↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
40/57

第40話 文化祭編の終わりに

 体育祭が来週に迫った、ある日の放課後。俺と澪は、久しぶりに「あの公園」で、二人だけの時間を過ごしていた。


「――なんか、随分遠くまで来た気がするな」


 ブランコに揺られながら、俺はぽつりと呟いた。


「うん。文化祭の実行委員に立候補した時は、まさかこんなことになるとは思ってなかった」


 澪も同じように、感慨深げな表情を浮かべている。噂が広まって距離を置いた日々、保科さんとの緊張したやり取り、予算オーバーの危機、そしてオーディションの二次審査――振り返れば、本当に色々なことがあった。


「健人の電卓事件から始まって、三上の空回りな呼び込み、カラオケのヒヤリ、後夜祭の約束……」

「言い出したらキリないね」


 澪はくすくすと笑いながら、指折り数えるように振り返った。


「――でも、一番大きかったのは、保科さんにちゃんと自分の言葉で伝えられたことかな」

「それは、俺も同じこと思ってた」


 あの日から、俺たちの関係は少しずつ、けれど確実に、自然な形へと近づいてきた。教室での距離感も、二人きりの時間も、以前とは違う心地よさを持つようになっている。


  *


 夕暮れの中、澪がふと真剣な表情になった。


「――ねえ、ユウ。最終選考まで、あと少し。もし合格したら、多分もっと忙しくなると思う」

「ああ、分かってる」


「学校生活と両立するのは、正直簡単じゃないかもしれない。健人くんの勘も、この前みたいにどんどん核心に近づいてきてるし……色んな意味で、これからの方が大変かもしれない」


 澪の声には、これまでの成長を感じさせる、落ち着いた覚悟が滲んでいた。


「それでも」


 澪はそこで一度言葉を切って、まっすぐに俺を見た。


「それでも、ここまで一緒に乗り越えてきたユウとなら、この先も、どんな壁が来ても大丈夫な気がする」


 その言葉に、俺は小さく頷いた。


「――ああ。文化祭を乗り越えられたんだ。この先も、一緒に乗り越えていこう」


 三年前、引っ越しの日に交わせなかった言葉を、今ようやく、確かな形で交わせている気がした。


  *


 その時、公園の入り口から聞き覚えのある声が響いた。


「――お、二人ともこんなところにいたのか!」


 健人だった。ジョギングウェア姿で、額に汗を光らせている。


「お前、毎回タイミングよく現れるな」

「いや、たまたまだって。それより、聞いてくれよ、体育祭の応援団の振り付け、職員室での説教のあと、逆に先生からお墨付きもらえたんだ!」


 健人は興奮気味にまくし立てる。三上も後から追いついてきて、呆れたように補足した。


「お墨付きっていうか、『危険じゃなければ好きにしろ』って言われただけだろ」

「それがお墨付きってことだろうが」


 二人の噛み合わない掛け合いに、俺と澪は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。文化祭を経て、健人の察しの悪さも鋭さも、以前よりずっと身近なものに感じられる。


「――なんか、こういう賑やかさも、含めて全部、大事な思い出になってる気がする」


 澪が小さく呟いた言葉に、俺は深く頷いた。


  *


 その夜、いつものメッセージのやり取りの最後に、澪から静かな一文が届いた。


『文化祭から始まった、この長い日々。ようやく一区切りって感じがする』

『ああ。次は、最終選考と体育祭、二つ同時に頑張らないとな』

『うん。忙しくなるけど、ユウがいるから、なんとかなる気がする』

『こっちこそ、頼りにしてる』


 実行委員としての活動から始まり、噂、距離、そして再接近。長かった文化祭編の日々は、こうして一つの区切りを迎えた。だが、俺たちの物語は、まだ始まったばかりだった。次に待っているのは、Rinとしての大きな挑戦――最終選考という、これまでで最大の壁だった。

 第40話まで読んでくださって、ありがとうございます!


 実行委員の顔合わせから始まった文化祭編、ここで一区切りとなりました。健人・三上との賑やかな日々、保科さんとの関係の変化、そして悠人と澪の少しずつの距離の変化、いかがでしたでしょうか。次話からは、いよいよRinとしての最終選考に向けた新章がスタートします。


 いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。