすべての要素がエウレカを魅了してやまない。彼を思い出すと、不思議と嫉妬と怒りの感情が和らいだ。
あれほどまでに、神子との契りを意味する “洗礼”に対して恋焦がれ身を燃やすほど惹かれ、友であったリオンを陥れるほど狂わされ渇望していたはずの望みがちっぽけなモノにすら感じる程であった。
ヒカリがリオンに縋る姿はいじらしく、リオンを心配そうに見ている姿は、本当に女の身を案じているようだった。
しかしリオンに縋りつく彼を思い出すと、今までとは違う彼女への嫉妬と怒りが猛る炎となって身を焦がしそうになる。
この世界で女はモノだ。放っておいてもポコポコ湧いて出てくるものなのだ。間引きしようがされようが大勢に影響はない。それに引き換え男は、特に若い男であれば同量の金と交換が成立するほど貴重な存在なのだ。男であるというだけで、女を手酷く扱おうが袖にしようが許される存在なのだ。
そんな貴重な存在だからこそ、エウレカのような体躯の大きな、忌み嫌われる種族の女に、男から選ばれる順番が回ってくるなんて奇跡のようなものなのだ。
だからこそエウレカにとって神子から確実に子種を頂戴できる“洗礼”は特別なものであった。はずだった。はずだったのだが、ヒカリを思い出すだけで“洗礼”を浅ましく欲しがる自分が酷く汚いものに感じて恥ずかしくなる。
ヒカリの存在が、エウレカの脳内をゆっくりと侵しながら下腹部と胸に熱い何かをもたらしていく。
”彼ならば私に優しく縋ってくれるのかもしれない。”
”私の恐ろしい瞳を見つめてきてくれるのかもしれない。”
”もしかすると、私と子を成すことも・・・。”
ヒカリの事だけを考えれば考えるほど、幼子のようにリオンに縋りついていたヒカリを思い出し、彼女に対する嫉妬や怒りを綯交ぜにした憎悪という新たな感情の炎に薪がくべられていく。
炎が燃え上がれば燃え上がるほど、正常な判断すら出来なくなる。
ふと、思った。
”もしかすると、リオンに脅されて無理やり連れられているのかもしれない。”
”リオンに騙されているのかもしれない。”
リオンによって・・・
リオンと親しくするヒカリを思うだけで、嫉妬・怒りそして憎悪という感情が身体を燃やし尽くし、身が引き千切れるほどの苦しみを与えられる・・・が、ほんの僅かに快楽という芽が息吹き始めていた事にエウレカは気づかずにいた。
「・・・教会本部には、リオンは卑怯にも私が不在の時に追手を殺害し逃走中。教団員の仇を討つために私単独で追跡し、聖伐を下すと早馬で報せるか。あと増援も内密に指示しておくか。」
通常であれば、法国にある本部へ戻り異端者の生存を報告し、大部隊を編成し討伐に向かうのが常である。嘘の報告などもっての外である。しかし、ヒカリの存在が、洗礼のためだけに陽光教を重んじ、冷静な行動を取り続けたエウレカの全てを侵し始めていた。
「・・・リオンを亡き者とし、ヒカリを助ける。それもまた聖行かもしれんな。」
リオンを亡き者とし、教会本部へ亡骸を移送した後、陽光教を脱会してヒカリと二人で世界を回るのもいいかもしれない。
リオンに騙され傷ついたヒカリの心と身体を私が解きほぐしてあげよう。ゆっくりと、ゆっくりと睦びあいながら。
あんな女に縋るほど困っているのなら、私でいいではないか。
私の方があんな女よりきっと力も頭脳も優れている。
彼は、私に嫌悪感を抱いてなかった気がする。出会いは良くなかったかもしれないが、他人と会うときにいつも感じる嫌悪感に塗れた視線はなかったと思う。
では男から忌み嫌われる私と子を成すことも厭わないのではないか。
ヒカリと私の子であれば、きっと可愛いに違いない。
・・・世界を回りながら、私が冒険者として働いて、ヒカリが待っている宿に帰り、ヒカリと子供と3人で食卓を囲もう。2人目が出来たとき、ヒカリはどんな顔をするんだろうか。きっと喜んでくれるに違いない。
それはあまりに暖かで幸福な現実ではないか。
想像するだけでも、この世界のどんなものでも得られないであろう愉悦と快楽を感じてしまう。
くつくつと小さく笑いながら、心にある羅針盤の針が向かう先を決める。
______ヒカリよ、リオンから私が救ってあげよう。
枢機卿エウレカ=ファントム
Lv 63 (女 21歳)
狂戦士/魔剣士
『魔皇の系譜』『枢機卿』
Agi 355 Def 520 Atk 221 Ap 202
Hp 628 In 425 Ma 381 Str 441 Luk 18
スキル(ACT):聖剣術Lv5、闇魔法Lv4、風魔法Lv2、土魔法Lv1
スキル(固有):幻影
スキル(PAS):闇魔法適正Lv4、耐魔Lv2




