第40話 召喚獣を使って、追跡
「ソロガス義兄様は、ペットを買いなさっておるのか。というか、召喚獣じゃのう?」
「マーヴェリックだ。かわいがってやってくれ」
「うむ。妾はフィオじゃ。よろしく頼むぞ。マーヴェリック殿」
すっかりフィオは、マーヴェリックのトリコになってしまったようだ。「ホレホレ」とジャレながら、メザシを与えている。
「見たことのない犬じゃのう? あるいはオオカミか。どんな種類の召喚獣なのじゃ?」
フィオは、マーヴェリックの腹を撫で続けていた。メザシを、マーヴェリックの顔に近づける。
「グラシャ=ラボラスだ」
「このかわいいのが、グラシャ=ラボラスとは!?」
驚いたフィオは、指ごとパクっとメザシを咥えられた。
マーヴェリックはメザシを、フィオの指とともになめっている。
「でもかわいいのう。愛らしいのじゃ」
「そう思ってもらえるだけで、こちらとしても楽しいぞ」
「しゃべったのう。召喚獣じゃから、言葉もわかるのかえ」
「主・ソロガスから知恵を拝借したのだ」
「器用じゃな」
ほとんどの召喚獣は、知恵を手に入れたとしても有効活用できない。
「自分が食うために、ちょっとしたイタズラなどで迷惑をかけることも多いというに」
「我は、低俗な魔物などではない。偉大なる、グラシャラ=ボラス種だからな。魔物たちの手本にならねばならんのだ」
「見事な志ぞな」
またフィオは、わらベッドの上でマーヴェリックと戯れる。
「ソロガス義兄様、マーヴェリックとは、あの?」
「ああ。魔王になっちまった親友の旧名だ」
今は違う名前を名乗っているため、マーヴェリックの名をコイツに継がせた。
彼なら、マーヴェリックの偉大なる名前を汚すことなどない。
「して、義兄様。マーヴェリック殿に、なにをさせるつもりじゃ?」
「コイツを嗅いでもらう」
オレが手にしたのは、カロンリーネのハンカチだ。
「そんなもの、どこで手に入れたのじゃ? 場合によっては、ヘンタイオヤジぞな」
「オレの私物だよ。カロンリーネがオレの誕生日に、自分で編んでくれたんだ」
「使わんかったのかえ?」
「もらったはいいものの、もったいなくてな」
ずっとアイテムボックスに閉まっていた。誰かに洗ってもらうのもしのびなく。
「ますますヘンタイオヤジに、一歩近づいておるのう。もう同じ桶で、下着を一緒に洗うてくれなくなるぞよ」
「もうとっくに、洗ってくれねえよ」
このハンカチには、カロンリーネの香りが大量に含まれているはず。
オレはマーヴェリックに、ハンカチを嗅がせた。
「ふむふむ。なんとも勝ち気な女の香りがするな。して、これがなにか?」
「このハンカチの持ち主を、探してもらいたい」
「……なあ、ソロガスよ。我は騎士犬のマネごとなどせぬぞ」
騎士犬とは、関所などにいる検品係の連れている犬だ。
嗅覚は普通の犬の四〇倍を誇り、危険な薬物や爆発物の持ち込みを厳しくチェックする。
おかげでキヤネン国は、これまで薬物や危険爆発物を持ち込んだ犯罪が起きていない。
「いや、お前さんなら絶対に、カロンリーネを探し出せる」
「それは騎士犬としてか? それとも召喚獣としての仕事か?」
「マーヴェリックという、一個人を信頼して頼む」
オレが説得すると、マーヴェリックはしばらく考え込む。
「あいわかった。もっとウマい獲物がほしい。それで手を打とうではないか」
「感謝する」
「ただ、この姿のままでは。いかんせん、嗅覚が鈍っていてな。本来の姿で探させてもらう」
「お前さんが、やりやすいようにしてくれ」
「ではフィオ殿、外に」
フィオに抱きかかえられながら、マーヴェリックは小屋の外へ出た。
「もとに戻るゆえ、離れておれ」
「うむ」
マーヴェリックを、フィオが放す。
川の側まで来て、マーヴェリックが巨大化した。
「なんか、巨大化しても魔物としての威厳はないな」
「ホントじゃ。あの犬の姿が、そのままデカくなっただけじゃわい」
大量に食いすぎたか?
「人と触れ合いすぎたことで、魔物としての本性を忘れてしまったようだな。まあ、これでも鼻は問題なく機能するので、安心するがよい」
「それは、頼もしい。さっそくやってくれ」
オレは、ハンカチをマーヴェリックに近づける。
「ふむ。あちらだな」
「あっちだと?」
ここから随分と離れた位置にある、中規模ダンジョンじゃないか。
そこは確か、冒険者ギルドが調査している地下洞窟のはず。
そんな危険地帯に、カロンリーネは乗り込んだってのか?
「一旦、冒険者ギルドへ向かったほうがよくないかのう」
「しかし、ギルドには話に行ったぜ?」
「メンバーの詳細については、聞いておらぬ」
アルマーの冒険者ギルドに、戻ってみた。
一応、マーヴェリックは犬の姿に。
「大規模パーティですか? 確かにいましたね」
「本当か! あの地下洞窟に行くって言っていたか?」
「はい。あまり目立っていませんでしたが、前衛に女性の聖騎士様を連れていました。騎士様が立ち会いでなければ、入れないダンジョンですので」
女性の聖騎士! 間違いない。
「どうしたのじゃ、義兄……ローガン殿」
フィオがオレのことを、冒険者としての偽名で呼び直す。
「カロンリーネは、騎士の修行を受けていた時期があってな。男勝りに腕っぷしが発つんだよ」
おまけに身分は、申し分ない。
あいつ、オレに黙ってダンジョン攻略しようってか!




