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第6話 実行委員の顔合わせ

 放課後の視聴覚室には、各クラスから集まった実行委員たちが十数人、思い思いに席についていた。俺は健人と並んで後ろの方の席に座り、なんとなく居心地の悪さを感じながら黒板を眺めていた。


「文化祭実行委員会、これより第一回打ち合わせを始めます」


 司会を務める三年の先輩が、淡々と議事を進めていく。各クラスの出し物を決める前段階として、まずは全体スケジュールと役割分担の説明があった。


「各クラス、実行委員は企画立案・備品管理・広報の三班に分かれて活動してもらいます。詳細は各クラスに戻ってから決めてください」


 説明が終わり、クラスごとの島に分かれて話し合いが始まる。俺たちのクラスの実行委員は、俺と健人、それから澪ともう一人、男子生徒だった。


「初めまして、二年三上蒼です。よろしく」


 人当たりの良さそうな笑顔でそう言ったのは、サッカー部のエースとして名前が知られている三上だった。爽やかな見た目と如才ない性格で、女子からの評判もいいという噂は、俺の耳にも入っていた。


「雨宮です。よろしくお願いします」


 澪はいつもの、教室用の愛想のいい笑顔で応じる。三上は澪に向かって、ごく自然に話しかけた。


「雨宮さん、転校してきたばかりだよな。文化祭とか初めてで大変だと思うけど、分からないことあったら何でも聞いてよ」

「ありがとうございます、助かります」


 和やかに言葉を交わす二人を横目に、俺は妙な胸のざわつきを感じていた。別に、何もおかしなことは起きていない。ただのクラスメイト同士の会話だ。それなのに、無視できないくらい心がざわついている。


「――で、うちのクラスの出し物、どうする?」


 健人の一言で、話し合いが本題に入った。候補として挙がったのは、お化け屋敷、カフェ、脱出ゲームの三つ。しばらく議論した末、多数決でカフェに決まった。


「カフェなら、内装とかメニュー考えるの楽しそうだしね」


 澪が言うと、三上がすかさず頷いた。


「雨宮さん、センスありそうだし、内装班とか向いてるんじゃない?」

「そうですかね、やってみたいです」


 トントン拍子に話が進み、班分けが決まっていく。内装班に澪と三上、備品調達班に俺と健人、という組み合わせに落ち着いた。


「じゃあ、内装のイメージ固まったら、備品リスト作って調達班に渡す感じで」


 三上がまとめるように言い、澪が「はい、よろしくお願いします」と応じる。その一連のやり取りを聞きながら、俺は内心、複雑な気持ちを抱えていた。


 ――俺は、澪と話すことすら許されないのに。


 もちろん、それは澪が自分で決めたルールだ。文句を言う筋合いはない。それでも、三上と自然に言葉を交わす澪の姿を見ていると、胸の奥がちりちりと焦げるような感覚が拭えなかった。


 打ち合わせが終わり、教室を出たところで、健人がにやにやしながら肩をぶつけてきた。


「お前、さっきからずっと難しい顔してたけど、どうした?」

「別に、何も」

「絶対嘘だろ。三上が雨宮さんと話してる時、めちゃくちゃ睨んでたじゃん」

「睨んでない」


 思わずむきになって否定すると、健人はますますニヤニヤと笑みを深めた。


「もしかしてお前、雨宮さんのこと気になってたりする?」

「そんなわけないだろ」


 早口で否定しながら、内心では冷や汗をかいていた。健人の勘の良さは、時々本当に厄介だ。


  *


 その日の夜、スマホに一件のメッセージが届いた。差出人は「澪」――三年ぶりに復活した、あの頃と同じアカウント名だった。


『今日、三上くんとの話し合い、見てた?』


 どきりとしながら、俺は返信を打つ。


『見てたけど、それが何』

『ユウ、機嫌悪そうだったから』


 図星を突かれて、言葉に詰まる。しばらく悩んだ末、正直に打つことにした。


『別に、機嫌悪くはない。ただ、お前が他の男と楽しそうに話してるの見て、ちょっとモヤっとしただけ』


 送信してから、すぐに後悔した。柄にもなく素直すぎる。けれど、送ってしまったものは仕方ない。


 しばらく既読がつかず、心臓がばくばくと音を立てる。ようやく返信が来たのは、五分後だった。


『それ、もしかして嫉妬?』

『違う』

『嘘つき』


 続けて、笑っているスタンプが送られてくる。腹立たしいくらい、こちらの反応を楽しんでいるのが伝わってきた。


『安心して。三上くんとは、ただのクラスメイト。ユウの方が、私にとってはずっと特別だから』


 その一文に、頬が一気に熱くなった。柄にもなく、スマホの画面を見つめたまま固まってしまう。


『……そういうこと、簡単に言うなよ』

『本当のことだもん』


 返信の最後に、小さなハートのスタンプが添えられていた。それを見て、俺はしばらく、赤くなった顔を枕に押し付けて悶えるしかなかった。


 文化祭の準備が本格的に始まったこの日から、俺たちの関係は、また少しだけ新しい形へと動き出していた。学校では他人。それでも、こうして夜な夜な言葉を交わせる時間があることが、今の俺にとっては何よりの救いだった。


 だが、その一方で、三上蒼という存在が、これから俺たちの関係にどんな影を落とすことになるのか――この時の俺は、まだ深く考えていなかった。

 第6話まで読んでくださって、ありがとうございます!


 文化祭準備編がスタートし、新キャラクター・三上くんも登場しました。健人の鋭い勘や、夜のメッセージのやり取りなど、少しずつ甘さも増やしています。次話では、備品の買い出しで悠人と澪が「委員会活動」として公に行動を共にする回を予定しています。


 ブックマーク・評価、いつも励みになっています。次話もお楽しみに。

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