第26話 後夜祭の夜
文化祭最終日は、午前中の営業を終えると、午後は各クラスの出し物審査や部活動の発表に充てられ、夕方からはグラウンドで後夜祭が行われることになっていた。
「――打ち上げ花火まであるんだって。すごいな、うちの学校」
「毎年恒例らしいぞ。三上が去年の映像見せてくれた」
健人と話しながら、俺は後片付けを進めていた。三日間フル稼働した教室は、達成感と共に、どこか名残惜しい空気に包まれていた。
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夕暮れ時、グラウンドには生徒たちが続々と集まり始めていた。中央に組まれた大きな薪の周りで、実行委員会主催のフォークダンスや、有志によるステージ発表が予定されているという。
「――澪、こっち」
人混みの中で見失いそうになった澪の手を、思わず引いてしまった。澪は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに小さく頷いて隣に並んだ。
「――こんな風に手繋ぐの、学校では久しぶりだな」
「そ、それは、はぐれそうだったから仕方なく……」
「言い訳、下手すぎ」
俺がからかうと、澪は頬を膨らませながらも、繋いだ手を放そうとはしなかった。周囲の喧騒に紛れて、こういう小さな時間を持てることが、今の俺たちにとってはささやかな贅沢だった。
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薪に火が入ると、グラウンド全体がわっと歓声に包まれた。オレンジ色の炎に照らされる生徒たちの顔は、三日間の疲れも忘れたように輝いている。
「――なあ、健人。さっきから百面相してるけど、どうした」
「いや……このタイミングで告白する奴とか出てこないかなって、ワクワクしてるだけ」
健人がそう言った瞬間、離れた場所で本当に告白騒動が起き、周囲から歓声とからかいの声が上がった。健人は「ほら見ろ!」と我が事のように喜んでいる。単純というか、素直というか、こういうところが健人らしい。
「三上は?」
「あいつは、去年の反省を活かして、今年こそフォークダンスで転ばないようにって、さっきから足元ばっかり気にしてる」
振り返ると、確かに三上が真剣な顔でステップの練習をしていた。去年、盛大に転倒した過去があるらしい。有言実行というより、有恥実行だ。
*
澪と少し離れた場所に移動し、二人で炎を眺める時間ができた。
「――文化祭、終わっちゃうね」
「ああ。あっという間だった」
「色々あったけど、楽しかった。予算オーバーも、健人くんの人違いも、リハーサルの失敗も」
「その中に、お前の失敗も入ってるんだからな」
俺がそう言うと、澪はむっとした顔をしながらも、すぐに柔らかい表情に戻った。
「――ねえ、ユウ。前に約束したこと、覚えてる?」
「文化祭が終わったら、色々話すって話か」
「うん。そろそろ、その時が来たと思う」
澪の瞳には、炎の光が揺らめいていた。三年前の別れの日とは違う、確かな決意を宿した表情だった。
「――明日、保科さんに連絡する。ちゃんと、私の口から」
「分かった。俺も、覚悟しておく」
打ち上げ花火が夜空に上がる中、俺たちはそれぞれの決意を胸に、静かにその瞬間を見つめていた。
第26話まで読んでくださって、ありがとうございます!
後夜祭の夜、賑やかな中にも、二人にとって大切な決意の瞬間を描きました。健人の告白騒動への食いつきぶりや、三上の涙ぐましいリベンジなど、笑いも交えつつ、次話からはいよいよ澪が保科さんに向き合う展開に入っていきます。
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