第29話 使い魔、マーヴェリック
オレはグラシャ=ラボラスに、「マーヴェリック」と名付けることにした。
「由来は?」
「……古い友人の名前だ。今はどうしているか、わからんが」
ソイツはマーヴェリックの名を捨てて、いずこかへ消えた。
「ネガティブな記憶で、申し訳ない。だがお前さんなら、ポジティブに受け継いでもらえるかと思うぜ」
「よかろう。一匹狼とは、我そのものとも思える」
「そうそう。お前さんにピッタリだ」
「孤高の存在というわけだな。よろしい。では契約と行こうか」
マーヴェリックと契約をするため、オレは自分の腕をナイフで傷をつけた。血をマーヴェリックに舐めさせれば、正式に契約は成立だ。
「うむ。ローガンが……いや待てよ」
オレ、偽名だった。危ねえ! 偽名では、契約できねえじゃん!
「ソロガス・キヤネンが命じる。かのグラシャ=ラボラス種に名を刻まん! 汝の名はマーヴェリック、孤高の猛獣なり!」
オレは、マーヴェリックに血を舐めさせる。
「ふむ。契約は成された」
ポンッ、と、マーヴェリックが煙に包まれた。
煙が晴れると、コミカルな見た目の魔物が。
これが、使い魔バージョンのマーヴェリックか? ぬいぐるみのようなサイズに変わったぞ。
「おお、随分と愛らしくなったではないか」
「省エネモードだ。これで過ごさせてもらう」
「危なくないか? そんなにかわいらしかったら、さらわれるんじゃ?」
「そこまで、貧相ではない。いざとなったら、飛んで逃げるわい」
「普段の姿では、過ごさないんだな?」
「いつもの状態では、そなたがくれたエサなんぞ、半日で食い尽くすぞ」
それは困る。
「この姿ならば、大きな家も不要なり。そなたの小屋で、世話になるぞ」
「いいけど、必要なものはないか?」
「今のところはないな。エサも大量にあるし、このメザシとやらも、一日九匹くらいで十分なり」
食糧関係は、問題ないという。いざとなったら、川に入って魚を捕るそうだ。
川だから、自動水飲み道具とかも必要ないよな。
「トイレどうしようか? 付けてやるけどな」
「その辺の川で、済ませよう」
ならば、必要はないか。
「お、改築の相談をしていたら、来たようなだな」
冒険者たちが、オレの小屋までやってきた。男女四人組だ。
「なあ、アンタ! これくらいデカいモンスターを見なかったか?」
剣士タイプの男性が、オレに問いかける。
「いいや。知らんな」
「その使い魔は、あなたのですか?」
今度は、魔法使いがオレに聞いてきた。
「おう。マーヴェリックと言ってな。羽の生えたオオカミなんだ」
「その子、グラシャ=ラボラスの子どもでは?」
ぎくり。
「だったら、気をつけたほうがいいぞ。グラシャ=ラボラスが、この辺りを飛び回っている。素材になるって思ってケンカを売ったんだが、我々の手には負えない」
彼らも、相当な達人と見える。しかし、あまりにも思考が若い。戦ってもいい相手かどうか判別する術に欠けている段階で、まだまだである。
もしマーヴェリックがグラシャ=ラボラスとして五体満足だったら、オレでも無事では済むまい。レッドドラゴンのキサラギに、助けてもらおうかしら?
「でも、あきらめたほうがいいかも」
魔法使いの少女が、思考する。
「どうしてさ? グラシャ=ラボラスの羽毛は、いい素材になるんだぞ。それで金を得るんだ!」
「子どもがいるのかも」
少女の言葉に、さっきまで強気だった剣士が急に萎縮した。
「……そうか。あのグラシャ=ラボラスは親で、巣を守るために暴れたって可能性があるのか」
剣士も察しがついたのか、引き返すことにしたようだ。
「我々は、討伐をあきらめることにするよ。あんたも、気をつけるんだ。引退した冒険者のようだが、グラシャ=ラボラスの巣が近いというなら……」
「その心配はない。ここは、商業ギルドで買った土地だ。下調べをせずに売ったりなど、せんだろ」
「たしかにな。しかし、気を付けて」
冒険者たちは、帰っていく。
「危ないとこだったな」
「まあ、バレたとしても、返り討ちにしてやるが」
「よさんか。オレがここにいられなくなっちまう」
それこそ本格的な討伐が始まって、スロイーライフどころではなくなるだろう。ここも追い出されるに、違いない。「グラシャ=ラボラスを操る魔王が、河原で読書をしているぞ」と。
「冗談だ。また、使い魔になった以上、我に素材としての価値はない」
使い魔の素材は、すべて主の所有物になる。主を殺さない限り、だが。
「では、オレはそろそろ行かねばならん」
帰らないと、怪しまれてしまう。
「あいわかった。この小屋は、我が有意義に使わせてもらおう」
「粗相は勘弁な」
こっちに来て小屋の中が粗相まみれだったら、泣くに泣けない。
「そこまでのシツケは、心得ておる。欲しいものはあるか?」
「あー、じゃあ。お前さんの素材で、枕かベッド、クッション辺りを」
「ぜいたくだな。しかし、羽毛を用意しておくか」
「頼む」
オレは一旦、国に帰ってきた。
「マーヴェリックのヤロウ。どうしてっかなぁ。いや、元マーヴェリックか」
今度、フィオにも会わせてやろう。いや、会わせてやらねば。
魔王となってしまった、元マーヴェリックに。
「魔王は、【冒険の書】の禁を破った者の、末路だからな」
(第九章 おしまい)




