予想会という名の落とし穴
週明けの昼休み、教室の後ろの方が、やけに賑わっていた。
「えー、それでは第一回、春アニメ主題歌・歌い手予想会を開催します!」
黒板の前に立って高らかに宣言したのは、案の定、健人だった。その隣では、なぜか三上が司会進行の腕章をつけている。
「――どこから出てきたんだ、その腕章」
「応援団の備品、まだ返してなかった」
「返せよ、先生に怒られるぞ」
クラスの数人が面白がって集まってきて、あっという間に小さな人だかりができた。
「注目の春アニメ、主題歌の歌い手は、まだ発表されてない。だからこそ、各自の予想を聞いていきたいと思います!」
後ろの席で、澪が小さく息を呑む気配がした。俺は、飲んでいたお茶を危うく噴き出しそうになる。
「まず、三上の予想は?」
「俺は王道に、実績のあるベテランの歌い手かな。例えばあの人とか」
「なるほど、手堅い。次、悠人は?」
急に話を振られて、一瞬、思考が止まった。
「お、俺か。俺は、その、新人とかじゃないか。たまにあるだろ、新人起用」
「えー、それはないでしょ。新人が主題歌なんて、そんな夢みたいな話」
健人はあっさりと却下した。夢みたいな話が、すぐ後ろの席に座っているとは、夢にも思っていない顔だった。
「じゃあ最後、雨宮さんは?」
クラス中の視線が、一斉に澪に集まる。澪は少しだけ首を傾げて、にっこりと微笑んだ。
「私は、歌い手さんにはあんまりこだわりがないかな。曲が良ければ、それで十分だと思う」
「うわ、大人な回答だ」
「雨宮さん、悟り開いてる」
感心するクラスメイトたちの横で、俺は背中に冷や汗を流していた。
「ちなみに俺は、個人的にはRinが来たら神だと思ってる!」
健人が拳を握りしめて叫ぶ。
「でも、Rinは覆面で人気が出始めたばっかりだし、さすがにまだ早いか。ま、それはそれで楽しみにしておこう」
「楽しみにしておくのか」
「おう。発表の日まで、毎日神に祈ってる」
神に祈られている当の本人は、教科書で口元を隠して、必死に笑いをこらえていた。
*
その夜、澪からメッセージが届いた。
『今日、心臓に悪かった』
『俺もだ。寿命が三年は縮んだ』
『健人くんの「毎日祈ってる」が、一番ずるかった』
『発表の日、あいつ絶対泣くぞ』
『うん。その時は、ちゃんとハンカチ貸してあげよう』
小さく笑いながら、俺は携帯の画面をそっと伏せた。
第53話まで読んでくださって、ありがとうございます!
本人たちの目の前で開催される「歌い手予想会」、いかがでしたでしょうか。健人の「神に祈ってる」は、発表の日の伏線にもなっています。
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