第七話 神の裁定
第七話 神の裁定
『私も神を許していません』
ジャンヌ・ダルクの言葉が闘技場へ響いた瞬間。
世界が静まり返った。
観客席。
召喚士達。
英雄達。
誰も動けない。
そして。
空に浮かぶ神から初めて感情が漏れた。
怒り。
純粋な殺意だった。
『黙れ』
その一言で空間が歪む。
ドゴォォォォォォォン!!
ジャンヌの身体が吹き飛んだ。
地面を転がる。
血が舞う。
観客席から悲鳴が上がった。
「なっ……!?」
ユウマは目を見開く。
試合への介入。
それは初めての出来事だった。
◇
「ジャンヌ!」
聖女セレスが叫ぶ。
ジャンヌは立ち上がる。
だが神の圧力は増していた。
空そのものが潰れそうになっている。
『英雄風情が』
黄金の瞳が細くなる。
『余を否定するな』
ジャンヌは笑った。
血を流しながら。
それでも。
英雄らしく。
『否定します』
静かな声だった。
だが揺るがない。
『あなたは神ではない』
その瞬間。
神の魔力が爆発した。
観客席の一部が吹き飛ぶ。
結界が砕ける。
世界が震える。
『黙れぇぇぇぇぇ!!』
◇
ユウマが信長を見る。
信長は既に刀へ手を掛けていた。
「我慢できん」
覇気が漏れている。
「余が最も嫌うものじゃ」
神による横暴。
理不尽な支配。
信長は生前からそれを嫌っていた。
だから。
今も変わらない。
「ユウマ」
「分かってる」
二人が前へ出る。
◇
「ふざけるな」
ユウマの声が響く。
神が視線を向ける。
観客席も静まり返った。
今。
一介の人間が神へ話し掛けている。
それだけでも異常だった。
「これは英雄召喚戦争なんだろ」
ユウマは神を睨む。
「だったら試合に介入するな」
神が笑った。
冷たい笑みだ。
『人間が』
圧力が増す。
『余へ意見するか』
「する」
即答だった。
信長も笑う。
狂気すら感じる笑みだった。
「面白い」
◇
その時。
神が手を掲げた。
世界が暗転する。
闘技場が消える。
観客席が消える。
地平線が消える。
残ったのは。
黒い世界。
そして。
巨大な神だけだった。
「これは……」
ユウマが息を呑む。
空間転移。
それも常識外れの規模。
神が口を開いた。
『気に入らぬ』
黄金の瞳が信長を見る。
『気に入らぬ』
次にジャンヌを。
『気に入らぬ』
最後にユウマを。
『故に処分する』
◇
その瞬間。
巨大な光槍が降ってきた。
都市すら消し飛ばせる規模。
神罰。
まさしくそんな一撃だった。
しかし。
「舐めるな」
信長が前へ出る。
炎が爆発する。
『第六天魔王』
能力発動。
ゴォォォォォォォ!!
巨大な魔王の炎が光槍と衝突した。
世界が揺れる。
だが止まらない。
神の力が圧倒的だった。
「ぐっ……!」
さすがの信長も押される。
◇
「信長!」
「余計な心配をするな!」
炎がさらに増大する。
しかし。
押し返せない。
神はあまりにも強すぎた。
その様子を見て。
ジャンヌが静かに旗を掲げる。
『聖旗顕現』
純白の光が広がる。
『神意ではなく』
光が信長を包む。
『人の希望を守ります』
魔力が流れ込む。
信長の炎が膨れ上がる。
そして。
信長が笑った。
「気に入ったぞ」
ジャンヌも微笑む。
英雄同士。
理解し合う笑みだった。
◇
しかし。
それでも足りない。
神の力は圧倒的。
光槍は少しずつ降りてくる。
敗北。
その二文字が現実味を帯び始める。
その時だった。
ユウマの頭へ声が響いた。
『聞こえるか』
誰かの声。
聞き覚えがあった。
『少年』
ユウマが目を見開く。
チンギス・ハンだった。
◇
振り返る。
そこにいる。
消えたはずの英雄達が。
アインシュタイン。
チンギス・ハン。
そして他にも。
歴代の脱落者達。
『やはりな』
アインシュタインが笑う。
『神は我々を喰っていた』
「何?」
『敗北した英雄は消えるのではない』
チンギス・ハンが剣を構える。
『閉じ込められていたのだ』
衝撃だった。
ユウマの予感は正しかった。
この神は。
英雄達を利用している。
◇
「ユウマ」
信長が叫ぶ。
限界が近い。
光槍が迫る。
ユウマは拳を握った。
そして決めた。
願いなどどうでもいい。
優勝もどうでもいい。
欲しいものは一つだけだった。
「神を倒す」
そう呟いた瞬間。
神が笑う。
『ならば来い』
世界が震える。
黄金の光が溢れる。
『人類よ』
瞳が細くなる。
『余へ挑戦してみせよ』
宣戦布告だった。
英雄召喚戦争は終わる。
代わりに始まるのは。
神と人類の戦争。
そしてユウマは知らない。
その神が。
さらに恐ろしい真実を隠していることを。




