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おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~  作者: 椎名 富比路
第十一章 自堕落国王:ソロガス・キヤネンができるまで

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第46話 国王、オンステージ

 なんでも、今日バーで演奏するメンバーの一人が、遅刻するらしい。

 なので、一時的にステージに上がってくれとのこと。このオレに。


「またアイツらね。どうせ寝坊でしょ」


「万博渋滞だって」


「ウソでしょ? 万博で道路なんて、混んでないのよ。寝坊よ寝坊」


 どうやらその演奏家は、あまり信用されていないようだな。


「マジかよ。オレ、一曲しかできねえよ」


「一曲だけでもいいよ。あたいは客の相手しなくちゃだから、演奏できないのよ」

 

 まいったな。


「大丈夫、祖父がついているわ」


 ティナの祖父の眠る、仏壇というホコラを拝む。


「自宅にホコラがあるとは。すごい文化の発達だな」


 民間人が自宅で死者を悼む文化は、オレの世界にもある。としても、家の隅に花を飾るくらいだ。こんな立派なホコラを建てることは、オレの知る限りはない。金持ちでも、写真を飾る程度なはず。


「ソロガスさん、お酒も飲んであげて」


「ああ。ティナを見守っていてくれ」


 オレは、仏壇の前でグラスを傾ける。


「ギターも、聴かせてよ」


 ティナが、壁に立てかけてあったギターを用意した。


「いいのか? オレなんかがステージで演奏しても、騒音になるぞ。迷惑なんじゃ」


「構いはしないわよ。あなたの演奏を、聴かせてほしいってさ。祖父が」


 オレにギターを差し出し、ティナが演奏を促す。


「いい? あたしが教えた曲が、一曲目だから」


「おう。わかった」


 ギターを手にとって、オレは弾き始めた。

 

 オレのギターに合わせて、ティナが歌い出す。


「完璧ね。一曲しか教えていないけど、板についているわね」


「ああ。会う度に孫から急かされてたからな」


「いい家族じゃないの。帰りが待ち遠しくなっちゃったかしら?」


「かもしれん」


 ステージが始まる前に、もう二、三曲教えてもらう。昭和歌謡というものらしい。いわゆる懐メロというヤツだ。


「前より、すんなり覚えられた」


「練習を、怠っていなかったからよ」


 小屋で休んでいるときや登山のとき、練習が習慣になっていたからな。


「ありがとう。帰ったら、孫に聴かせてみるよ」

 

 オレはギターを持って、部屋を出る。


 舞台には、もう結構な数の客が集まっていた。


「ステージなんて、初めてだ」


「その割には、堂々としているわよ」


「普段は、この倍以上の民衆を相手にするからな」


「さすが。なら、プレッシャーはないわね」


「おう」


 あとは、客に満足してもらえる演奏ができるかどうかだ。


 歌手の絵が書かれたボードが、天井から降りてくる。


 描かれている歌手は、スラリとしたドレスを着た女性だった。


 しかし、絵から出てこない。


「どうしたんだ?」


「どうもしないわよ。あれが歌ってくれる子だから」


 歌手は、あの絵なのか。


『みんなーこんにちはー。昭和歌謡系Vチューバーの、御堂筋フォーファーよー』


 うわ、絵が動いた!? 


「なんだあれは? 魔物か?」


「あれはVチューバーよ」


ぶいちゅーばー?

 

「バーチャル・ユーチューバーと言ってね。なんていうのかしら。動くイラストの形をした、偶像なの」


 偶像のイラストとは。しゃべっているのは生身の人間であり、絵に声を当てているという。

 街なかでも、動く広告などがあって、ティナに色々と紹介してもらったな。


 観客は平然としている。絵の人物と、掛け合いの談笑していた。

 あれは普通に、一般社会で浸透しているのだろう。


『今日ちょっと、メンバー数名が遅刻してんのよね。あんだけ、酒は抑えときや、っていたんやけどねー。言うても聞かへんのよ。なので、急遽ピンチヒッターに来ていただきましたー』


 あいさつを振られたので、慌ててお辞儀をする。

 オレの一張羅は、Tシャツ一枚だけだ。


 が、誰も気にしている様子はない。


『ローガンくんっていうねんて。大きい舞台は、初めてやねんてな?』


 話を振られて、オレはうなずく。


『みんな、応援してね。ほな、一曲目!』 


 演奏の時間が来た。


「一曲だけだぜ」


「ええ。約束よ」


 大衆は、何事かとオレを見ている。

 

 オレはギターに、指をすべらせた。


 ティナのリードの元、オレは必死で演奏をする。


 客はアルコールが入っているものの、音楽の審美眼は心得ているらしい。


 これは、ヘタな演奏はできないぜ。


 Vチューバーというのが、歌い始めた。


 声を聞く度に、ココロの中から何かが沸き立つ気分になっていく。


 その高揚感が、オレの指に伝わって、演奏の力になる。


『みんな、ありがとー。助っ人のお友だちも、どうもありがとー』


 歌い終わると、オレに向けて小さい拍手が。


『演奏スタッフは、あともうちょっと時間がかかるんだって。知ってる曲ばっかり歌うから、もう一曲演奏してくれない?』


 なんというムチャ振り!


 オレは手をブンブンと振って、断る。


 しかし、観客の方からは歓声が。


 えーっ。求められてるってか? 


「いいのかな?」


「いいんじゃない。ソロガス王。お客さんも喜ぶわ」


 ならば、と、オレはギターを握り直す。 


 結局、続けて二、三曲披露した。


 演奏が終わると、観客がオレに拍手を送ってくれる。


 どうにか、楽しんでくれたようだ。


 ミュージシャンが到着したことで、オレの役目は終わり。


 変な汗を拭いつつ、オレはスタッフと交代をする。

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