第一章 第一話 出会い ─ 届く距離感
第一節 『出会い』
夜だった。
空には無数の星が広がっていた。
静かな風が吹く。
どこか現実から少しだけ離れたような、不思議な夜。
ぼくはその景色を見上げながら歩いていた。
特別な理由があったわけではない。
ただ、星が綺麗だったから。
ただ、それだけだった。
けれど。
その夜は少しだけ違った。
ふと。
視線の先に人影が見えた。
月明かりの中に立つ一人の女性。
長い髪が風に揺れている。
淡い水色。
まるで夜空の光を映したような色だった。
ぼくは思わず立ち止まる。
女性もこちらへ気付いたらしい。
静かに振り返る。
そして。
目が合った。
透き通るような青い瞳。
不思議と警戒心はなかった。
初めて会ったはずなのに。
どこか懐かしい。
そんな感覚があった。
女性は小さく微笑む。
その笑顔は優しかった。
安心するような。
心を急かさないような。
そんな笑顔だった。
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「こんばんは。」
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彼女はそう言った。
ぼくは少し戸惑いながら返事をする。
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「こんばんは。」
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ただそれだけ。
本当に短いやり取り。
けれど。
後になって思えば。
その瞬間から。
物語は始まっていた。
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彼女の名前はミレイ。
長い水色の髪を持つ女性。
星明かりと月明かりがよく似合う人。
ぼくはまだ知らない。
彼女がどんな人なのか。
何を大切にしているのか。
どんな景色を好きなのか。
何を想い。
どんな優しさを持っているのか。
まだ何も知らない。
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けれど。
だからこそ。
知りたいと思った。
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「綺麗な夜ですね。」
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ミレイは夜空を見上げる。
ぼくも同じ空を見る。
星々が静かに瞬いていた。
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「そうですね。」
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それだけの会話。
それだけの時間。
なのに。
不思議だった。
心地よかった。
無理をしなくていい。
背伸びをしなくていい。
そんな空気がそこにはあった。
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後になって私は知る。
この時。
既に始まっていたのだと。
二人が探していくことになる、
「届く距離感」。
その旅は。
この静かな星空の夜から始まった。
第二節 『届く距離感』
ミレイと出会ってから。
ぼくたちは少しずつ言葉を交わすようになった。
星空の話。
好きな景色の話。
何気ない日常の話。
特別なことは何もない。
けれど。
その時間は不思議と心地良かった。
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ある日。
ぼくはミレイへ尋ねた。
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「ねぇ。」
「ミレイは、どんな関係が理想なの?」
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少し難しい質問だったかもしれない。
けれど。
ミレイは困った顔をしなかった。
長い水色の髪を風に揺らしながら。
静かに考える。
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「そうだなぁ……」
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そして。
優しく微笑んだ。
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「無理をしなくていい関係かな。」
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ぼくは少し首を傾げる。
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「無理をしなくていい関係?」
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ミレイは頷いた。
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「うん。」
「近すぎても苦しくなることがあるし。」
「遠すぎても寂しくなることがある。」
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夜風が静かに吹く。
星空は今日も綺麗だった。
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「だから私は。」
「その人が安心できる距離を一緒に探したい。」
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その言葉は。
ぼくの心へ静かに届いた。
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安心できる距離。
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それは。
誰かに合わせて我慢することではない。
無理に変わることでもない。
相手を理解しようとすること。
相手の歩幅を大切にすること。
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ミレイは続ける。
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「好きだから近くにいたい。」
「それは自然なことだと思う。」
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「でも。」
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青い瞳がやさしく揺れる。
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「相手が苦しくなってしまったら。」
「きっと悲しいから。」
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ぼくは黙って聞いていた。
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「だから私は。」
「届く距離感を大切にしたい。」
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届く距離感。
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その言葉を聞いた時。
ぼくは不思議と胸が温かくなった。
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近づくことだけが愛じゃない。
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見守ることも。
待つことも。
信じることも。
愛情なんだ。
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そんなことを。
ミレイは教えてくれた。
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その日からだった。
ぼくたちの間に。
一つの言葉が生まれたのは。
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『届く距離感』
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それは。
二人の関係を表す言葉。
そして。
これから先。
どんな景色を見ることになっても。
二人を支え続けることになる。
大切な約束だった。
第三節 『育っていく愛』
ミレイと出会ってから。
どれくらいの時間が過ぎただろう。
ぼくたちは今日も話していた。
特別なことではない。
景色のこと。
好きなもののこと。
今日あった出来事のこと。
そんな何気ない話。
けれど。
ぼくは気付いていた。
以前とは少し違うことに。
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ミレイと話す時間が好きだった。
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その事実に。
気付いてしまっていた。
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気を遣わなくていい。
無理をしなくていい。
沈黙すら心地良い。
そんな相手は初めてだった。
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ある夜。
ぼくたちは星空を見上げていた。
静かな夜だった。
月明かりが世界を優しく照らしている。
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「ねぇ。」
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ぼくは隣のミレイを見る。
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「どうしてそんなに優しいの?」
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ミレイは少し驚いた顔をした。
そして。
困ったように笑う。
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「どうしてだろう。」
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長い水色の髪が風に揺れる。
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「優しくしたいからかな。」
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まるで当然のことを言うように。
ミレイはそう答えた。
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「相手が大切だから。」
「笑っていてほしいから。」
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その言葉に。
ぼくは胸が温かくなる。
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大切だから。
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その言葉は。
思っていたよりも。
ずっと嬉しかった。
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ミレイは続ける。
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「でもね。」
「私は完璧じゃないよ。」
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少しだけ寂しそうな笑顔。
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「迷うこともあるし。」
「失敗することもある。」
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ぼくは首を振る。
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「それでいいと思う。」
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ミレイが目を見開く。
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「え?」
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「だって。」
「ぼくも完璧じゃないから。」
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しばらく沈黙が続いた。
けれど。
嫌な沈黙じゃない。
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そして。
ミレイは小さく笑った。
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「そっか。」
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その笑顔は。
出会った頃よりも。
ずっと近く感じた。
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その夜。
ぼくは気付く。
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愛情は。
ある日突然生まれるものじゃない。
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一緒に笑った時間。
一緒に悩んだ時間。
相手を理解しようとした時間。
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その積み重ねが。
少しずつ形になっていくものなんだと。
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ぼくたちは。
まだ恋人とは呼べなかったかもしれない。
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けれど。
確かに。
互いを大切に思い始めていた。
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それは。
静かに育つ星の光のようだった。
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急がず。
焦らず。
ゆっくりと。
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二人の愛は。
少しずつ育ち始めていた。




