第38話 体育祭の足音
文化祭の熱気が落ち着いた教室には、代わりに体育祭の話題が広がり始めていた。
「よし、応援団メンバー、決まったぞ。団長は三上、副団長は俺な」
健人が黒板に貼られた名簿を指差しながら、誇らしげに言う。三上が呆れたように肩をすくめた。
「副団長、お前が勝手に立候補しただけだろ」
「勝手にじゃない、みんなの総意だ」
「誰も反対しなかっただけだろうが」
軽快なやり取りに、教室から笑いが起こる。文化祭を経て、クラス全体の空気は以前よりずっと打ち解けたものになっていた。
「相馬と雨宮さんは、何に出るんだ?」
三上に聞かれ、俺は名簿を確認した。
「俺は……綱引きと、あと備品係だってさ」
「また備品係か。お前、この学校の備品係専属になりつつあるな」
健人の茶々に、俺は思わず苦笑した。文化祭でも実行委員として備品調達を担当していたことを思うと、確かに縁がある役回りだった。
「私は、クラス対抗リレーの選手だって」
澪がそう言うと、健人が目を丸くした。
「え、雨宮さん、足速いのか?」
「まあまあ、かな」
澪は謙遜するように答えたが、その表情にはどこか自信が滲んでいた。小学生の頃、よく俺と競走していたことを、俺はふと思い出す。あの頃も、澪はいつも俺より少しだけ速かった。
*
放課後、体育祭の練習で校庭に集まった際、健人が張り切って応援団の振り付けを披露し始めた。
「見てろよ、これが俺の考えた必殺の振り付けだ!」
健人が謎の力強いポーズを取ると、周囲から失笑が漏れる。三上が真顔で突っ込んだ。
「健人、それただの筋トレのポーズだろ」
「違う、これは魂の叫びを表現してるんだ」
「表現力が迷子すぎるだろ」
二人の掛け合いに、澪も声を出して笑っていた。教室での澄まし顔とは違う、心からの笑顔だった。
「――なんか、こういう時間、大事にしたいな」
澪がぽつりと呟いた。
「文化祭が終わって、少し寂しくなるかと思ったけど、体育祭って新しい目標があると、また賑やかになるんだね」
「まあ、健人みたいなのがいる限り、静かになることはなさそうだけどな」
俺がそう言うと、澪はくすくすと笑った。
*
その夜、スマホに届いたメッセージには、いつもより弾んだ調子が滲んでいた。
『今日の健人くんの振り付け、まだ笑い止まらない』
『あれは伝説になる予感がする』
『体育祭、楽しみになってきた』
『クラス対抗リレー、頑張れよ』
『うん。ユウも、備品係頑張って』
軽口を交わしながら、俺は密かに、文化祭を経て積み重ねてきたクラスの絆が、こうして次の行事にも自然に受け継がれていくのを感じていた。二人の関係だけでなく、周囲との関係もまた、少しずつ豊かなものへと育っていた。
第38話まで読んでくださって、ありがとうございます!
文化祭の余韻から、いよいよ体育祭の話題へ。健人の迷走する振り付けなど、くすっと笑える場面を挟みつつ、クラス全体の賑やかな絆を描きました。次話では、健人の伏線に少し進展がある予定です。
いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。




