第28話 保科さんへの言葉
澪からの連絡を待つ間、俺は落ち着かない気持ちを持て余していた。部屋の中をうろうろと歩き回っていると、間の悪いタイミングで健人から電話がかかってきた。
「――相馬、聞いてくれよ。文化祭の写真整理してたら、俺が持ち帰った端材の飾り、三上も同じの持ってて、なんか気まずいんだけど」
「今それどころじゃないんだ、悪い」
「え、なんかあったのか?」
「いや……何でもない。また今度な」
澪の一大事の最中に、まさかの端材トラブル相談が飛び込んでくるとは思わなかった。緊張感が一瞬でどこかに吹き飛び、逆に少し肩の力が抜けた気がした。
*
一時間ほど経った頃、ようやく澪から電話がかかってきた。緊張しながら応答すると、澪の声はいつもより少し掠れていた。
「――終わった、話した」
「大丈夫だったか」
澪はしばらく黙り込んだあと、ゆっくりと話し始めた。
「最初は、やっぱり厳しい反応だった。『今この時期に、そういう話をされても困る』って。でも……」
「でも?」
「私、ちゃんと自分の言葉で伝えた。相馬くんは、ただの噂の的になるような相手じゃないって。文化祭を通して、私がどれだけ支えられてきたかってことも」
澪の声には、確かな手応えが滲んでいた。
「保科さんは、しばらく黙ってから言ったの。『――分かった。今すぐ全部を認めるわけじゃないけど、あなたがそこまで真剣に考えているなら、頭ごなしに否定するようなことはしない』って」
「それは……」
「うん。完全なOKじゃない。でも、頭ごなしの反対でもなくなった。二次審査が終わるまでは、これまで通り目立った行動は控えてほしいって条件はついたけど」
澪の声には、安堵と、まだ残るいくらかの緊張が入り混じっていた。
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「――正直、もっと反対されると思ってた」
「俺もだ。でも、澪がちゃんと向き合ったからこそ、保科さんも聞く耳を持ってくれたんじゃないか」
「そうかな」
「ああ。三年前より、ずっと強くなったよな、澪」
俺の言葉に、澪は電話越しに小さく笑う声を漏らした。
「――ありがとう。でも、油断は禁物。まだ二次審査も控えてるし」
「そうだな。あと、健人の端材トラブルも解決してやらないといけないし」
「――え、何それ」
「三上と同じ飾り持ち帰ってて気まずいらしい」
「くだらな……でも、健人くんらしいね」
澪の声に、ようやくいつもの明るさが戻ってきた。
*
その夜、澪から届いた最後のメッセージには、これまでにない前向きな言葉が綴られていた。
『今日は、ちゃんと前に進めた気がする』
『ああ。次は二次審査だな』
『うん。文化祭の勢いのまま、頑張ってみる』
『応援してる。何かあったら、いつでも言えよ』
『――健人くんの端材トラブルほど気軽には頼らないけどね』
一つの約束を果たした澪の声には、確かな成長と、次への前向きな決意が滲んでいた。
第28話まで読んでくださって、ありがとうございます!
ついに澪が保科さんに向き合う回となりました。緊迫した展開の合間に、健人の端材トラブルというどうでもいい相談を挟んでみましたが、いかがでしたでしょうか。次話からは、いよいよオーディション二次審査に向けた展開に入っていきます。
いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。




