第41話 冒険者 カロンリーネ
温泉地から離れた、地下ダンジョンへと足を運ぶ。
ここに、カロンリーネがいるはずだ。
「ソロガス義兄様、いたぞよ」
フィオに指摘されて、物陰に隠れる。
たしかに、カロンリーネが数体の魔物を撃退していた。
それにしても、相当強いな。昔から腕っぷしは強かったが、これまでとは。周りのパーティとも、遜色ないじゃないか。もっと後ろの方で、魔法をペシペシ打っている印象だったぞ。
「あいつが、冒険者志望だったとは!」
組み付いてきたオークを、オレは回し蹴りで撃退した。
「どうでしょうな、ソロガス義兄様。単に、暴れたいだけなのかも」
フィオも、襲ってきたコウモリをノールックで数匹撃ち落とす。
王城にいては、色々とフラストレーションが溜まる。まして、何もしていないのであれば、力を持て余すもの。
「ふむ。ここに大型魔物が目を覚まして、温泉地に降りてきてしまう可能性があるとな」
季節的に現れる魔物らしく、定期的に討伐する必要があるそうだ。
年々強くなっているため、カロンリーネが匿名で討伐に来たようである。
カロンリーネのパーティを追って、最奥部にたどり着いた。
聖騎士の盾を、カロンリーネが地面に突き刺す。
「わたくしが浄化の魔法で、この地を清めます。その間に、みなさんは魔物をお願いしますね」
男女問わず、ちゃんと連携ができているな。もっと自己主張が強い子だと思っていた。
「来ましたわ」
カロンリーネが、魔法障壁を展開する。
大トカゲが、ワラワラとパーティを取り囲んだ。
「すごい力だ!」
レンジャーが矢を放ったが、トカゲの皮膚に弾かれてしまう。
これは、ピンチか?
「義兄様、こちらにも」
ドドドと、トカゲがオレの背後に迫ってきた。
「よし。ほらよ」
オレは裏拳で、トカゲをブチのめす。
「さすが、年季が違うのう」
「若武者とは、経験がダンチでね」
驚いているフィオだって、さすが王族だ。鍛錬は、怠っていないらしい。トカゲだって、すぐに退ける。
だが、オレたちが追い払ったせいか、カロンリーネのパーティにトカゲが殺到してしまった。数を減らしてやるつもりが、一極集中しちまうとは。
「ヤバいな。姿を隠して加勢するか?」
「いや。王女殿下を信頼しましょう」
オレは気が気ではない。
しかし、フィオはカロンリーネを信じ切っていた。
冒険者たちは、どんどんと劣勢に立たされる。全員生還しているのが、奇跡なほどだ。
「今ですわ! 浄化!」
カロンリーネが、地面に差していた盾を引っこ抜く。その勢いのまま、天へと盾を掲げた。
ズンと、天から重量のある光が降り注ぐ。
あれだけ暴れまわっていたトカゲたちが、我に返った。
「おお、魔物たちが襲ってこなくなったぞ」
「魔物の正体は、温泉地の瘴気だったようじゃのう」
地脈を通る魔力が強すぎて、コントロールが効かなくなったせいで、魔物たちが凶暴になってしまうのか。それで、浄化魔法で土地を清めなければならないと。
「お疲れ様でした。みなさんの協力のおかげで、今回もうまくいきましたわ」
探索が終わり、カロンリーネは冒険者たちと昼食を共にしている。
「もっと強い聖属性魔力で、いっそここの地脈を塞いでしまうこともできませんか?」
女戦士が、カロンリーネに問いかけた。
「できますわ。けど、それでは再び封じるときも、より強い聖属性の魔力が必要になりますの。バランスが大事なのですわ」
首を振りながら、カロンリーネは答える。
オレが教えたことを、ちゃんと守ってやがるな。
「ありがとうございます。おかげで地元の浄化がスムーズに終わりました。あなたはさぞご高名な聖騎士様なのでしょうな」
リーダーらしき騎士の男性が、カロンリーネを称賛した。地元の名士かな?
「わたくしは、しがない旅の聖騎士ですわ」
カロンリーネは、謙虚にしている。
「お高く止まっておらず、清々しいのう。やはり、王女殿下じゃ」
「ああ。変な虫がついている感じでもねえし」
オレたちが、酒場の隅っこで話し合っていると……。
「そこのお二方も、お疲れ様でした。こちらにきてお話でも?」
カロンリーネが、急に声をかけてきたではないか。
フードを被っていなければ、バレていたぞ。
「よろしければ、こちらでお話でも?」
「ケッコウダ。ソレデハ」
とっさに声色を変えて、オレたちはやりすごす。
「危ねえ。アイツ、ああいうところはマジで聡いんだよなあ」
「噂に違わぬ、地獄耳ぞ」
「ああ。アイツにだけは、バレないようにしないと」
「まあバレたところで、冒険の書のルールには外れぬがのう」
知り合いに見られたとしても、冒険の書には【認識阻害:他人のそら似】」という特殊効果がある。
なので、冒険の書の存在が発覚することはない。
「風呂に入って、落ち着くぞ」
温水プールを借りて、一服することにした。
大浴場より物足りないが、仕方がない。
あっちは、カロンリーネが入っていってしまった。まいったぜ。踏んだり蹴ったりだぞ。
「寂しそうじゃな」
「ああ。なあフィオ」
「ん?」
「あいつに、オレは必要なのか?」




