第24話 王の存在意義
さて、釣りの再開だ。
「タイというのは、うまいのかの?」
「そりゃあもう」
王都などでも振る舞われるが、どうしても鮮度が落ちてしまう。
やはり、釣りたてを食うのが一番だ。
新鮮なまま提供してくれるのは、港町か東洋くらいだろうな。
しかし、その日はタイが釣れなかった。
しょんぼり状態で、宿へ向かう。
「お待ちしておりました、ローガン様。カレイの煮付けでございます」
いい香りとともに、煮付けがテーブルにやってきた。
今宵は、カレイの煮付けになぐさめてもらおう。
「いただきます」
うまそうな煮付けを、ありがたくいただく。
「ああ、裏切らん」
煮付けは、オレを裏切らない。
深夜、それももうメシを二杯も食っている。
なのにどうして、メシが欲しくなるのだろうか。
「ごはんを小で」
「妾もじゃ。持って参れ」
宿の主人に、ライスをもらう。
「ああ、これだこれ。うま」
ジュワッとタレが染み込んだ身を、ライスといっしょに食らった。
これ以上のぜいたくを、オレは知らん。
これだよ。お上品じゃない、庶民の味付けな煮付けが、ほしかったんだ。
こういうものを、オレは求めている。
「うまいのう」
フィオも、煮付けの味を覚えてしまったようだ。
「かわいそーなソロガス義兄様に、卵のプレゼントじゃ」
気を遣って、フィオがオレにカレイの卵を分けてくれた。
「いやいや。オレは今日、お前にこれを食わせるために連れてきたんだ。これはお前さんが食いな」
一番ウマいところまで、独り占めする気はない。
「では、半分こ、ということで」
フィオといっしょに、卵をシェアする。
「おっほぉ。卵がプリプリじゃ」
「うまいな。相変わらず」
口に入れると、プチプチと卵がちぎれていく。
これが、最高なんだよ。
カレイは、これのために食っていると言っていい。
「いやあ、リベンジの気迫を養うには、ちょうどよい味付けだったのでは?」
「ああ。たまらん。もう一杯、メシをもらいたいくらいだ」
さすがにこれ以上長居をすると、永久パターンに入ってしまう。
もうフィオも、オネムだ。
残念だが、釣りはまたの機会に。
さて、釣りのリベンジを迎えた。
腹ごしらえとして、宿へ。
前日に予約しておいたおにぎりとメザシを、弁当として持って行く。
「義兄様、今日こそは釣りましょう」
「いやあ、釣れなくていいよ」
コイツにウマいタイを食わせてやりたい、って気持ちはある。が、釣れるまでトコトン付き合ってもらうつもりはない。
竿を垂らしている時間こそ、オレの至福の時間だからな。
釣れなかったら最悪、港で買うし。そっちのほうが新鮮だろうからな。
「わかるぞよ」
メザシをおかずに、フィオはおにぎりをパクつく。
ちなみにオレたちは、【手を清潔に保つ魔法】を使っている。魚のエサを針に通した状態でも、おにぎりが汚れない。
「あああ。義兄様がメザシをありがたがる理由が、今わかりましたぞ」
むっしゃむっしゃと、フィオがメザシを噛み締めていた。
そうそう。そうやって噛みしめると旨味がドンドンと溢れてくるんだよ。
「最高だろ? メザシとメシのコントラストは」
オレもメザシをオカズに、おにぎりを食らう。
ああ、うまい!
「うむ。これだけ食ろうていると、釣りをしているだけでも満足よのう」
フィオにも、釣りの醍醐味ってのがわかってきたようだ。
こういう時間が、ときどきオレはほしくなる。
「こうやって竿を垂らしておると、色々と考えてしまうのう」
「だろ?」
「主様、我々王族は、本当に必要なんじゃろうか?」
フィオは、自分はただのお飾り王女なのではないかと、内心は悩んでいるらしい。
「そう考えちまうのは、な。あれなんだ。自分がなにも積み上げていないからさ」
「なにも、成し遂げていないと?」
「ああ」
フィオの言う通り、ぶっちゃけオレたち王様はお飾りなのだ。
先代の国王が成してきた平和を、ただ維持するだけでいい。
それだけでいいし、それこそが王族の、ひいては庶民たちの求めているものだから。
オレたちにとっては、この上ない退屈な仕事である。
「正直、騎士時代のように、野山を駆け巡って魔物を討伐している頃のほうが、充実している。今よりは」
たしかに、楽にはなった。
だがオレのやっていることは、先代の功績を守っているだけ。
自分では、なにひとつ成果を出していないのだ。
「ときどき妾を襲うストレスは、なにも築き上げていないのにぜいたく三昧な状況にある、と」
「だろうな。罪悪感なのかもしれない。オレがこんなに自由気ままでいいのだろうかってな」
オレの娘も、近いことを考えているのだろうよ。
だから、自分でなにかできることがないか、探しているのかもしれない。
「どうじゃろうな。なんだか、悪い気がしてきたぞよ」
「それでいい」
オレがいうと、「ん?」とフィオは聞き返してきた。
「王様ってのは、それでいいんだよ。ただ、国民のために寄り添っていれば」
「達観しておるのう。それでよいのか?」
「ヘタに国民のために、とかってチョロチョロしていたほうが、かえって王族にとっては迷惑なんだろうよ。波風立たせるようなことはしたくないだろうさ」
「なるほど。王様とは難しいのう」
「まったくだ……おっ、かかったぞ!」




