第35話 気の緩みと、健人の勘
二次審査通過の喜びが尾を引いていたせいか、澪はここ数日、心なしか気が緩んでいるように見えた。
「――ねえユウ、聞いて。今日の給食のデザート、当たりのプリンだったんだよ」
「いや、そんなテンションで話しかけてくるなよ。教室だぞ、ここ」
昼休み、廊下で鉢合わせた澪が、いつになく子供っぽいテンションで話しかけてくる。周囲に人がいないのを確認してはいるものの、その距離感は、明らかに「委員会活動」の建前を超えていた。
「大丈夫、大丈夫。誰も見てないし」
「気の緩み方が心配になるレベルなんだけど」
澪はいたずらっぽく笑うと、するりと廊下の角に消えていった。緊張の糸が切れた反動なのか、最近の澪は、どこか浮かれた様子を隠しきれずにいる。
*
その緩みが、思わぬ形で表面化したのは、放課後の教室でのことだった。
「――なあ、雨宮さん。さっき廊下で相馬と喋ってたよな。しかも、なんかすごい楽しそうだった」
健人の何気ない一言に、澪の肩がびくりと跳ねる。
「え……あ、うん。委員会の連絡事項、伝えてただけだよ」
「委員会って、もう解散しただろ」
「そ、そうだった。じゃあ、なんだろう……普通に世間話?」
しどろもどろになる澪を見て、健人は訝しげに首を傾げた。
「最近、二人ともなんか距離感おかしいんだよな。前は委員会の間だけ普通に喋る感じだったのに、最近、休み時間でも結構喋ってるし」
鋭い指摘に、俺は内心で冷や汗をかいた。「委員会活動」という建前が崩れかけている今、健人の観察眼は、これまで以上に厄介な角度から核心に迫りつつあった。
「――もしかして、二人、付き合ってたりする?」
直球すぎる質問に、澪が盛大にむせた。
「げほっ……な、なんでそうなるの!」
「いや、だってさ、最近の距離感、完全にそれっぽいじゃん」
俺は必死に平静を装いながら、口を開いた。
「――付き合ってはない。ただ、幼馴染だってことが最近分かったから、それで自然に話すようになっただけだ」
半分本当で、半分は苦しい誤魔化しの説明だった。健人はきょとんとした顔で固まる。
「――は? 幼馴染? 初耳なんだけど」
「言うタイミングなかっただけだ」
「マジかよ。じゃあ最初に『初めまして』とかやってたの、演技だったのか?」
健人の驚きぶりに、俺と澪は思わず顔を見合わせた。誤魔化すつもりが、思いがけない部分で真実を明かす羽目になっている。
「――まあ、色々事情があったんだよ」
「事情って何だよ、気になるだろそれ」
健人が興味津々に食いついてくるのを、三上が横から救ってくれた。
「まあまあ、他人の事情に首突っ込みすぎるのもよくないぞ、健人」
「そうか? いや、めちゃくちゃ気になるんだけど」
三上のフォローに助けられながらも、俺は内心で肝を冷やしていた。核心には至らなかったものの、確実に一歩、真実に近づいてしまった気がする。
*
その夜、澪から届いたメッセージには、反省の色が滲んでいた。
『今日、私のせいで危なかったね。ごめん』
『まあ、結果的に幼馴染ってことだけ明かす形になったけどな』
『うん……緩みすぎてた、反省してる。もう少し気をつける』
『まあ、通過の喜びで浮かれるのも分かるけどな』
澪の気の緩みは、決して悪いことではない。それだけ、心から喜べる出来事があったということだ。それでも、これ以上健人の勘を刺激しないよう、少しだけ気を引き締める必要がありそうだった。
第35話まで読んでくださって、ありがとうございます!
二次審査通過の喜びで、つい気が緩んでしまう澪と、それを鋭く見抜きかける健人。今回は「幼馴染」という部分だけ明かす形になり、真実にまた一歩近づいてしまいました。この伏線、今後どう転んでいくのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。




