第34話 僧侶との冒険で、根深汁
ゴボウと鶏肉しかないシャモ鍋をつつきながら、オレはフィオに昔話を聞かせてやる。
「一五歳のオレにとって、あのヤロウの、ジェアロームの存在は衝撃的だった」
「妾にとっての、義兄様のようなもんじゃな」
「近いな。血縁関係はないが、悪いことを教える親戚みたいなポジションに、ジェアロームはいたな」
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オレは冒険者として、旅をすることもあった。
騎士というより、王族として、世界を見て回ることも多いのだ。
また、今回向かうダンジョンの敵は強い。オレの腕を見込んで、討伐に当たってほしいとの知らせだったのである。
普通、こういう討伐依頼に当たる王子ってのは、お飾り程度のことが多い。
ジェアロームは、オレの先生でもあった。武術のイロハや、回復術の使い方まで、色々教えてくれたのである。
そのため、オレは他の騎士たちより強い。
ダンジョン攻略に向かったパーティには、ジェアロームもいた。
ジェアロームは腕も確かだが、主にメシの担当である。
各自が総出で、食材まで用意していたくらいだ。ジェアロームに、メシを作ってもらうために。
彼がよく作ってくれたのは、「根深汁」という質素な味噌汁だった。材料は味噌、ネギとダシとしょう油だけ。
なのに、極上の旨さでオレたちを満たす。
「いつ食っても、あんたの根深汁はうまいよ」
オレたちは、ネギだけのスープで温まる。
この日は大規模ダンジョンの攻略で、心身ともに疲弊していた。
他のパーティはみんな、現地調達したモンスターを材料にして食事をしている。
オレたちのパーティは違う。根深汁のような、質素な食事で済ませた。先が長いことを見越して、食糧を温存しているのである。
「よく言うぜ。最初は、馴染めなかったのにか?」
「ネギだけのスープなんて、うまいのか謎だったからな」
しかし今は、根深汁こそ恋しい。
「ああ、うまい。これだよこれ」
味噌の香りの中で、ほんのりとしょう油が主張してくるのがたまらないのだ。それにネギが味噌の味を吸って、うまいのなんの。
これを握り飯と一緒に食えば、元気百倍だ。
「ダンジョンをもう一周、できそうだぜ」
「やってみるかい?」
ジェアロームが、ニヤリとする。
「いや、他のメンバーがウンザリしているから、やめとくか」
メンバーと一緒に、笑い合う。
結果的に、他のチームは食事の在庫がなくなりだして、脱落していった。
そんな中、オレたちだけがゴールまでたどり着いたのである。
とはいえ、ジェアロームはまったく自慢することもなかった。「運が良かっただけだ」、と。
実際、まったくそのとおりだった。近道が見つかったことも偶然で、応援を呼ぶ余裕もなかったのだ。ヘタに未熟な冒険者を呼び込んだら、魔物たちの餌食になっていたから。
終わった後も、簡単な宴会で済ませる。
「これで、乾杯といこうじゃないか」
オレたちの前に出されたのは、ゴボウと鶏肉の鍋だ。
「ああ、うまそうな鍋じゃないか。具材がこれだけしかないのに、どうして食欲がそそられるんだ?」
「うまいからさ」
強めの酒を煽りながら、みんなでシャモ鍋をつつく。
このうまさときたら、王宮で食っていたものはなんだったのかと思うほどである。
たしかに、王宮で出される料理は、凝っていて、健康も考えられていた。その中で、よりぜいたくな印象を与えてくる。
対して、この飾りっ気のない鍋はどうか。
実にうまい。
鶏肉のプリプリとゴボウのシャキシャキを同時に食らうと、なんとも幸せになる。
こんな簡単に、幸福というのは手に入るものなのだ。
ぜいたくをすれば、いいってものではない。
清貧を追求する、ジェアロームならではのこだわりを感じた。
質素は美徳ではあるが、けっしてみじめではない。
この具がほとんどない鍋でさえ、オレを身体の芯から満たしてくれる。
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「これが、そのシャモ鍋かのう」
フィオが、鶏肉を持ち上げた。
「そうだ。熱い酒と一緒に食うのが、スキなヤツだった」
「それにしてもうまいのう。なんの鶏かの?」
鶏肉を口へ放り込む。
「コカトリスだ」
「コ……!?」
そう。相手を石化させちまう、凶悪な巨大ニワトリである。
「マジかえ? そんな魔物を、鍋にしておったのか」
「ああ。オレとジェアロームは、コカトリスを退治に向かったんだよ」
今でも、この近くのダンジョンでは、コカトリス狩りを生業とする冒険者がいるのだ。どいつもかなりの達人クラスだが、獲物はオレたちが倒した個体よりめちゃ小さい。
「オレたちが食っているのは、当時のコカトリスだよ。デカすぎてな。何年かかっても、まだ肉が食えるんだ」
魔法で保存しているため、まだ大量に残っている。
「よく生きて帰れたのう」
「鍛えられたからな」
いざとなったら、オッサンのバステ治癒魔法があったし。
「それでも、ヒーラーがおらなんだら、全滅必至ではないかっ」
「なぜかオレは、ジェアロームがいたら勝てる気がしたんだよ」
で、オレが国王になった話に。




