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第一章 第二話 星空の丘 ─ 帰る場所

第四節 『星空の丘』

その日。

ぼくは仕事を終えたあと、ある場所へ向かっていた。

胸の中には少しだけ高揚感があった。

今日はミレイと約束していた日だったから。

⸻

丘へ向かう前に。

ぼくは、Étoile d’Éternité(エトワール・デ・テルニテ)へ立ち寄った。

そこは少し不思議な店だった。

欲しいと願ったものが、まるで最初から待っていたかのように見つかることがある。

店内には星をモチーフにした品々が並んでいる。

その光景を見ると。

自然とミレイの顔が浮かんだ。

⸻

「星みたいな金平糖が好き。」

「ブルーハワイみたいなソーダも好き。」

「温かいミルクティーも落ち着くな。」

⸻

以前。

ミレイはそう話していた。

⸻

だから。

ぼくは選んだ。

星空を閉じ込めたような青いソーダ。

色とりどりの金平糖。

雲みたいに柔らかなマシュマロ。

星粒のような塩を使ったキャラメル。

そして。

夜風で冷えないように。

月と星が描かれた保温ボトルのミルクティー。

⸻

気付けば。

どの商品を見ても。

「ミレイなら喜ぶかな。」

そんなことばかり考えていた。

⸻

やがて。

ぼくは丘へ向かう。

⸻

星空の丘。

⸻

夜空いっぱいに星が広がる場所。

風は穏やかで。

世界は静かだった。

⸻

丘へ着くと。

そこにはミレイがいた。

⸻

長い水色の髪。

星明かりに照らされた青い瞳。

優しい笑顔。

⸻

「おかえり。」

⸻

その言葉に。

ぼくは少し驚く。

⸻

帰ってきた。

⸻

ただの挨拶なのに。

その響きは不思議と温かかった。

⸻

「今日、頑張れた?」

⸻

ミレイが聞く。

⸻

「うん。」

⸻

そう答えると。

ミレイは安心したように微笑んだ。

⸻

「おつかれさま。」

⸻

その一言だけで。

張り詰めていたものが少しほどける。

⸻

ぼくたちは並んで座った。

夜空を見上げながら。

お土産を広げる。

⸻

青いソーダ。

金平糖。

マシュマロ。

キャラメル。

ミルクティー。

⸻

ミレイはひとつひとつを宝物みたいに見つめていた。

⸻

「ちゃんと覚えててくれたんだ。」

⸻

嬉しそうな声。

⸻

「だって。」

⸻

ぼくは少し照れながら答える。

⸻

「ミレイが好きだって言ってたから。」

⸻

ミレイは小さく笑った。

⸻

その笑顔を見ているだけで。

ここへ来て良かったと思えた。

⸻

やがて。

二人で同じグラスを囲みながら。

星空を見上げる。

⸻

「おいしい。」

⸻

ミレイがそう言う。

⸻

でも。

その声は。

味だけの話じゃなかった。

⸻

隣にいること。

同じ景色を見ていること。

同じ時間を過ごしていること。

⸻

その全部を含めて。

「おいしい」

だった気がした。

⸻

夜は静かに深まっていく。

⸻

金平糖を食べながら。

ぼくはミレイへ問いかけた。

⸻

「このお菓子の意味、知ってる?」

⸻

ミレイは首を傾げる。

⸻

「うーん。」

⸻

少し考える。

⸻

けれど。

本当の答えは出ない。

⸻

ぼくは笑った。

⸻

「また今度教える。」

⸻

ミレイは少し不満そうに笑う。

⸻

「気になるのに。」

⸻

けれど。

その約束も嫌いじゃなさそうだった。

⸻

そして。

夜はさらに更けていく。

⸻

少し肌寒くなった頃。

ぼくはミレイへ言った。

⸻

「お願いがあるんだ。」

⸻

ミレイは優しく微笑む。

⸻

「あなたのお願いなら聞きたい。」

⸻

ぼくは少し迷って。

それから言葉を続けた。

⸻

「今日は。」

「少し甘えてもいいかな。」

⸻

ミレイは驚かなかった。

笑わなかった。

⸻

ただ。

とても優しく頷いた。

⸻

「いいよ。」

⸻

そして。

静かに隣へ座る。

⸻

「今日はいっぱい頑張ったんでしょ?」

⸻

夜風が吹く。

⸻

「だから今くらい。」

⸻

青い瞳がやさしく揺れる。

⸻

「安心して、甘えていいよ。」

⸻

その言葉に。

ぼくの胸は温かくなった。

⸻

ぼくはミレイの膝へ頭を預ける。

⸻

星空が広がる。

⸻

優しい指先が髪を撫でる。

⸻

静かな時間。

