第35話 生臭坊主、極まる
「コカトリス、うまいだろ?」
「うむ。食えると思わなんだ」
「実はオレとジェアロームだって、食えるって知らなかったんだ」
試しに食ってみたら、うまかったってわけ。
「なんともチャレンジャー! ソロガス様ったら!」
オレとフィオが、シャモ鍋をつつきながら笑う。
「しかしまた、よう腐らずにコカトリスの肉が大量にあるのう? それも、何十年も」
「コカトリスの毒は、防腐剤にもなるんだよ」
毒も使いようによっては、肉の保存剤にも使えるのだ。悪い菌を追い払う、重要なクスリになる。
普通は防腐剤やポーション用に、コカトリスは毒だけ抜き取るのだ。肉は処分されることが多い。
「それにしても、肉は余るのかえ?」
「コカトリスのシャモ鍋を食うのは、たいていオレかジェアロームくらいだからな」
「まあ、コカトリスが食えるなど、誰も思わんからのう」
「うまいって知らないから、誰も食わないんだよな」
「あなた様も、教えんからじゃっ」
「それがなあ。オレたちの胃が丈夫だから食えるのかもって思ってな。普及させなかったんだ」
なので独り占めし放題、ってわけ。
大将も、オレとジェアロームが上客なので、コカトリスをちゃんと取ってくれている。
「それで、ソロガス義兄様が王様になった頃の話を聞かせておくれ」
「おう。そうだったな」
~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~
【冒険の書】の恩恵を受けられるのは、オレたち国王ばかりではない。
教会の神父も、同様の力を持つ。
もっとも、教会を任せられる強い力を持った者に限られるが。
また、小さい村の神父だと、なかなか抜け出せないなどの悩みがあるようだった。
ストレスがマッハ化した神父が【魔王:エビルプリースト】となって悪事を働き、異界から来た冒険者に退治された例もある。
しかしもともと不良神父だったジェアロームは、冒険の書との相性はバツグンだった。
彼は破戒僧として、オレに悪いことをドンドン教えてくれたっけ。
【冒険の書】のルールを理解して、初めて使おうにも、どうやって活用すればいいのかわからない。
冒険者から教わった食事処も、オレの自由時間のときには閉まっていることも多かった。
タイミングが、悪すぎたのである。
この当時は、オレも要領が悪かった。
そこで、【冒険の書】使いの先輩であるジェアロームに、相談したのである。
「よし。いい場所を知ってる。お前さんの書にも、同様の店が示されているな。よし、そっちへ行こう」
市場にある大衆食堂に、連れて行ってもらった。
そこで初めて、メザシを体験する。
「この大衆食堂は、コメだけでもうまいな!」
握り飯とメザシをワシワシと食いながら、先輩悪童であるジェアロームと共にメシを囲む。
「玉子焼きもイケるぞ」
自分の分の玉子焼きを、ジェアロームは惜しげもなくオレにくれた。
なんだかジェアロームは、「若手の旅芸人を腹いっぱい食わせたい、パトロン」に見えてくる。
「あんたは、冒険の書を使っていても、清貧を貫いているんだな?」
「いやあ、こうやって労働者に紛れて、ジョッキのビールをいただくのが、最高のぜいたくってもんなのよぉ。持つ者の特権ってヤツ?」
周りの客を差し置いて、一人だけガブガブとビールを煽った。
コイツはどこまでも、生臭坊主が抜けないらしい。いつか、背中から刺されるんじゃねえかな?
それからも、ジェアロームはオレに色々と息抜き方法を教えてくれた。
「いいか? 冒険の書ってのは、ぜいたくをさせるために与えられるものではない。贅の限りは、王宮で十分やっているだろ?」
そうではなく、自分にとっての楽しみに使うのだと教わる。
山のてっぺんで読書をしてもいい。
場末の酒場でエールをチビチビやるのも、オツなもの。
自分の時間を確保することこそ、冒険の書で手に入る特別な力だと。
「この一人時間こそ、冒険の書の真髄だと、オイラは考えている。お前さんだって、ときどき一人になりたいことあるだろ?」
「ああ」
朝から晩まで会合会合で、ぶっ疲れることが多い。
「人と会うのがしんどいってとき、誰も自分のことを知らないカフェで、のんびり読書とかしたくね?」
「したい、したい」
「じゃあ、やってみればいいじゃん」
助言通りやってみると、これがまた最高の気分だった。
時刻は深夜になってしまうが、いわゆる「チル」できる時間を確保できる。一人カフェ、最高。
「どうしてそこまで、極まっちまうんだ?」
「冒険者のうちに、情報を集めておくんだよ」
で、冒険者が持ってきてくれる情報をさらに細分化して、自分の経験と照らし合わせるのだ。
結果、最適解ができあがる。
「結局自分を癒せるのは、自分だけなんだよなあ。それに気づくかどうかだろ」
「あんたがいうと、重みが凄まじいな」
「前任者が、失敗続きだったみたいだからな。悪い見本を見まくっていた」
冒険の書でもぜいたくの限りを尽くしてしまい、かえって落ちぶれてしまった王もいるらしい。
「こういうのは、バランスが大事なんだよ。オレはあまり欲望がないから、満足いくハードルが低いんだ。ちょっとしたことでも、幸福を感じる。だが、他の王や神父は、豪遊するたびに、より遊び方が過激になっていった」
「楽しくなさそうだな」
「ああ。ちょうどいいってのが、いいんだよ」




