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おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~  作者: 椎名 富比路
第十一章 自堕落国王:ソロガス・キヤネンができるまで

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第35話 生臭坊主、極まる

「コカトリス、うまいだろ?」


「うむ。食えると思わなんだ」


「実はオレとジェアロームだって、食えるって知らなかったんだ」


 試しに食ってみたら、うまかったってわけ。


「なんともチャレンジャー! ソロガス様ったら!」


 オレとフィオが、シャモ鍋をつつきながら笑う。

 

「しかしまた、よう腐らずにコカトリスの肉が大量にあるのう? それも、何十年も」


「コカトリスの毒は、防腐剤にもなるんだよ」


 毒も使いようによっては、肉の保存剤にも使えるのだ。悪い菌を追い払う、重要なクスリになる。


 普通は防腐剤やポーション用に、コカトリスは毒だけ抜き取るのだ。肉は処分されることが多い。


「それにしても、肉は余るのかえ?」

 

「コカトリスのシャモ鍋を食うのは、たいていオレかジェアロームくらいだからな」


「まあ、コカトリスが食えるなど、誰も思わんからのう」


「うまいって知らないから、誰も食わないんだよな」


「あなた様も、教えんからじゃっ」


「それがなあ。オレたちの胃が丈夫だから食えるのかもって思ってな。普及させなかったんだ」


 なので独り占めし放題、ってわけ。


 大将も、オレとジェアロームが上客なので、コカトリスをちゃんと取ってくれている。


「それで、ソロガス義兄(あに)様が王様になった頃の話を聞かせておくれ」


「おう。そうだったな」


 

 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 



【冒険の書】の恩恵を受けられるのは、オレたち国王ばかりではない。


 教会の神父も、同様の力を持つ。


 もっとも、教会を任せられる強い力を持った者に限られるが。


 また、小さい村の神父だと、なかなか抜け出せないなどの悩みがあるようだった。


 ストレスがマッハ化した神父が【魔王:エビルプリースト】となって悪事を働き、異界から来た冒険者に退治された例もある。

 

 しかしもともと不良神父だったジェアロームは、冒険の書との相性はバツグンだった。


 彼は破戒僧として、オレに悪いことをドンドン教えてくれたっけ。



【冒険の書】のルールを理解して、初めて使おうにも、どうやって活用すればいいのかわからない。


 冒険者から教わった食事処も、オレの自由時間のときには閉まっていることも多かった。

 タイミングが、悪すぎたのである。

 

 この当時は、オレも要領が悪かった。


 そこで、【冒険の書】使いの先輩であるジェアロームに、相談したのである。


「よし。いい場所を知ってる。お前さんの書にも、同様の店が示されているな。よし、そっちへ行こう」

 

 

 市場にある大衆食堂に、連れて行ってもらった。


 そこで初めて、メザシを体験する。

 

「この大衆食堂は、コメだけでもうまいな!」


 握り飯とメザシをワシワシと食いながら、先輩悪童であるジェアロームと共にメシを囲む。


「玉子焼きもイケるぞ」



 自分の分の玉子焼きを、ジェアロームは惜しげもなくオレにくれた。

 

 なんだかジェアロームは、「若手の旅芸人を腹いっぱい食わせたい、パトロン」に見えてくる。


「あんたは、冒険の書を使っていても、清貧を貫いているんだな?」


「いやあ、こうやって労働者に紛れて、ジョッキのビールをいただくのが、最高のぜいたくってもんなのよぉ。持つ者の特権ってヤツ?」


 周りの客を差し置いて、一人だけガブガブとビールを煽った。


 コイツはどこまでも、生臭坊主が抜けないらしい。いつか、背中から刺されるんじゃねえかな?


 それからも、ジェアロームはオレに色々と息抜き方法を教えてくれた。



「いいか? 冒険の書ってのは、ぜいたくをさせるために与えられるものではない。贅の限りは、王宮で十分やっているだろ?」


 そうではなく、自分にとっての楽しみに使うのだと教わる。


 山のてっぺんで読書をしてもいい。

 場末の酒場でエールをチビチビやるのも、オツなもの。


 自分の時間を確保することこそ、冒険の書で手に入る特別な力だと。


「この一人時間こそ、冒険の書の真髄だと、オイラは考えている。お前さんだって、ときどき一人になりたいことあるだろ?」


「ああ」


 朝から晩まで会合会合で、ぶっ疲れることが多い。


「人と会うのがしんどいってとき、誰も自分のことを知らないカフェで、のんびり読書とかしたくね?」


「したい、したい」


「じゃあ、やってみればいいじゃん」


 助言通りやってみると、これがまた最高の気分だった。


 時刻は深夜になってしまうが、いわゆる「チル」できる時間を確保できる。一人カフェ、最高。


「どうしてそこまで、極まっちまうんだ?」


「冒険者のうちに、情報を集めておくんだよ」

 

 で、冒険者が持ってきてくれる情報をさらに細分化して、自分の経験と照らし合わせるのだ。


 結果、最適解ができあがる。


「結局自分を癒せるのは、自分だけなんだよなあ。それに気づくかどうかだろ」


「あんたがいうと、重みが凄まじいな」


「前任者が、失敗続きだったみたいだからな。悪い見本を見まくっていた」


 冒険の書でもぜいたくの限りを尽くしてしまい、かえって落ちぶれてしまった王もいるらしい。


「こういうのは、バランスが大事なんだよ。オレはあまり欲望がないから、満足いくハードルが低いんだ。ちょっとしたことでも、幸福を感じる。だが、他の王や神父は、豪遊するたびに、より遊び方が過激になっていった」


「楽しくなさそうだな」


「ああ。ちょうどいいってのが、いいんだよ」

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