第22話 前日、最終チェック
「――よし、備品リストと照らし合わせて、過不足がないか確認するぞ」
文化祭前日の放課後、教室には実行委員全員が集まっていた。机や椅子を運び込み、看板を立て、最後の装飾を施す。ここまで積み重ねてきた準備の、いよいよ総仕上げの日だった。
「相馬、レジ用のお釣り、両替してきた?」
「ああ、健人が言ってた通り、千円札多めにしてきた」
「――え、俺そんなこと言ったっけ」
健人がきょとんとした顔で首を傾げる。三上が呆れたようにため息をついた。
「お前が三日前の会議で力説してたんだよ。『会計は千円札命』って」
「そんな名言、俺が言ったのか……なんかカッコいいな、採用しよう」
誰も採用してくれと頼んでいないのに、健人は満足げに頷いている。こういう緩さが、健人らしいといえば健人らしかった。
*
澪は内装班の最終チェックとして、手作りの飾りつけを一つ一つ確認していた。予算オーバーの危機を乗り越えて完成させた、端材を活かした飾りだ。
「――我ながら、よく出来たと思わない?」
「思う。最初はどうなることかと思ったけどな」
俺がそう答えると、澪は満足げに笑った。だがその直後、飾りの角に袖を引っかけて、危うく倒しかけた。
「――っと!」
「危な……澪、それ三週間かけて作ったやつだぞ」
「わ、分かってる! ちゃんと支えたし!」
慌てて飾りを抱きかかえる澪の姿に、思わず笑いがこみ上げる。完璧に見える澪にも、こういう抜けたところがあるのだと、俺は改めて実感した。
「――今の、笑った?」
「笑ってない」
「絶対笑った」
じとっとした視線を向けられ、俺は慌てて視線を逸らした。
*
準備がすべて整った頃、教室に夕日が差し込んでいた。三上と健人が「明日は本番だぞー!」と謎のかけ声で気合を入れる横で、俺と澪は完成した教室を眺めていた。
「――明日から、いよいよか」
「うん。今までの頑張り、ちゃんと形にできるといいな」
澪の横顔には、緊張と期待が入り混じった表情が浮かんでいた。三年前とは違う、こうして誰かと同じ目標に向かって頑張れる今の日々が、俺にとっても大切なものになっていることに、改めて気づかされた。
*
その夜のメッセージには、いつもより短い、けれど気合の入った一文が届いた。
『明日、頑張ろうね』
『ああ。備品の搬入は俺に任せろ』
『うん。飾りは、もう倒さないように気をつける』
『さっきの話、まだ根に持ってるのか』
『――忘れて』
文化祭前日の夜は、こうして少しの緊張と、たくさんの期待を抱えたまま更けていった。
第22話まで読んでくださって、ありがとうございます!
いよいよ文化祭前日となりました。健人の謎の名言騒動や、澪のちょっとした失敗など、今回もくすっと笑える場面を挟みつつ、次話からはついに文化祭本番に突入します。準備期間が長かった分、感慨深いものがあります。
いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。




