第21話 茶粥で一息
泥酔とはいかなくても、千鳥足でお店にたどり着く。
「ごめんよ。空いているかい?」
完全に、声がガラガラだ。ヨッパライ客だから、追い出されかねん。
「どうぞっ」
ハキハキしたおばあちゃんが、モンペ姿で出迎えてくれた。
酔っ払いが相手なのに、気前がいい。
「悪い。少し酒が入っている」
「そんなの、いつものことですよっ。すぐお持ちしますね」
何もオーダーしていないのに、おばあちゃんは厨房へ引っ込んでいった。
「ウチは朝帰りのお客さんも、多いんですよ」
もうおばあちゃんは、調理を開始している。
メニュー表を見ると、お茶粥しかない。
だからか。
冬季限定メニューなども、置いていない。
お茶粥と、漬物と、味噌しかないとは。やたら、攻めてるなあ。
「お茶です。もう少しお待ちを」
温かいお茶を、持ってきてもらった。
うん。これはメシが進んじゃうお茶だ。
「はいどうぞー」
でました。お茶粥が。
丼いっぱいに、お粥が注がれていた。
本当に、お茶で煮ただけの粥である。これが本当にうまいのか……。
「いただきます」
思案するより、行動あるのみ。まずは、なにもつけずに食うぞ……。
「うっま」
これは見事なまでに、お茶の粥だ。お茶がウマいのか、コメがウマいのか。その両方だろう。何も味付けしていないのに、うまかった。
カゼのときに食った白粥とは違って、トロミがない。塩気も、漬物だけで取れというストイックさ。
なのに、なんだこの多幸感は?
初めて食べたのに、どこか懐かしい。
これに、塩の効いた漬物を合わせると……。
「おっほ!」
シャリシャリと鳴るタクアンが、甘くなった。
米が溶けたお茶と合わさったことで、塩気がマイルドになっている。
しょっぱい葉っぱが、またうまい。
「この、超辛い葉っぱはなんだ?」
「大根の葉で、ございます」
これが、大根の葉かっ! こんな形をしていたとは。
こっちは、知っているぞ。梅干しだ。
デカいなあ。中型魔物の魔石くらいあるぞ。しかも、見るからに辛そうだ。これで、めちゃ体にいいっていうのだから、漬物文化は計り知れん。
うん。合う合う。お茶漬けにはこれだろ、と言わせんばかりの自己主張さがいい。酸味が強いが、これがお茶に合う。
食えば食うほど腹が減るって、どういう原理なんだ? なんかもう、スイスイ進んでしまう。ただのお茶の粥なのに、全然やめられん。
飲んだ後だから、余計にこの味がありがたかった。マジで、オレの全身が求めていた味である。
あっという間に、一杯めが空に。
「すまん。かわりをいただけるか?」
「はい。おかわりは自由ですからね」
周りを見ると、オレ以外の客も何杯目かのお代わりをしていた。
やっぱり、うまいんだ。
二杯目は、味噌を足してみる。
白味噌と、赤味噌があるのか。
たしか、味噌と混ぜて食えと、言っていたな。
まじぇまじぇ……いただきます。
「おおおおお!」
うまい!
味噌汁とはまた違った、奥行きのある食感である。
これは、さっきの漬物よりもサラサラと終わってしまった。うますぎだろ、これ。
白味噌だけで、二杯も食えちゃった。
続いて、赤味噌をいただこう。
あーこっちは、パンチが強いな。こちらも二杯食らう。
それにしても、止まらん! やばすぎる。何杯目なんだろう、今。
しかし、急に満腹感が襲ってくる。
「おおっふ。これで、ごちそうさまとしよう」
「ありがとうございました」
代金を払い、店を後にした。
いやあ、最高すぎる。お茶粥は、ああいう味なのか。
イワシの塩焼きも卵焼きも、なにもない。お茶粥だけで、勝負する店とは。
これは、リピートしちゃうやつだ。
次の日から、オレはモーニングと茶粥をハシゴでいただくことにした。
甘いものを抑えた日は、運動をした後でアズキトーストを食らう。
過労でストレスがマッハな時は、アズキに癒やされる!
脳が糖分を欲しているのが、全身でわかるぞ。たんとアズキを、食らうがいい。バターと合わせても、いい感じだぞ。甘いとしょっぱいが交互にやってきて、格別の味だ。
で、ハッシュポテトさ!
シャッキシャキという食感が、オレをトリコにする。ああ、うまい。こちらはなにもたさなくても、十分にうまかった。人を飽きさせない、絶妙な塩加減よ。
飲んだ日の後は、お茶粥と決めることに。
お茶粥は、社交界で疲れた胃に優しい! ちょっと腹が空いたなってときの、ちょうどよさ! あと味噌の魔力! 漬物の食感ときたら! どれも甲乙つけがたい!
味噌もアズキも、どっちもマメなんだよなあ。豆を潰しただけの食品で、ここまで味が変わるとは。
これがまた、たまらんぞい。
現地では朝なのに、夜中に満腹で帰って来るとか。時差ボケがやばすぎるな。今何時だろうとか、時計を確認してしまう。
ただ、当日の朝を迎えると、さして食欲がわかない時があるんだよなあ。さすがに食いすぎてる。
「あなた、体調でも悪いのでございますか?」
「いや。すこぶる体調はよい。朝食がほとんどいらんくらいだ」
「それは、体の調子が悪いというのです。白粥でもいただいては、いかがですか?」
朝の白粥ってのも、あるな。また別の地方に、あるらしいが。あっちは肉もいっしょに煮込むんだっけ。
そっちも、試さねば!
「あら、なんだか、顔色が戻ったような気がしますわね」
「だろ?」
オレは毎朝、絶好調なので。
(第七章 おしまい)




