第六話 ジャンヌ・ダルクの祈り
第六話 ジャンヌ・ダルクの祈り
試合終了後。
ユウマは与えられた控室に戻っていた。
だが眠れない。
神が見せた光景が頭から離れなかった。
英雄達が苦しんでいた。
消滅していた。
まるで魂を搾取されるように。
「信長」
「起きておる」
窓際に腰掛けていた信長が振り返る。
月明かりが黒髪を照らしていた。
普段より静かな表情だった。
「お前も気付いてるだろ」
「うむ」
信長が頷く。
「この戦争はおかしい」
「やっぱりそう思うか」
「あの神」
彼女の目が鋭くなる。
「英雄を敬っておらぬ」
英雄召喚戦争。
その名前自体は立派だ。
だが。
実際は違う。
神は英雄を道具として扱っている。
使い捨ての兵器として。
それが信長には気に入らなかった。
覇王だからだ。
英雄の誇りを知っている。
だからこそ。
ユウマもまた同じ結論へ辿り着いていた。
「最後まで勝って願いを叶える」
「最初はそのつもりじゃったが」
信長が笑う。
獰猛に。
「今は神の顔面を殴りたい」
「俺も」
二人は笑った。
完全に意見が一致した。
◇
翌日。
第三回戦。
闘技場に歓声が響く。
残る召喚士は四人。
ユウマ。
聖女セレス。
魔王候補ヴァルト。
王族リーン。
そして。
英雄達。
織田信長。
ジャンヌ・ダルク。
始皇帝。
ナポレオン。
強者だけが生き残っていた。
『第三回戦を開始する』
神の声。
空へ試合カードが映し出される。
神代ユウマ 織田信長
VS
聖女セレス ジャンヌ・ダルク
観客席が沸く。
信長と同じくらい人気が高い英雄。
ジャンヌ・ダルク。
フランスを救った聖女。
神の声を聞いた少女。
そして。
歴史上屈指の悲劇の英雄。
◇
「気を付けろ」
試合前。
信長が呟いた。
「強いか?」
「強い」
珍しい反応だった。
信長がここまで警戒するのは初めて。
「何が厄介なんだ」
「信念じゃ」
ユウマは納得した。
確かに。
ジャンヌ最大の武器は信念。
戦術でも権力でもない。
不屈の精神。
絶対に折れない心。
それこそが彼女を英雄たらしめた。
◇
フィールド。
向こうには白銀の旗を持つ少女がいた。
金髪。
白鎧。
透き通るような青い瞳。
そして穏やかな微笑み。
『初めまして』
ジャンヌ・ダルクだった。
信長も軽く手を上げる。
「うむ」
『織田信長』
「知っておるか」
『もちろんです』
ジャンヌが微笑む。
『あなたもまた歴史を変えた英雄ですから』
「ふふ」
信長も少し嬉しそうだった。
◇
開始。
その瞬間。
聖女セレスが叫ぶ。
「神の乙女!」
魔力が膨れ上がる。
「フランスを救った救世主!」
神聖な光が広がる。
「ジャンヌ・ダルク!」
轟音。
巨大な十字架が出現した。
ユウマは驚く。
ちゃんと理解している。
今までの相手とは違う。
セレスは英雄研究をしている。
だからジャンヌの力を引き出せている。
『聖旗顕現』
旗が広がる。
戦場を覆う。
観客席が驚愕する。
「結界だ!」
「領域能力!」
「厄介だぞ!」
◇
ユウマも叫ぶ。
「織田信長!」
炎が噴き出す。
「天下人!」
「革命家!」
「第六天魔王!」
赤い炎が応える。
だが。
異変が起きた。
信長の魔力が削られている。
「何だ?」
ユウマが驚く。
ジャンヌが静かに答えた。
『私の旗は守護です』
聖なる光が広がる。
『戦場そのものを平和へ近付けます』
なるほど。
だからだ。
信長は戦争の象徴。
ジャンヌは救済の象徴。
能力相性が最悪だった。
◇
「まずいな」
ユウマが呟く。
信長も苦笑する。
「厄介じゃ」
しかし。
その時だった。
ジャンヌが小さく首を傾げた。
『あなた』
ユウマを見る。
不思議そうに。
『神を憎んでいますか?』
空気が変わる。
観客席が静まり返る。
神の表情も初めて変化した。
僅かに。
本当に僅かに。
◇
ユウマは答えない。
だが。
ジャンヌは確信したようだった。
『やはり』
悲しそうな笑顔。
『私と同じですね』
「なに?」
『私も神を許していません』
衝撃が走る。
観客席が騒然となる。
神への反逆。
それを。
聖女ジャンヌ本人が口にしたのだから。
空では神の笑顔が消えていた。
初めて。
怒りが見えた。
そしてユウマは気付く。
この戦争の真実へ。
ジャンヌもまた何かを知っている。




