これからの話し合い
週末の東京通いにも、少しずつ慣れが出てきた頃、澪から「今度の土曜、東京に行く前に少し時間が欲しい」と連絡があった。
放課後、あの公園で待ち合わせると、澪はいつになく真剣な面持ちをしていた。
「――今日は、ちゃんと話したいことがあって」
「なんだ、改まって」
澪はブランコに腰かけると、しばらく言葉を選ぶように黙り込んだ。
「最終選考が終わったら、多分もっと忙しくなる。合格しても、不合格でも、多分どっちにしても、今までみたいな日常には戻れない気がするの」
「――そうだな」
「だから、今のうちに、ちゃんと言葉にしておきたくて」
澪は一度深呼吸をすると、まっすぐに俺の顔を見た。
「――ユウのこと、幼馴染としてじゃなくて、ちゃんと好き。ずっと前から、多分そうだった」
その一言に、心臓が大きく跳ねた。三年前から、ずっと燻っていた感情が、ようやく言葉になって突きつけられた気がした。
「――俺も。多分、澪が転校してきたあの日から、ずっとそうだった」
自分でも驚くくらい、すんなりと言葉が出てきた。澪は目を丸くしたあと、くしゃっと表情を崩した。
「――ちゃんと言ってくれるの、初めてだね」
「お前が先に言ったんだろうが」
「先に言った方が負け、みたいな空気出さないでよ」
軽口を叩き合いながらも、二人の間には、これまでとは違う確かな温度が流れていた。
「――それじゃあ、これから、ちゃんと恋人同士ってことでいいのか」
「うん。ただし――」
澪は指を一本立てた。
「学校では、今まで通り。まだ幼馴染ってことしか、健人くんにも話してないし。付き合ってることが漏れたら、色々ややこしくなる」
「分かってる。今まで通り、二人だけの秘密だな」
「うん。それと、もう一つ」
澪は少し照れくさそうに続けた。
「――東京に行ってる間も、ちゃんと連絡取り合いたい。忙しくても、ユウとの時間、ちゃんと大事にしたいから」
「ああ。約束する」
夕暮れの公園で交わした小さな指切りは、三年前のあの日と同じ仕草だったけれど、その意味は、もうまったく違うものになっていた。
*
帰り道、駅前で健人と三上に偶然出くわした。
「――お、二人ともまた一緒か。仲良すぎだろ」
からかうような健人の口調に、澪はいつもの調子で「委員会の名残で、たまに話すだけだよ」と軽く流す。健人は「もう委員会関係ないだろ」とツッコみつつも、それ以上は追及せず、三上と一緒に別の話題――来週の実力テストの範囲について愚痴り始めた。
「――ばれなかったな」
「うん。でも、いつかは、ちゃんと話したいって、今日改めて思った」
澪の声には、これまでよりずっと前向きな響きがあった。
*
その夜のメッセージには、これまでで一番甘い一文が添えられていた。
『今日、ありがとう。ちゃんと言葉にできて良かった』
『こっちこそ。改めて、よろしくな』
『うん、よろしく。――なんか、恋人って言葉、まだちょっと照れる』
『俺もだ』
最終選考という大きな挑戦を前に、俺たちの関係は、ようやく確かな形を得た。これからの日々がどんなに忙しくなっても、この約束だけは、絶対に手放さないでいようと、俺は心の中で改めて誓っていた。
第46話まで読んでくださって、ありがとうございます!
ついに二人がお互いの気持ちをはっきりと言葉にする回になりました。長かった「幼馴染」の関係が、ようやく次の段階に進みます。次話からは、最終選考に向けたプレッシャーの中で、この新しい関係がどう試されていくのかを描いていきます。
いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。




