第五話 覇王対覇王
第五話 覇王対覇王
モンゴル騎兵の大軍勢が崩壊していく。
砲撃。
銃撃。
炎。
戦場全体が地獄と化していた。
だが。
チンギス・ハンは笑っていた。
『素晴らしい』
その顔に焦りはない。
むしろ喜んでいる。
『だから戦争は面白い』
ドンッ!
巨大な軍刀が地面へ突き刺さった。
その瞬間だった。
崩壊していた騎兵達が再び立ち上がる。
「なにっ!?」
ユウマが目を見開く。
信長も眉を上げた。
『知らぬか』
チンギス・ハンが笑う。
『モンゴル軍はな』
軍勢が咆哮する。
『何度壊れても再編される』
魔力が膨れ上がる。
『それこそが征服の本質だ』
◇
フェルディアが手を掲げる。
「蒼狼の子!」
響く声。
「テムジン!」
空が震える。
「チンギス・ハン!」
大地が揺れる。
「世界最大の帝国を築いた征服王!」
完全なる真名解放。
第二段階。
《モンゴル百万軍》
轟音。
戦場全域に魔法陣が展開される。
そして。
現れた。
騎兵。
歩兵。
弓兵。
将軍。
果てしない軍勢。
先程の何倍も多い。
まるで大陸そのものが押し寄せているようだった。
観客席が絶叫する。
「百万軍だ!」
「反則能力!」
「終わった!」
◇
しかし。
ユウマは笑った。
むしろ確信した。
勝てる。
「信長」
「分かっておる」
彼女も笑う。
歴史を知る者同士だった。
だから分かる。
チンギス・ハンの最大の強み。
それは軍勢。
逆に言えば。
軍勢が力の中心だ。
「歴史に無敵はいない」
ユウマが呟く。
フェルディアが眉をひそめる。
「何?」
「チンギス・ハンも例外じゃない」
ユウマが叫んだ。
魔力が爆発する。
「織田信長!」
赤い炎が吹き上がる。
「戦国乱世を終焉へ導いた革新の英雄!」
さらに膨れ上がる。
「旧時代を終わらせた革命家!」
炎が空を覆う。
「そして!」
信長が刀を掲げる。
ユウマの声と重なる。
「魔王!」
◇
《第六天魔王》
発動。
瞬間。
世界が赤く染まった。
観客席が凍り付く。
チンギス・ハンすら驚愕する。
空が割れる。
大地が裂ける。
炎で出来た巨大な城が出現した。
安土城。
信長が夢見た天下統一の象徴。
そこから。
現れた。
無数の火縄銃部隊。
騎馬隊。
鉄甲船。
そして。
巨大な魔王の影。
『なるほど』
チンギス・ハンが笑う。
『余と同じか』
覇王だった。
天下人だった。
世界を変えた男だった。
だから。
両者は理解する。
最後は力ではない。
覇気で決まる。
◇
「来い!」
『来るがよい!』
二人が激突する。
轟音。
衝撃波。
大気が裂ける。
軍勢同士の激突。
覇王同士の激突。
戦場そのものが崩壊していく。
観客席は沈黙していた。
誰も声を出せない。
ただ見ている。
歴史の英雄同士による神話級の戦いを。
そして。
数分後。
決着が訪れる。
ドォォォォォォォン!!
巨大な爆発。
戦場が白く染まった。
煙が晴れる。
そこには。
立っている者が二人だけいた。
ユウマ。
そして。
信長。
◇
チンギス・ハンは笑っていた。
膝をつきながら。
『見事だ』
フェルディアも苦笑する。
「負けたか」
潔かった。
悔しさはあった。
しかし認めるしかない。
強かった。
ユウマ達の方が。
『良き戦であった』
チンギス・ハンの身体が光へ変わる。
消滅の時だった。
去り際。
征服王は笑った。
『歴史を愛する者よ』
ユウマを見る。
『最後まで勝ち残れ』
「必ず」
『うむ』
そして。
英雄は消えた。
◇
神の声が響く。
『勝者』
『神代ユウマ』
『織田信長』
大歓声。
闘技場が揺れる。
だが。
ユウマは歓声を聞いていなかった。
気になったものがある。
神だ。
上空に浮かぶ黄金の存在。
戦いの最中。
あの神は笑っていた。
まるで。
英雄達が消えていくことを楽しむように。
信長も同じものを見ていた。
「ユウマ」
「分かってる」
空を見上げる。
神も見下ろしていた。
視線が交差する。
その瞬間。
ユウマの脳裏へ奇妙な映像が流れ込んだ。
無数の英雄。
泣いている。
苦しんでいる。
消滅している。
その先で。
神が笑っていた。
「……っ!」
頭痛。
激痛。
ユウマが膝をつく。
信長が支える。
「どうした!」
「今……見えた」
汗が流れる。
嫌な予感がした。
いや。
確信だった。
この戦争は願いを叶えるためのものではない。
英雄達を戦わせるためのものだ。
そして。
神は何かを隠している。
空では神が静かに微笑んでいた。
まるでユウマが真実へ近付いたことを歓迎するかのように。




