第22話 エリクサー・ロード
「おうフィオ、起きれたか」
「うむ。ソロガス王、義兄様よ」
オレが声をかけると、フィオは軽くアクビをした。
今日は約束通り、フィオリーナと夜釣りである。
「少し、肌寒いのう」
フィオは、ややモコモコした防寒具を着ていた。
寒いから対策しておけと、オレが指示したのである。
「しかし、大物が釣れるぞ」
「うむ。期待しておる」
オレたちは、岩場が近い村にやってきている。
波打ち際に位置し、魚釣りを目的とした冒険者が多数いた。
彼らも、大物を狙っているのだ。
このスポットは、近くの港町ほど、船の出入りが盛んではない。漁獲量だって、少々なもの。
その分、デカい魚が穫れるとウワサなのである。
「タイが釣れると言ったの? 他に、どんな魚が?」
「カレイを釣ったってやつを、知っているぞ」
「ふむふむ」
「だが、オレたちからすれば、竿を下ろしているだけで楽しいもんさ」
オレたちには、こういった時間こそ、必要なのだ。
「うむ。釣れなかったら、また来ればええし」
そういうことができるのも、オレたちの強みだ。
「しかし、忙しかったぞい」
「だな。連日の公務で、腰がバキバキだった」
「うむ。温泉には、世話になったわい」
オレたちは時間を作っては、【冒険の書】を使って会っている。といっても、女性一人ではなかなか通いづらい場所についていく程度であるが。
温泉一人旅なら、女性でもいけるかと思った。
が、フィオの顔を知られていない場所となると、なまじ秘境しかない。
それで、オレもついていくハメになる。
当然、温泉に入り終わったら、さよならだけど。
そこからずっと、会えなかったからなあ。久しぶりだ。
「ようやく夜釣りができるのう」
「まったくだ。お天気までは、オレにも操作できんからな」
釣りに行く約束は前々からしていたが、天候不良が続き、危険だと思って控えていたのである。
大賢者のエルフ様なら、こういった天候操作もできるんだろうが。
とはいえ、以前大賢者エルフから聞いたことがある。
「ヘタに天候を弄ったら、その揺り戻しが来るぞ」と。
オレのワガママのために、お天道様のご機嫌を損ねるわけにはいかない。
なので、オレはどんな天気になっても、身を委ねることにしている。
今日はようやく、波が落ち着いた。
絶好の、夜釣り日和である。
「夜ふかしはやめられんのう、義兄様」
フィオは、自分で針にエサをつけた。オレが教えたとおりに、あっさり覚えやがるとは。
「そうだろ、そうだろ」
一度やってしまうと、この特権はありがたく思えてくる。
「このアイテムがなかったら、危うかったのう」
フィオが持っているのは、銀色のリンゴだ。
これこそ、秘宝中の秘宝。その名も、【エリクサー・ロード】である。
オレたち国王が、どうして夜ふかししても頭が冴えているかというと、これのおかげなのだ。
これを一口食って眠ると、八時間以上の睡眠に相当する。
【冒険の書】を持つものにしか使えない、貴重なアイテムだ。
「王族となれば、釣りスポットなども用意してくれるものなのじゃなあ」
「だろ? でも、なあ」
あんなので満足できるような、オレではない。
「釣りがしたい」といえば、港町や船をまるまる貸し切ってもらえる。
最高級の竿を振らせてもらい、エサを付けてもらい、入れ食いの魔法を唱えてもらう。
そんな至れり尽くせりのイベントなど、誰が喜ぶのだ?
しかも、釣った魚は触らせてもらえない。自分で獲った魚を自分でさばくなんて、もってのほか。
オレだって、毒のある魚くらいわかりますよーだっ。
騎士時代、狩りや釣りはオレの仕事だったんだからなっ。
まあ、オレの家族は釣り自体に興味がなさげである。
ウチの息子は、魚自体を触らない。
孫ならいざしらず、ウチの家はオレ以外、まともに魚を触ろうと考えないんだよなあ。
そんな孫娘も、生き物を見る行為がスキなだけで、当然調理自体はムリ。王女様だから花嫁修行も不要なため、料理なんてできなくてもいいんだけどな。
娘に至っては、オレの公務についていこうとすらしない。
「王女殿下は、今でも引きこもっていらして?」
「ああ。政治より魔法とか商売とかに夢中のようだ」
「王女殿下は、極度のインドアですゆえに」
「ああ。王子のもらい手がなくなるぜ、って話しているんだけどな。あいつは、女性の社会進出を支援したいって躍起になっていてな。結婚などという風習は苦手なんだと」
「あなたとはまた違って、フリーダムな人生を歩みたいのじゃな?」
「だろうな。王室の生活なんて、窮屈以外の何物でもないし」
食事くらいは顔を出すが、屋台のスイーツを出前してもらうのにハマっているようだ。なので、あまり王家での食が進んでいない。
「ある意味、オレと同じ冒険者適性がめちゃ高いんだよなあ。隠れて冒険者とか、やってそう」
「言いえて妙じゃのう。あのお方らしい」
「だよなあ。オレとしては身を固めろ、とは言わんから、幸せになってもらいたいもんだ」
「そう言って差し上げよ。照れくさいなど、言わんじゃろ。あなたらしくもない」
「うーん」
「ソロガス殿ともあろうお方が、めんどくさいオッサンではないか」
「はいはい。オレはめんどくさいオッサンでいいですよ」
さて、気を取り直して釣るぞ釣るぞ。




