第三話 天下布武
第三話 天下布武
「天下布武」
織田信長が刀を掲げた瞬間。
真紅の魔法陣が闘技場全体へ広がった。
ゴォォォォォォォォ!!
炎が地面を走る。
観客席が揺れる。
空気そのものが書き換わっていく。
「これは……!」
ルークが顔色を変えた。
アインシュタインも興味深そうに周囲を見渡す。
『領域型能力か』
「ああ」
ユウマが頷いた。
そして解説する。
相手へ聞かせるように。
英雄へ聞かせるように。
何より信長本人へ聞かせるように。
「織田信長は戦国時代を変えた男だ」
瞬間。
信長の魔力が増幅する。
「戦国大名だった世界を、一つの国家へ変える礎を作った」
さらに増える。
「敵を従え」
「常識を壊し」
「天下統一寸前まで辿り着いた」
轟音。
炎が天へ昇る。
信長が笑った。
まるで愉快そうに。
「英雄解説とは面白いな」
「だろ」
「気持ちが良い」
本音だった。
信長ほど承認欲求の強い英雄は少ない。
歴史を理解されること。
功績を語られること。
それ自体が力になる。
これこそ真名解放。
英雄の逸話を再現することで、本来の性能を引き出す戦法だった。
◇
「さて」
信長が刀を肩に乗せる。
「遊びは終わりじゃ」
次の瞬間。
領域が発動した。
《天下布武》
能力発動。
効果。
戦場を信長の支配領域へ変換。
敵英雄の能力を弱体化。
味方英雄を強化。
さらに。
自身が知る戦術の再現を可能にする。
まさに覇王の能力だった。
「馬鹿な!」
ルークが悲鳴を上げた。
アインシュタインの魔力が下がっている。
明らかだった。
領域に侵食されている。
その時。
アインシュタインが笑った。
『面白い』
「え?」
『実に面白い』
彼はむしろ楽しそうだった。
『久しぶりだよ』
白髪の英雄がユウマを見る。
『私をここまで理解する人間を見るのは』
ユウマも少し嬉しかった。
歴史オタクとして。
英雄に評価されるのは悪くない。
「俺はあんたのファンだからな」
『それは光栄だ』
アインシュタインが微笑む。
そして。
初めて本気の魔力を放出した。
◇
ゴォォォォォォォ!!
空間が歪む。
地面が浮く。
重力が狂う。
観客席が驚愕に包まれた。
「空が曲がってる!?」
「何だあれ!?」
「世界が歪んでる!」
アインシュタインの周囲で物理法則が変質していた。
『相対性支配』
能力名が告げられる。
『光』
空中に無数の光線が発生する。
『時間』
信長の動きが遅くなる。
『重力』
大地が陥没する。
まさに天才。
現代科学の怪物。
ルークが歓喜した。
「そうだ!」
「そのまま押し切れ!」
だが。
ユウマは首を横に振る。
「駄目だ」
「何?」
「使い方が雑すぎる」
ルークが理解できない顔になる。
アインシュタインが最強だと思っている。
しかし。
英雄はゲームキャラではない。
歴史上の人物なのだ。
知らなければ活かせない。
◇
「信長」
ユウマが笑う。
「長篠だ」
その瞬間。
信長がニヤリと笑った。
「分かっておる」
炎が爆発する。
空中へ。
無数。
数百。
数千。
火縄銃が出現した。
観客席が絶叫する。
「なんだあれ!?」
「多すぎる!」
「軍隊だ!」
ユウマは叫ぶ。
「長篠の戦い!」
「織田軍三万八千!」
「武田騎馬軍を迎撃!」
「三段撃ちによる歴史的大勝利!」
真名解放。
第二段階。
《長篠三段撃ち》
瞬間。
数千の銃声が重なった。
ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
嵐。
いや。
戦争だった。
炎の銃弾が空を埋め尽くす。
アインシュタインですら表情を変える。
『これは』
避けられない。
止められない。
物量そのものが攻撃だった。
◇
轟音。
爆発。
煙。
闘技場が揺れる。
攻撃終了。
観客席が静まり返った。
煙の中。
アインシュタインが立っている。
だが。
満身創痍だった。
『なるほど』
彼は笑う。
苦笑に近い。
『負けだな』
「先生!?」
ルークが叫ぶ。
しかし本人は納得していた。
『君は勘違いしていた』
アインシュタインが振り返る。
『英雄は有名人ではない』
ルークが固まる。
『理解されて初めて英雄になる』
静かに語る。
『君は私の名前しか知らなかった』
ルークの顔が青ざめた。
まさにその通りだったから。
『だが彼は違う』
アインシュタインはユウマを見る。
『私を知り』
『信長を知り』
『歴史そのものを武器にしている』
ユウマは少し照れくさくなった。
褒められるのは苦手だ。
しかし。
信長はなぜか得意げだった。
「当然じゃ」
「俺が褒められてるんだけど」
「余まで褒められておる」
「そうかな……」
「そうじゃ」
◇
その時。
神の声が響いた。
『勝者決定』
世界が震える。
『勝者』
『神代ユウマ』
『織田信長』
大歓声。
観客席が沸騰する。
しかし。
ユウマは歓声よりも別のものを見ていた。
残る四組。
特に。
銀髪の少年。
チンギス・ハンを召喚した召喚士。
彼だけが笑っていた。
不気味なほどに。
『面白い』
チンギス・ハンも笑う。
戦士の笑み。
獣の笑み。
覇王の笑み。
そして。
ユウマは気付いた。
あいつは強い。
おそらく今までの相手とは違う。
歴史を知っている。
少なくとも。
チンギス・ハンの本質を理解している。
「ようやくか」
信長が言った。
刀を肩に担ぎ。
楽しそうに。
「本物がおるぞ」
ユウマも笑った。
ようやく始まる。
歴史オタクと英雄達の戦争が。




