第40話 文化祭編の終わりに
体育祭が来週に迫った、ある日の放課後。俺と澪は、久しぶりに「あの公園」で、二人だけの時間を過ごしていた。
「――なんか、随分遠くまで来た気がするな」
ブランコに揺られながら、俺はぽつりと呟いた。
「うん。文化祭の実行委員に立候補した時は、まさかこんなことになるとは思ってなかった」
澪も同じように、感慨深げな表情を浮かべている。噂が広まって距離を置いた日々、保科さんとの緊張したやり取り、予算オーバーの危機、そしてオーディションの二次審査――振り返れば、本当に色々なことがあった。
「健人の電卓事件から始まって、三上の空回りな呼び込み、カラオケのヒヤリ、後夜祭の約束……」
「言い出したらキリないね」
澪はくすくすと笑いながら、指折り数えるように振り返った。
「――でも、一番大きかったのは、保科さんにちゃんと自分の言葉で伝えられたことかな」
「それは、俺も同じこと思ってた」
あの日から、俺たちの関係は少しずつ、けれど確実に、自然な形へと近づいてきた。教室での距離感も、二人きりの時間も、以前とは違う心地よさを持つようになっている。
*
夕暮れの中、澪がふと真剣な表情になった。
「――ねえ、ユウ。最終選考まで、あと少し。もし合格したら、多分もっと忙しくなると思う」
「ああ、分かってる」
「学校生活と両立するのは、正直簡単じゃないかもしれない。健人くんの勘も、この前みたいにどんどん核心に近づいてきてるし……色んな意味で、これからの方が大変かもしれない」
澪の声には、これまでの成長を感じさせる、落ち着いた覚悟が滲んでいた。
「それでも」
澪はそこで一度言葉を切って、まっすぐに俺を見た。
「それでも、ここまで一緒に乗り越えてきたユウとなら、この先も、どんな壁が来ても大丈夫な気がする」
その言葉に、俺は小さく頷いた。
「――ああ。文化祭を乗り越えられたんだ。この先も、一緒に乗り越えていこう」
三年前、引っ越しの日に交わせなかった言葉を、今ようやく、確かな形で交わせている気がした。
*
その時、公園の入り口から聞き覚えのある声が響いた。
「――お、二人ともこんなところにいたのか!」
健人だった。ジョギングウェア姿で、額に汗を光らせている。
「お前、毎回タイミングよく現れるな」
「いや、たまたまだって。それより、聞いてくれよ、体育祭の応援団の振り付け、職員室での説教のあと、逆に先生からお墨付きもらえたんだ!」
健人は興奮気味にまくし立てる。三上も後から追いついてきて、呆れたように補足した。
「お墨付きっていうか、『危険じゃなければ好きにしろ』って言われただけだろ」
「それがお墨付きってことだろうが」
二人の噛み合わない掛け合いに、俺と澪は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。文化祭を経て、健人の察しの悪さも鋭さも、以前よりずっと身近なものに感じられる。
「――なんか、こういう賑やかさも、含めて全部、大事な思い出になってる気がする」
澪が小さく呟いた言葉に、俺は深く頷いた。
*
その夜、いつものメッセージのやり取りの最後に、澪から静かな一文が届いた。
『文化祭から始まった、この長い日々。ようやく一区切りって感じがする』
『ああ。次は、最終選考と体育祭、二つ同時に頑張らないとな』
『うん。忙しくなるけど、ユウがいるから、なんとかなる気がする』
『こっちこそ、頼りにしてる』
実行委員としての活動から始まり、噂、距離、そして再接近。長かった文化祭編の日々は、こうして一つの区切りを迎えた。だが、俺たちの物語は、まだ始まったばかりだった。次に待っているのは、Rinとしての大きな挑戦――最終選考という、これまでで最大の壁だった。
第40話まで読んでくださって、ありがとうございます!
実行委員の顔合わせから始まった文化祭編、ここで一区切りとなりました。健人・三上との賑やかな日々、保科さんとの関係の変化、そして悠人と澪の少しずつの距離の変化、いかがでしたでしょうか。次話からは、いよいよRinとしての最終選考に向けた新章がスタートします。
いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。