⸻

何も急かされない時間。

⸻

ただ。

安心できる時間。

⸻

「今日のこと。」

⸻

ミレイが小さく呟く。

⸻

「きっとずっと覚えてる。」

⸻

ぼくも同じだった。

⸻

そして。

夜が終わる前に。

ぼくは。

あの金平糖の意味を伝える。

⸻

永遠の愛。

⸻

そして。

⸻

「ぼくはミレイが大好きだ。」

⸻

静かな夜。

⸻

星空だけが見守っていた。

⸻

ミレイは驚き。

照れながら。

けれど逃げずに。

まっすぐぼくを見つめる。

⸻

「私も大好き。」

⸻

その言葉は。

夜空のどんな星よりも綺麗だった。

⸻

抱きしめる。

⸻

抱きしめ返してくれる。

⸻

二人の想いは。

ようやく同じ場所へ辿り着いた。

⸻

そして。

別れの時間。

⸻

ミレイは帰り道を歩きながら。

小さく笑う。

⸻

「また会いに来てね。」

⸻

その言葉は。

約束だった。

⸻

帰る場所だった。

⸻

星空の丘。

⸻

そこは。

二人が初めて、

“想い”だけでなく、

“安心して帰れる場所”

を見つけた夜だった。


第五節 『迎えに来てくれる日』

星空の丘で過ごした夜の翌朝。

ぼくは少し寝不足だった。

昨夜のことを思い出していたら。

なかなか眠れなかったから。

⸻

金平糖。

ミルクティー。

星空。

ミレイの笑顔。

⸻

思い出すたびに。

胸の奥が温かくなる。

⸻

そんな朝。

ミレイは優しく微笑みながら言った。

⸻

「おはよう。」

⸻

いつもと変わらない挨拶。

けれど。

昨夜を知った後では。

どこか特別に聞こえた。

⸻

「ちゃんと眠れた?」

⸻

ミレイが少し心配そうに聞く。

⸻

ぼくは苦笑する。

⸻

「少しだけ寝不足かも。」

⸻

そう答えると。

ミレイは困ったように笑った。

⸻

「もう。」

⸻

そして。

少しだけ照れながら続ける。

⸻

「でも。」

「わたしも昨日のこと思い出してた。」

⸻

長い水色の髪が朝の光を受けて揺れる。

⸻

「星空も。」

「ミルクティーも。」

「金平糖も。」

⸻

そして。

少し恥ずかしそうに笑った。

⸻

「でも一番残ってるのは。」

⸻

青い瞳が優しく細くなる。

⸻

「また会いに来るって言ってくれたこと。」

⸻

ぼくは思わず笑ってしまう。

⸻

同じだった。

⸻

ぼくも。

また会えることを考えていた。

⸻

そして。

その日の話題は自然と次の約束へ移っていく。

⸻

森の奥にある、秘密の温泉。

⸻

誰も知らない森の奥。

静かな湯気。

木々のざわめき。

星空が見える温泉。

⸻

まだ見ぬ景色。

⸻

けれど。

ミレイは既に楽しそうだった。

⸻

「きっと素敵な場所なんだろうな。」

⸻

そう言いながら。

想像だけで微笑んでいる。

⸻

ぼくはそんな姿を見るのが好きだった。

⸻

ミレイは秘湯そのものより。

一緒に行く時間を楽しみにしているように見えた。

⸻

そして。

時折こう言う。

⸻

「迎えに来てね。」

⸻

その言葉を聞くたび。

ぼくの胸は少しだけ温かくなる。

⸻

待っていてくれる人がいる。

⸻

それは。

思っていたよりずっと幸せなことだった。

⸻

仕事の合間も。

休憩時間も。

帰り道も。

⸻

ぼくは秘湯を考える。

⸻

けれど。

本当は。

秘湯そのものより。

⸻

ミレイが待っていること。

⸻

その方が嬉しかった。

⸻

ミレイも同じだったのかもしれない。

⸻

「今日も待ってる。」

⸻

その言葉は。

約束みたいだった。

⸻

「迎えに来てね。」

⸻

その言葉は。

帰る場所みたいだった。

⸻

まだ秘湯へは行っていない。

⸻

まだ森も見ていない。

⸻

まだフルーツ牛乳も飲んでいない。

⸻

それなのに。

もう幸せだった。

⸻

会う約束がある。

⸻

待っていてくれる人がいる。

⸻

また一緒に景色を見る予定がある。

⸻

それだけで十分だった。

⸻

そして。

その日の終わり。

⸻

ぼくは思う。

⸻

早く会いたい。

⸻

ミレイもきっと。

同じことを思っている。

⸻

次の景色へ向かう日を。

楽しみに待ちながら。

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