体育祭、開幕
体育祭当日は、抜けるような秋晴れだった。校庭には万国旗がはためき、朝からグラウンド全体が浮ついた熱気に包まれている。
「――応援団、最終確認するぞ! 振り付け、昨日の修正版でいくからな!」
三上が声を張り上げると、健人が力強く頷いた。職員室での説教のあと、体育の先生から「危険じゃなければ好きにしろ」というお墨付き(本人談)をもらった例の振り付けは、結局ほとんど原形をとどめないくらい大人しく修正されていた。
「――なんか、普通の振り付けになっちゃったな」
「お前が変な魂の叫びポーズとか入れるからだろうが」
健人がぼやくのを、三上が容赦なく切り捨てる。それでも開会式が始まり、応援団が声を張り上げると、グラウンド全体が思いのほか盛り上がった。健人の声量だけは、誰にも真似できない才能らしい。
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俺は備品係として、テントの設営や競技用具の運搬に追われていた。炎天下での力仕事は思った以上に堪えたが、忙しく動き回っていると、澪がリレーの選手アップをしている姿がグラウンドの端に見えた。
「――相馬、それ持ったらこっちのテントな」
三上に指示されるがまま台車を押していると、健人がひょっこり顔を出した。
「なあ、雨宮さんのリレー、見に行かないのか?」
「今から午後だろ。仕事終わらせてから行くよ」
「真面目か。俺なら仕事サボって見に行くね」
「お前、応援団長補佐だろうが。持ち場離れるなよ」
健人はぐうの音も出ないという顔をしたあと、結局律儀に応援団の列に戻っていった。単純なようで、こういうところは案外真面目な男だった。
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午前の種目が一通り終わり、昼休みに入ると、澪が水筒片手に日陰に座り込んでいるのを見つけた。
「――足の調子、どうだ」
「うん、絶好調。むしろ朝から気合入りすぎて、変な力み方してるかも」
澪はそう言って、軽く伸びをしてみせる。その様子を見て、俺はふと小学生の頃を思い出した。
「――お前、昔から運動会前になると、変にテンション高くなってたよな」
「覚えてるんだ、そんなこと」
「忘れるわけないだろ。毎回俺に『絶対負けないから』って宣戦布告してきてたし」
澪は少し照れくさそうに笑うと、水筒の水を一口飲んだ。
「――今日も、宣戦布告しておこうかな」
「相手、誰だよ」
「決まってるでしょ。午後のリレー、絶対いいところ見せるから」
自信満々な横顔に、俺は思わず口元が緩むのを感じた。文化祭を経て、澪はまた少し、まっすぐに自分を表現できるようになっている気がする。
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午後の開始を告げる放送が鳴り、俺は再び備品係の仕事に戻った。グラウンドの隅から見えた澪の背中は、これから始まる勝負に向けて、しっかりと引き締まっていた。
文化祭とはまた違う種類の熱気の中、体育祭の午後の部が、いよいよ幕を開けようとしていた。
第41話まで読んでくださって、ありがとうございます!
いよいよ体育祭当日を迎えました。健人の振り付けが結局大人しくなってしまった顛末や、真面目に持ち場を守る健人の意外な一面など、くすっと笑える場面を挟みつつ、午後のリレーへの期待感を描きました。次話ではいよいよリレー本番です。
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