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第八話 這い寄る混沌

 第八話 這い寄る混沌


 世界は砕けていた。


 神の作った黒い空間。


 その一角で、信長とジャンヌが光槍を押さえ込んでいる。


 だが限界は近い。


 神の力は圧倒的だった。


『人間風情が』


 黄金の瞳が細くなる。


『英雄風情が』


 空間そのものが悲鳴を上げる。


『余に逆らうな』


 その時だった。


 ユウマの背後で鎖の音が響いた。


 ジャラリ。


 ジャラリ。


 振り返る。


 そこには無数の光の檻が浮かんでいた。


 その中に閉じ込められているのは。


 敗北した英雄達だった。


 アインシュタイン。


 チンギス・ハン。


 無数の英雄達。


 数え切れないほど。


 歴史上の偉人達が鎖に繋がれている。


「これが……」


 ユウマの顔が歪む。


「お前の正体か」


 神は笑った。


 初めて邪悪な笑みを浮かべた。


『ようやく理解したか』


 英雄達が苦しそうに顔を上げる。


『彼らの魂は美味でな』


 神の身体が変化し始める。


 黄金の皮膚が崩れる。


 光が剥がれ落ちる。


 その下から現れたのは。


 人ではない何か。


 顔がある。


 だが次の瞬間には触手になる。


 老人の姿になる。


 子供になる。


 王になる。


 怪物になる。


 無数の姿が混ざり合っていた。


 見ているだけで狂いそうになる。


 ジャンヌが顔をしかめた。


「やはり……」


 信長の目が細まる。


「化け物か」


 神が笑う。


 いや。


 神ではない。


 それは最初から神などではなかった。


『余の名は』


 世界が震えた。


『ニャルラトホテプ』


 無数の顔が同時に笑う。


『這い寄る混沌』


『神々の使者』


『千の仮面を持つ者』


『人類を弄ぶ者』


 その瞬間。


 ユウマは理解した。


 こいつは願いを叶える存在などではない。


 人類の争いを見て楽しむ怪物だ。


 英雄召喚戦争も。


 願いも。


 勝者も。


 全てが嘘だった。


 ◇


『余は退屈だった』


 ニャルラトホテプが笑う。


『故に英雄を集めた』


 光の檻が輝く。


 そのたびに英雄達が苦しむ。


『戦わせ』


『絶望させ』


『敗北させ』


『魂を喰う』


 アインシュタインが歯を食いしばる。


 チンギス・ハンも激怒していた。


『貴様ァ……』


 征服王の殺気が噴き出す。


 だが鎖が強すぎる。


 動けない。


 ユウマの中で何かが切れた。


「ふざけるな」


 静かな声だった。


 だが怒りに満ちている。


 歴史オタクだった。


 英雄が好きだった。


 偉人達が好きだった。


 だからこそ許せない。


 彼らをこんな風に扱う存在を。


 ◇


「信長」


「うむ」


「助けるぞ」


 信長が笑った。


 覇王の笑み。


「決まっておる」


 炎が吹き上がる。


 《第六天魔王》


 発動。


 だが。


 今までと違う。


 ユウマは叫んだ。


「織田信長!」


 炎が膨張する。


「戦国最大の革命家!」


 さらに膨張。


「旧時代を破壊した英雄!」


 魔力が増える。


「誰よりも自由を求めた人間!」


 轟音。


 信長の炎が何倍にも膨れ上がった。


 ◇


「行くぞ!」


 信長が突撃する。


 炎の刃が鎖へ振り下ろされる。


 ドゴォォォォォォン!!


 一本。


 切断。


 光の檻が砕ける。


 そこから現れたのは。


 アインシュタインだった。


「助かったよ」


 彼が笑う。


 ユウマも笑う。


「先生」


「私は先生じゃないよ」


 そう言いながらも嬉しそうだった。


 そして。


 次の瞬間。


 アインシュタインの周囲に膨大な魔力が集まる。


『相対性支配』


 鎖が停止する。


 時間そのものを固定した。


「今だ!」


 ◇


 続いてチンギス・ハン。


 信長が鎖を断つ。


 征服王が解放される。


『ハッ!』


 豪快に笑う。


『面白くなってきた!』


 蒼狼の覇気が吹き荒れる。


 そのまま他の英雄達の救出へ向かう。


 次々と解放される偉人達。


 ジャンヌ。


 ナポレオン。


 始皇帝。


 真田幸村。


 アレクサンドロス。


 エジソン。


 歴史の英雄達が次々と自由を取り戻していく。


 ◇


 ニャルラトホテプが初めて顔を歪めた。


『余の玩具共が』


 怒りだった。


 今までの余裕が消えている。


 だが。


 もう遅い。


 解放された英雄達が前へ出る。


 チンギス・ハン。


 アインシュタイン。


 ジャンヌ・ダルク。


 信長。


 そして無数の英傑達。


 歴史そのものがそこにいた。


「気に入らぬな」


 信長が刀を向ける。


『同感だ』


 チンギス・ハンが剣を抜く。


『悪趣味です』


 ジャンヌが旗を掲げる。


『実に非合理的だ』


 アインシュタインが笑う。


 英雄達の殺気が世界を震わせた。


 ◇


 ユウマは前へ出る。


 そして。


 ニャルラトホテプをまっすぐ睨んだ。


「お前を倒す」


 這い寄る混沌が笑う。


『やってみろ』


 世界が砕ける。


 空が裂ける。


 無数の触手が現れる。


 神話級の怪物がついに本性を現した。


 そして。


 英雄達は並び立つ。


 歴史上最強の軍勢。


 人類の叡智と勇気の結晶。


 対するは混沌そのもの。


 最終決戦。


 人類史VS邪神。


 その幕が上がった。

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