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おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~  作者: 椎名 富比路
第十一章 自堕落国王:ソロガス・キヤネンができるまで

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第33話 ある神父様の死

 オレは、ある神父様の葬式に出ている。


 バディック皇国の教皇、ジェアローム・フロスト。享年、八六歳。「世界一質素な教皇」と呼ばれ、贅沢を嫌っていた。


 民衆からは、姓のフロストではなく、「ビショップ・ジェアローム」と呼ばれて親しまれていた人物である。階級は神父最上位の教皇(ポープ)なのに、冒険者だった当時の司教(ビショップ)と呼ばせていたのだ。


 この神父を愛していたのは、オレだけじゃない。


 一般大衆さえ、参列を許されている。


 神父の最高位である、【法王】だってのに。


「こちらの方は、愛されていたのじゃな……」


 喪服姿のフィオも、棺に花を添える。


「随分と、しんみりしておるのう、義兄(あに)様」


「ああ。こればっかりはな。ロスがひどい」


 ジェアロームの体調が悪いってのは、聞いていたんだがな。前々から覚悟はしていたが、いざ死を目の前にすると。


「あなた」


 オレを心配して、王妃がオレの腕に手を添えた。

 

「ちょっと、風にあたってくる」


「お昼食までには、戻られますか?」


 皇国が、来賓者用に立食を用意してくれているらしいが。


「先に食っていろ。というか、胃に入りそうか?」

 

「あんまり。わたくしも、ショックが大きくて」


「ムリすんなよ」


「はい」


 王都の関係者に断りを入れて、オレはフィオを連れ出す。


「アイテムボックスに、着替えは入ってるか?」


「うむ。肌身離さず、冒険者コスは常備しておるぞ」


「よかった。ちょっと出かけよう」


 正直、こんなしんみりした状況、あのオッサンには逆に悲しまれるだろうな。


「笑って送ってやりたい。ちょっとなにか食っていこう」


「皇国主催の、立食会があるではありませんか」


「あんなんで、腹が満たせるかっ」


 もっとガッツリしたものを食わねば、楽しくない。

 あのオッサンがスキだったもの……鍋だ。


「【冒険の書】を使うぞ」


 オレは、鍋が食える店まで飛ぶ。


 寒い地域を、あえて選んだ。鍋を食うなら、こういう場所だろう。


「オヤジ、熱いのをくれ」

 

「あいよ」


 店主に頼んで、オレはフィオと席につく。


「昼間から、アツアツの鍋を囲むってのは、ぜいたくだな」


「教皇様がお天道様から見ていたら、バチが当たりそうじゃ」


「バカ言うな。あのオッサンはこんな食卓こそ、望んでいるんだからな」


「左様なのか?」


「ああ。あのオッサンは、ジェアロームは……」


 言いかけて、店のオヤジが鍋を持ってきた。

 

「おまちどう。お客さん。も一つ熱いのも、つけますか?」


 手を傾ける仕草を、店主が見せてくる。

 

「いや。今日は……ああ、悪い。一本くれ」


 オレは指を一本立てて、返答した。

 

「あいよっ」


 ニコニコしながら、店主がカウンターへ戻っていく。


「具が、鶏肉とゴボウしかないぞよ」


 しょう油ダシの中で、鶏もも肉とゴボウが踊っていた。


「シャモ鍋です。これがお好きな冒険者の方が、おりまして。はい、おまちどうさま」

 

 熱した酒を、店主が持ってくる。


「いただこう」


 フィオの分を、より分けた。


「うむ。ありがとう義兄様」


 オレは、鍋を三人分よそう。


「もう一つの器は、どなたのじゃ?」


「教皇の分だ」


 酒も、教皇の席に置いた。


「あのオッサン、アツアツの酒を飲みながら、シャモ鍋を、食うのが……」


 鍋の湯気ではない水分が、オレの頬を伝う。


「すまん。みっともないところを見せた」


 濡れた手ぬぐいで、オレは顔を拭く。


「あなたが涙ぐむとは。よほど親しまれていた方なのじゃな」


「三五年前からの、付き合いだからな」


 オレは鼻をすすった。


「あなたが一五歳の頃から?」


「そうだ」


「そんな昔から。教皇とは、どういった方だったのじゃ? 妾は幼い頃に会ったきりで、よく覚えてないのじゃ」


 フィオが元服した頃は、もう病床だったっけ。


「彼は、今のオレを、形作ってくれた人だ」



 ジェアロームは、オレが少年騎士だった時代からよくしてくれた。オレが国王になってから、【冒険の書】のまともな使い方を教えてくれた人物でもある。


 オレとジェアロームとの出会いは、騎士だった頃だ。



「そのときオレは、雪の被害に遭った街で、炊き出しの仕事をしていたんだ」

 


 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 



 季節外れの雪は、北東にある隣国への街道を塞いでしまった。

 

 北東からの支援は来ない。西の港は、嵐で大しけ。

 

 最も近いキヤネン国から持ってきた物資で、なんとか炊き出しをするしかなかった。


「ヒャッハー!」


 荷馬車が、ウイリーして来やがった。盗賊かと思ったら、司教様ではないか。教会の神父様が、冒険者とは。

 

 貧民街に、大量のパンとリンゴを載せた荷馬車がやってきた。司教が御者とか。


「へへぇ! リンゴを持ってきてやったぜ! ぼっちゃん、おじょちゃーんっ!」


 ドリフトをしながら、司教は荷馬車を駐める。


「司教様、あなたは南西の出ですよね? これは?」


「ああ、なんかおめえさん方キヤネン国がピンチっちらしーじゃん?」


 オレの顔を見るために、司教様はグラサンを傾けた。


「だからよお。昔の(よしみ)で、来てやっちゃったわけオラオラ、たくさんあるからケンカすんなー」


 子どもたちにリンゴを配りながら、司教のオッサンはオレに返答した。


「感謝いたします。ですが、これだけの物資をどうやって?」


 たしかに、南西のバディック皇国は、緑豊かな土地である。


「んなもん、オレのポケマネからに決まってんじゃーん」


 私財を投げ売ったのか。なんという善人の鑑か。


「ソロガスです」


「オイラは、ジェアロームって呼んでくれや」

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