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おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~  作者: 椎名 富比路
第十一章 自堕落国王:ソロガス・キヤネンができるまで

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第37話 献杯

 当時、悪徳貴族どもが、麦やコメの抱え込みをしていやがったらしい。王族が必死で、国民たちを飢えさせぬように、炊き出しやら率先してやっていたのに。


「しかも、抱え込みを先導していたのが、教会ときたもんだ! とんでもない腐敗を、オイラは見過ごしていたんだ!」


 ジェアロームが、テーブルに拳を叩きつける。


「でな、ソロガス。オイラはよぉ、偉くなろうって決めたんだ。偉くなって、国民のための神父様になろうって! おかげで、お前のような弟子にも恵まれた。うれしいよ」


 オレは「わかったわかった」と、興奮するジェアロームをなだめた。


「オレのときも、飢饉は最近あったよ。どうにか乗り越えた。アンタの働きかけのおかげだ。ありがとう」


 あのときみたいに、ドリフトしながら食糧を荷馬車で運んできたときは、救いの神が来たと歓喜したものだ。


「……どうってことねえよ」

 

 強い酒を煽って、ジェアロームはコカトリスの鍋をガツガツと食らう。

 

「ありがとうよ。オイラの弟子になってくれて」


「んだよ、気持ちわりいな!」


「気持ちわりいって、なんだヨ!? オイラは感謝の言葉をおメエに」

 

「そういうの、アンタのガラじゃねえんだよ。今生の別れみたいで」


「あのなぁ、人はな、いつか死ぬんだ。オイラだって、神や精霊じゃねえ。オイラもいつか召される時がくらあ。そういうときは、なんの覚悟もねえときに、来るもんだ」

 

 そのまま、教皇はテーブルに突っ伏して、寝息を立てはじめてしまった。


「潰れちまった」


 よほど、いい酒だったんだろうな。

 

「あーあー。今から帰らなきゃならんのに。ほら、書の発動だけさせろ。寝るなら家で寝ろっ」


 病気の人間が、こんなに酔っ払って。

 

「おーん」


 生返事だけして、教皇は書を発動させようともしない。


「しゃあねえな。勘定、置いておくからな!」


 オレはおっさんを抱えて、書を発動させた。ファストトラベルで、教会の寝室まで飛ぶ。


 おっさんを寝間着に着替えさせる。


 枕を背中側に詰めて、横向きに寝かせた。吐瀉物の誤嚥による窒息死を、防ぐためである。 


 よし、あとは帰るだけ。


「ソロガス」


 はっきりとした言葉が、後ろから聞こえた。

 

「ん?」と、オレは振り返る。


「また明日な」


「ああ。また食おうな」


 それが、オレとおっさんとの、最後の会話だった。



 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~


 

「まさか義兄(あに)様が、教皇様を看取っていたとはのう」


 フィオが、涙ぐむ。

 

「看取ってはいない。オレが送った翌朝に、亡くなったと知らせを聞いた」


 オレはてっきり、誤嚥性の窒息死を想像した。酔っ払いの死因は、そんなもんだ。オレの管理が、甘かったのかなと。


 しかし、教皇は眠るように死んでいたという。思い残すことなんて、なにもないという感じで。


「苦しまずに逝けたなら、いいのかなって」


 オレは最後に、一杯だけ酒をいただく。ジェアロームがスキだった酒を。


 グラスを持って、オレは席を立つ。


「献杯だ」


 乾杯とは違い、故人への敬意を表する儀式を「献杯」という。

 

 ジュースのグラスを持って、フィオも立ち上がる。


「偉大なる教皇、【教皇(ポープ)】……【司教(ビショップ)】:ジェアローム・フロストよ。あなたは質素なれど、満たされる日々の素晴らしさを教えてくださった。その清貧なる精神は、民の心にも深く刻まれていることでしょう。どうか安らかに。献杯」


 オレはジェアロームに代わって、グラスを煽った。

 

 あの世でも、ガッツリ飲んでくれや。





「よく言うぜ。飲めねえくせによお」


 


「ン? アンタ、どうしてここに!?」


 オレの隣の席に、ジェアロームが座っていた。


 フィオは、いない。先に、地元へ帰ったのか。

 

「んだよ。メシを食いに来たんじゃねえか。何を言ってやがる?」


 そういいながら、ジェアロームはいつものようにグラスを空けた。


「ああ~。コイツがありゃあ、オイラは一〇年は長生きできそうだ」


 オレは、苦笑する。


「そっちはどうだ?」


「オレにも、弟子ができたよ。妻の姪なんだけどな」


「いいことだ。ソロガス、その子を大事にしろよ」


「ああ」

 

「じゃあ、オイラは行くからな」


「もう少しだけ、話さないか?」


「いやあ。神が待ってる」


「ジェアローム!」


 オレは、ジェアロームの手を取ろうとした。



 

「……にさま! 義兄様、放しておくれ、寝室でこの光景は、イカン!」


 目を覚ますと、オレはベッドに眠っているではないか。フィオの手首を掴んで、引き寄せようとしていた。


 フィオが、運んでくれたらしい。


「おっとすまん! オレはいつ寝ていた!?」


 慌ててオレは、手を放す。

 

「あの酒を飲んで、義兄様は一発で倒れたんじゃ!」


 そんなに、強い酒だったのか。


「すまん。フィオ。気を付けてな」


「義兄様も、潰れぬように注意されよ」


 スカートのホコリを払い、フィオは冒険の書を開いて去っていった。


 オレが、ドジるとはなあ。


 弟子に世話になるとか、まんまあのときのジェアロームじゃないか。


「アハハ。オレは骨の髄まで、アンタに似ちまったらしいな」


 窓から真っ暗な空を見上げながら、オレは笑いが止まらなかった。


 

(第十一章 おしまい)

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