第23話 文化祭、開幕
「――それでは、文化祭の開幕を宣言します!」
校内放送で実行委員長の声が響き渡ると同時に、校舎全体がわっと沸き立った。廊下には浴衣風の衣装を着た生徒や、着ぐるみで練り歩くクラスメイトの姿もあり、いつもの学校とはまるで違う空気が満ちていた。
「よし、開店するぞ!」
三上の合図で、教室の入り口に立てた看板の暖簾をくぐらせる。俺たちのクラスの出し物は、端材デザインの温かみのある内装が自慢の、軽食カフェだった。
「――いらっしゃいませ!」
開店直後、澪が緊張した面持ちで最初の来客を迎える。リハーサルの成果か、以前のような噛みっぷりはなく、思いのほかスムーズな接客だった。
「相馬くん、見た? 今の完璧だったよね」
「ああ。前日のあれは何だったんだ」
「わ、忘れてって言ったでしょ!」
澪が慌てて口を塞ぐ仕草に、俺は思わず噴き出しそうになった。
*
開店から一時間、店内は予想以上の盛況ぶりだった。健人はレジ担当として奮闘していたが、途中でお釣りの計算に詰まり、電卓を逆さに持ったまま真剣に悩んでいるところを三上に見つかった。
「健人、それ逆さまだぞ」
「――どうりで、さっきから答えがおかしいと思った」
平然と言い放つ健人に、周囲から呆れた笑いが漏れる。だが本人はまったく気にする様子もなく、電卓を正しい向きに直して再び集中し始めた。こういう肝の据わり方は、ある意味羨ましいものがあった。
*
昼過ぎ、少し客足が落ち着いたタイミングで、俺は備品の補充のために裏の物置に向かった。すると澪も同じタイミングで顔を出す。
「――お疲れ。忙しいな」
「うん。でも、楽しい。こんなに賑わうと思ってなかった」
澪の頬は上気し、額にはうっすらと汗が滲んでいた。教室でいつも見せる愛想笑いとは違う、心からの充実感が滲む表情だった。
「あとで、健人の電卓事件、みんなに広めていいか」
「――やめてあげて。本人、地味に気にしてたから」
「気にしてる感じ、まったくしなかったけどな」
「ああ見えて、繊細なところもあるんだよ、あいつ」
澪の意外な健人評に、俺はふっと笑いがこぼれた。
*
夕方、初日の営業が無事に終わり、実行委員たちは疲れながらも達成感に満ちた表情で片付けを始めた。
『初日、大成功だったな』
『うん。明日も頑張ろう』
『健人の電卓事件、澪が庇ってたって言ったら怒るかな』
『――言わないでって言ったのに!』
文化祭初日は、こうして小さな笑いと確かな手応えを残して幕を閉じた。
第23話まで読んでくださって、ありがとうございます!
ついに文化祭が開幕しました。健人の電卓事件など、初日から賑やかな一日になりました。澪の意外な健人への気遣いも見えた回でしたが、いかがでしたでしょうか。文化祭は明日も続きます。
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