東京と、すれ違う時間
澪が週末ごとに東京へ通うようになってから、二週間が経っていた。
金曜の夜に出発し、土日をレッスンに費やして、日曜の夜遅くに帰ってくる。そんな生活が続くうちに、平日の澪は、これまでよりずっと疲れた表情を見せるようになっていた。
「――大丈夫か、最近顔色悪いぞ」
「うん、ちょっと寝不足なだけ。レッスン、思ったよりハードで」
澪は気丈に笑ってみせたが、その笑顔にはいつもの元気がなかった。放課後の何気ないやり取りも、以前より短くなっている。
「――今週末も、東京か」
「うん。今回は日曜も朝から夜まで、みっちりレッスンって言われてる」
その言葉に、俺は小さな寂しさを覚えた。あの公園で交わした「これからのことも、少しずつ、ちゃんと決めていこうね」という約束を、こんなに早く試されるとは思っていなかった。
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その週末、澪からのメッセージは、いつもより素っ気なかった。
『今、東京着いた』
『了解。無理すんなよ』
『うん、ありがとう』
それだけで、その日はもう既読がつかなくなった。分かってはいたけれど、いざその「静けさ」を目の当たりにすると、思った以上に胸に堪えた。
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週明けの月曜、教室で健人がいつも通りの調子で話しかけてきた。
「なあ悠人、今度の日曜、みんなでカラオケリベンジ行こうぜって前から言ってたやつ、そろそろ実現させないか」
「――ああ、いいけど、澪は多分無理だと思う」
「え、なんで?」
「その、資格試験の――」
言いかけて、俺は自分の失言に気づいた。健人が「まだ資格試験の話続いてるのか」と首を傾げる横で、三上がぼそりと突っ込む。
「相馬、お前も『資格試験』の呪いにかかってるじゃん」
「……否定できない」
情けない気持ちになりながらも、澪の忙しさを誤魔化す方便として、いつのまにか自分もその言葉を自然に使うようになっていることに、俺は苦笑するしかなかった。
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その日の放課後、久しぶりに一人であの公園に立ち寄った。誰もいないブランコを眺めながら、俺はぼんやりと考える。
――俺にできることは、何もないんだろうか。
澪が前に進もうとしている今、隣で焦れったく待つことしかできない自分が、少しもどかしかった。
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日曜の夜遅く、ようやく澪からメッセージが届いた。
『今、帰りの新幹線』
『お疲れ。今週、大丈夫だったか』
『正直、ちょっとキツかった。歌詞覚えるのと、表現の指導と……頭がパンクしそうだった』
しばらくして、続けて届いたメッセージには、これまでにない弱音が滲んでいた。
『でも、今日一番思ったのは――ユウに会いたいなってこと』
『こっちも、正直めちゃくちゃ会いたかった』
『来週、少しでいいから、あの公園で話せる時間ある?』
『ああ。いつでも空けとく』
短いやり取りだったけれど、離れている間ずっと感じていた不安が、少しずつ和らいでいくのが分かった。距離が生まれても、こうして言葉を交わせば、ちゃんと繋がっていられる。そのことを、俺たちは改めて確認し合っていた。
第44話まで読んでくださって、ありがとうございます!
澪が忙しくなる中で生まれた、初めての本格的なすれ違いの回になりました。悠人まで「資格試験」の言い訳に染まってしまう小さな笑いを挟みつつ、離れていても言葉で繋がろうとする二人の姿を描きました。
いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。




