第23話 姫と夜釣り
エサを針に通して、投げ釣りをする。
タイとカレイは、同じ岩場を好む。だが、生息場所は微妙に違う。
タイは岩礁やサンゴ礁など、複雑な地形を好むのに対し、カレイは砂地が好きらしい。
「カレイを釣りたいなら、糸の設定をもっと長くしたほうがいいかもな」
「うむ。それにしても、竿がピクリともせんのう」
フィオはさっそく、飽き始めたか。
「本来の釣りなんて、そんなもんさ」
釣り堀で入れ食いってのも、別に悪くない。だがそれは、魚を食う前提だったりする。
オレはもっと、釣りという行為自体を楽しみたかった。
竿を下ろしておいて、じっくりと自分の時間を費やす。
「あたたかいコーヒーをどうぞ、お嬢様」
「うむ。かたじけない」
ドワーフに作らせた「魔法の瓶」とやらに、温かいコーヒーを保存しておいた。
これにミルクと砂糖を足して、飲む。
「あったまるぞい。こういう時間もええのう、ローガン義兄様」
「だろ、フィオ」
それでも、いいじゃないか。
とか考えていた。
だが早々に、オレの竿に反応が。
「おっ。さっそくおでましか。なんだなんだ? 強いぞ!」
魔法で、リールを巻く。
かなり引きがいい。これはデカい獲物がかかったみたいである。
オレは興奮してきた。
「いい感じだな。これはきっと大物が……っ!」
釣り上がったのは、イワシが五匹だけ。
「大物じゃな」
「ああ。これはこれで、悪くない」
イワシが来ているってことは、マダイも付近にいるってわけさ。
これは俄然、やる気が出てきたぞ。
「イワシ自体も焼くとうまいから、これはこれで、後で焼いて食おう」
「うむ。義兄様の言っていたメザシとやらも、気になっておってのう」
「その場でメザシは、ちょっと難しいかもな」
メザシってのは、イワシを塩漬けにして干したものだ。イワシ自体を、メザシっていうわけじゃない。
「こいつは半分その場で食って、残りは宿でメザシにしてもらおう」
この岩場には、近くに二四時間営業の宿がある。そこで釣った魚を、サバいてもらえるのだ。
「それはよいのう!」
やる気を取り戻したフィオが、立ち上がった。なにやら、竿に竿に念を込め始めているではないか。
入れ食い魔法なんざ使っていないが、これでは魚も寄り付かんだろう。
「そんなに殺気立っていたら、エサに気持ちが伝わっちまう。そうすると、魚が警戒するぜ」
「うむ」
「気長に待つのが、一番なのさ」
とかいうオレは、その後もイワシを二〇匹くらい釣り上げた。
「おっ! かかったぞよ!」
グイングインと、フィオの竿がしなっている。さっきのイワシより、かなりでかい獲物だ。
「義兄様! 助けて!」
竿を折らないように、フィオは慎重に糸を撒く。
「任せろ!」
オレはフィオの腰を持って、フィオが海の向こうへ引っ張られないように踏ん張った。
急に糸が、ガクンと力を失う。
「あっ! 糸が切れてしもうた!」
糸がバレる、つまり、切れてしまったと、フィオは感じているようだ。
しかし、違う。
「糸を巻き続けろ! ヤツはまだ針に食らいついている。引っ張ってくるぞ!」
「うむ!」
格闘すること約一〇分、フィオはついにカレイを捕らえることに成功した。
「やったぞよ、義兄様! 釣れたぞよ!」
「いいな! これは誇っていいサイズだぜ」
フィオも満足げである。
さっそく、釣った魚を宿へ持っていった。
「これは見事ですね」
宿の大将が、デカいカレイをシッポから持ち上げる。
「すばらしいサイズです。どう料理してもうまいですよ、コイツは」
「冒険者のローガンと、フィオという。さっそくこの魚を、調理してもらいたい」
「結構でございます」
「では、カレイのエンガワは寿司にしてくれ。身は煮付けにしてもらいたい」
「承知いたしました。お先に、エンガワのお寿司を振る舞わせていただきます」
イワシを塩漬けにしてもらうのも、忘れない。後日また伺う約束をして、メザシにしてもらった。
もう半分は、その場で焼く。
焚き火でイワシを焼いている間、エンガワの寿司がきた。
いただきます。
「釣りたて、うま!」
「エンガワって初めて食ろうたが、こんな味がするのかえ?」
「ああ。生ってだけでも、めちゃうまだ」
オレも、釣りたてカレイは初めて食うかも。王宮が料理してくれたより雑味があるが、それがまた素敵。
イワシも焼けた。ちょっと焦げ臭いくらいが、ちょうどいいんだよな。
サクッとしたイワシの食感が、震え上がるほどにうまい。
この塩を振っただけの小魚は、ちまたではザコと呼ばれている。このザコはどこまで、オレたちを魅了するのか。ザコどころか、ラスボスだぜ。
「ああ、白いメシください!」
「妾も!」
二人揃って、焼きイワシで白いメシをかきこむ。最高。これだけで、トベる。
「馳走になった、店主。また伺う。そのときに、メザシをいただくぞ」
たくさんはいらないので、オレたちが必要な分以外は売っていいと店主に告げた。
「エネルギー充填、完了したぜ」
「第二ラウンドじゃ。その後で、カレイの煮付けじゃな」
「めっちゃ楽しみになってきた」
後は、煮付けができるまで、釣り続行だ。
まだオレは、タイを釣っていないんだからな。




